第53話 深夜の相談

 深夜、4人揃って訪れていた店を出た。

 まずは全員に浄化魔法を掛けて汚れと服や体に付いた臭いを浄化する。


「よし、じゃあこれやるから半分くらい飲め」


 俺は酒瓶を4本取り出してディムたちにも配る。


「これは?」

「夜遊びして来て酒の臭いもしないと不自然だろ?」

「なるほど……クリードさん遊び慣れてますね」


 失礼な、慣れてないぞ?


「まぁこれなら留守番してたハンスも怪しまないでしょうしちょうどいいのでは?」


 そう言ってロディは封を空け中の酒を一気に呷った。


「っく……中々キツいですね……しかし美味い」


 一気に飲むのは止めてチビチビ飲むようだ。


 それを見たディムとクレイもロディに習って1口飲む。


「おぉ、いい酒だな」

「兄貴これ高かったんじゃ?」

「いくらだったかな? 確か1本大銅貨1枚くらいだったかな?」


 ディムたちが会計をしている間に店員を捕まえて急いで精算したし多少酒も入っていたので気にしてなかった。


「まぁ気にするな、いい店教わったしこれくらいはね」

「まぁ兄貴がそう言うなら……」


 俺たちは感想を述べあったりくだらない話をしながら宿へと戻った。


「じゃあ頼んだぞ」

「わかった、そっちも頑張れよ」


 宿の2階でディムたちと別れ自室に戻る。

 面白いやつらだったし楽しい時間だった、これは気持ちよく眠れそうだ。


 鼻歌でも歌い出しそうな気分で自室の扉を開けると、周りに小さな火の玉をいくつも浮かべてベッドに座るリンが居た。


「ひぇぇ」


 あまりの驚きに情けない声が出たが仕方ないだろ?

 火の玉に照らされたリンがとても怖く見えた。


「おかえりクリード、遅かったわね?」

「あ……あぁ、ただいま……」


 とりあえず怖いので光源の魔法を展開して部屋を明るくする。

 リンもそれに合わせて火の玉を消したのでようやく安心することが出来た。


「それで……こんな時間までどこに行ってたの?」


 アレ? 不味かった?

 別にいいかと思って誰にも声をかけずに出たけどよろしくなかったのかな?


「あぁ、ディムたちに誘われて出掛けてたんだ」


 手に持っていた半分ほど残った酒瓶を見せながら言う。


「ディム?」

「覚えてない? ケイトのパーティメンバーの戦士。他にも戦士のクレイと魔法使いのロディも居たよ」


 リンは少し考えて思い出したのか、あぁと返事を漏らした。


「知り合いと出掛けていたのね?」

「そうだよ。まずかった?」


 怒られるのかな……

 20歳も過ぎて夜遊びで怒られるってなんだか不思議な気分だな。


「別に怒ってる訳じゃないのよ? ソフィアが【気配察知】でクリードの部屋に誰か来たのを察知してね、それから出掛けて行ったからもしかしたら変な冒険者に絡まれたのかな? って思ってたのよ」

「あぁ……心配掛けてごめんね」


 素直に謝ろう。

 下手な言い訳は余計怒られるからな。


「別にそこまで心配はしてないわよ? クリードならそこらの冒険者が束になっても怪我ひとつしないだろうし……まぁそういうことも有り得るから次からは一言掛けてから行って欲しいわね」

「わかった。配慮不足だったよ」

「お願いね。あたしたちもそんな時は声掛けるから」


 ふぅ、そんなに怒られなくて良かった……


「それにしても……クリード、まさか」


 リンは立ち上がり俺の近くまで来てスンスンと匂いを嗅いでくる。

 ちょ……近い!


「お酒の臭いも薄いし……浄化魔法使ったわね?」

「え? いや……」


 なんでわかるの!?


「それにこの時間、男4人……なるほどねぇ……」


 なにかを察してウンウンと頷くリン。

 なにを察したの……


「ずっと女の子に囲まれてるんだし仕方ないのかもね? でもあまり変なお店に行っちゃダメよ?」

「え……あ……は、はい……」


 あかん、バレてはる……


「そんなに溜まってるなら……あたしが相手してあげてもいいのよ?」


 そう言って妖艶な笑みを浮かべるリン……それはまずいって!


「何言ってんの……受けても断っても空気悪くなること間違いなしじゃないの……からかうのも程々にしてよね」

「あら? 別に構わないのに」


 ふふ……と笑ってからようやく離れてくれた。


「年増には興味無いのかしらね?」

「だから辞めろって……」


 降参、と両手をあげるとリンは先程の妖艶な笑みとは打って変わってケラケラと笑っていた。


「それよりちょっと相談があるんだけど」

「あら珍しい、何かしら?」


 ベッドにはリンが座っているので俺は備え付けの椅子を引いてそこに座る。


「まぁディムたちに呼び出された理由なんだけどね……ケイトをうちのパーティに入れて欲しいんだって」

「ケイトを? それはケイトの希望なの?」

「いや、ディムたちの希望だね」


 ことのあらましを説明するとリンはふむ……と少し考える。


「なるほどね……確かにあのパーティで居るよりうちに来た方がケイトは成長するだろうし、それだけの覚悟があればディムたちも成長出来るでしょうね……」

「とは思うよ。けど俺が勝手に許可するわけにもいかないから相談はしてみるって答えといた」

「それでいいわ。あたしとしては反対はしないけど……朝になったらみんなに聞いてみましょうか」

「そうだね」

「えぇ、話は終わり?」


 頷くとリンは立ち上がり扉に向かって歩いていく。


「じゃあおやすみ、今夜のことは黙っていてあげる」


 最後の最後にイタズラっぽく微笑んでリンは部屋を出ていった。


 ほんと……変な勘違いしそうだからやめて欲しいな……


 一息ついて布団に入る……

 そうだ、寝る前に……


「ウルト、聞こえるか?」

『はいマスター、お呼びでしょうか』


 ウルトに今日の確認をしておかなければ。


「今日はどうだった?」

『はい、6階層にて地図作成、魔物討伐を行いました。地図は完成、魔物は数が少ないのか今はほとんど感知出来ません』


 地図作ってたの?

 魔物の数が少ない、倒しすぎるとポップ遅くなるのか?


『この階層の魔力濃度が多少薄まっているようです』

「それは魔物を倒しすぎたからとかかな?」

『可能性はあります。どうしましょう、7階層へ移動しますか?』

「そうだな……」


 ステータスを開いて確認すると、昨日から2つレベルが上がっていた。


「よし、7階層の地図作成と討伐を頼む。今日みたいに魔物の数が明らかに減ってきたら連絡してくれ」

『かしこまりました』


 これでレベル上げとマッピングが同時進行で出来るのか……

 俺は迷宮にすら入ってないのに便利な事だ。


 さて寝るかな……


 サーシャたちはケイト加入についてどう思うかな?

 反対はしないと思うけど……まぁ明日聞いて見ればわかるか。


 多少の不安を抱えながらも心地よい疲労のためか俺はあっさりと眠りに落ちていった。

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