第49話 素材

「ほぅ……これは……」


 店員が連れてきた初老のマッチョ……親方は裏庭のグレートウルフを触りながらそんな声を漏らした。


「ふむ……これはいい防具に加工できそうだ」


 よし、使えそうだな。


「それで……」


 それから話は交渉へと移る。


「牙と爪は武器に使えそうだな、コイツの皮や毛も大層な素材だ。コイツを使って注文の装備をさらに強化すればいいんだな?」

「そうですね、それで強化出来るなら」

「間違いなく出来るな。これらの素材は――」


 そこから親方の長い説明が始まったがあまり興味は無いので聞き流した。


 かっこいい剣や鎧は好きだけどそれをどう作るかとかはあんまり興味無いんだよね。


「それで余った素材なんだが……ギルドに売るのか?」

「そういや考えてなかったな、ギルドマスターから売ってくれとも言われてないし……」


 言い忘れたのか買い取れないと判断したのかはわからないが何も言ってなかった。


「もし良かったらだが、うちで引き取らせてくれねぇか? 金額は……大金貨1枚が精一杯だが今回の依頼料は無料にするし装備を注文してない嬢ちゃんたちのローブもコイツの素材で作ってやる。もちろん受け取ってる金も返金する、これでどうだ?」


 ふむ……俺個人としては別に素材とか要らないし金もそこまでだしなぁ……


「サーシャどう思う?」

「クリード様とケイトさんの成果ですのでクリード様がお決めになればいい思いますよ」


 だよなぁ……俺としては親方の条件で全然構わないんだけど……そうだ!


「実は別でもう1人いるんだ、そいつは今使ってる装備を強化するか俺たちみたいに別の素材も持ち込んで新調するかはわからないけどそいつの料金をいくらか割引いてもらえないかな?」


 もう1人とはもちろんケイトのことだ。


「お安い御用だ、内容次第だがタダでやってもいい」


 ほう? ならもう少しがめつく行ってもいいかな?


「それとこれは可能ならでいいんだけど、剣が打ち上がるまでの繋ぎが欲しいんだ。剣が出来たら予備に回すからそれなりの剣を安く売ってもらえないかな?」

「わかった! だが金は要らん、グレートウルフの素材にはそれだけの価値があるからな!」


 おぉ、結構攻めたつもりだったんだけどあっさり飲んだな。

 まぁこれ以上求める気は無いしこれでいいか。


「タダでいいのか? ならお言葉に甘えて……」

「おぅ! 他はなんかあるか?」

「いや、特に無いかな? その条件でいいよ」

「そうか、まぁこっちとしちゃありがてぇ、すぐに金と剣は用意する。それとコイツを解体する人手か……」

「あぁ、解体ならこっちでやるよ」


 ウルトが俺の命令を察したのかすぐに【無限積載】を発動する。

 牙、爪、毛皮、残りの順に積み込み、これで解体完了だ、

 まぁほぼ一瞬のことなので余程注意深く見てないとグレートウルフをそのまま回収したようにしか見えなかっただろう。


 それから改めて素材を出現させ親方に渡す。


「驚いたな……まさかあの一瞬で解体するとは……これもスキルかい?」

「まぁね、詳しくは教えられないけど」


 そもそも俺もわからんし。


「当然だな、じゃあ金と剣を取ってくるから表の方で待っててくれ」


 行くぞと店員を引き連れて親方は工房へと入って行った。


 俺たちも言われた通り表に移動して待つ。心做しかソフィアとアンナは嬉しそうだ。


「なんか嬉しそうだね」

「やはり騎士として強力な武具が手に入ると言うのは心躍ることですので」

「自分もッスね、ミスリル装備だけでも飛び跳ねて喜びたいくらいなのに伝説の魔獣と言われているグレートウルフの素材まで使われるとか夢みたいッス!」


 おぉ……圧がすごい……


 アンナはまぁたまにあるけどソフィアの圧がここまで強いのは初めてかもしれない。


「新しい装備にワクワクする気持ちは俺にも分かるよ、早く出来上がって欲しいな」


 そんな話をしていると親方と店員が袋と剣を持って現れた。


「待たせたな、まずは金だ、素材購入の大金貨1枚と依頼料として貰っていた金貨3枚だな」


 親方は袋から硬貨を取り出し手渡してきた。


「それから剣だ、これは魔鉄と鋼を混ぜ合わせて打った剣だ。ウチの弟子の中でも腕のいいのが打った剣だから品質は保証するぜ」


 受け取って鞘から少し引き抜くと薄く黒光りする刀身の綺麗な剣だった。


「こんな綺麗な剣本当にタダでいいのか?」

「いいってことよ! お前らの装備も丹精込めて打つから完成を楽しみにしといてくれ」

「分かった、ありがとう」

「おう!」


 軽く手を挙げて親方たちと別れ外に出る。

 まだ昼には早そうだな……


「クリード様この後はどうされますか?」

「そうだなぁ……特に予定もないし迷宮にでも行こうかな?」

「迷宮ですか?」

「うん、攻撃魔法の練習にね。あとは子供たちに飯と仕事をね」

「そうですか、とてもいい事だと思います」


 他にも目的はあるけどね。


「サーシャはどうするの?」

「私は2人と一緒に街を見て回ろうかと」


 たしかにギルドと宿と工房、武器屋くらいしか回ってないもんな。


「分かった。じゃあ行ってくるよ。夕飯までには戻れるようにするから」

「分かりました。お気を付けて」


 工房の前でサーシャたちとも別れ小走りで迷宮へ向かう。


 途中何人かの冒険者風の人とすれ違ったが特にトラブルもなく到着、30分もかからないくらいだったな。


「腹減ってるかー?」

「お兄ちゃんだー!」

「お兄さーん!」


 真っ直ぐ子供たちの近くへ行き声をかけるとわらわらと子供たちから寄ってきた。

 完全にご飯くれるお兄ちゃんだと認識されてるなこれ。


「あの……これ!」


 子供たちの中の1人が銅貨と石貨を数枚差し出してきた。

 なんぞ?


「ん? 別に払わなくてもいいぞ?」

「ううん、昨日のウサギの分! ホントは昨日渡したかったんだけど会えなかったから……ごめんなさい」


 昨日の? あぁ、狩りの途中てオーバーフロー起きたからすっかり忘れてたわ。


「わざわざ換金してくれたのか?」

「うん、ホントは冒険者さんからしか買い取らないんだけど特別だよってしてくれた!」


 まぁ昨日はアレだったからな、職員も気を使ったのだろう。


「分かった、受け取るよ。昨日途中だったからまた着いてきてくれるかい?」

「うん!」

「まぁ先に飯だな」


 子供たちを引き連れ露店で色々と購入、ついでに俺の昼飯もここで済ませてしまおう。


 そうだ、今のうちに……


「ウルト、6階層か7階層、人の居ない階層まで行ってひたすら魔物討伐してもらっていいかな?」

『パワーレベリングと言うものですね? かしこまりました』


 ポケットからウルトを取り出しそっと地面へ。

 すぐにウルトは走り出してすぐに見えなくなってしまった


 思い付きでやってみたけど大丈夫かな? 人の居ない階層にたどり着くまでに見つかったりしないかな?


 まぁ【生命感知】もあるしあれだけ小さくなってれば見つからず進めるか。

 ボス部屋、安全地帯だけ不安だけどまぁなんとかなるか……


 手早く食事を終えて子供たちを観察、早く食べ終わった子から順に5人連れて迷宮に入る。


 中で10匹倒したら終了、外に出て狩ったばかりの角ウサギと魔石を換金、銀貨1枚と銅貨1枚で売れた。


「よし並べ」


 5人を1列に並ばせて1人ずつ銅貨と大石貨を1枚ずつ渡して浄化魔法を掛けてやる。


「え?」

「こんなに?」


 こんなに貰えると思ってなかったのか子供たちは目をぱちくりさせている。


「お疲れ様、じゃあ次は君たち行こうか」

「はい!」


 5人と別れて今度は別の5人を連れて迷宮へ、同じように10匹狩ったら迷宮を出て換金。

 同じ金額を渡して浄化魔法を掛けてやりまた別の5人を……


 それを数回繰り返して最後に残った3人を連れて迷宮に入る。

 今回は3人なので6匹の角ウサギを魔法で仕留めて外へ出る。


 今回もギルドの出張所に売却に行くが売るのは魔石だけ。


 子供たちに銅貨1枚と大石貨1枚を渡して浄化魔法をかける。


「うさぎ売ってないのにいいの?」

「いいよ。誰かに盗られないように気をつけるんだぞ?」

「うん! ありがとう!」


 時刻は4時半頃、引き上げるにはいい頃合いだな。


「じゃあまた来るから」

「バイバイ!」

「ありがとうお兄ちゃん!」


 子供たちに手を振り別れてそのままいつも串焼きを買う露店に移動する。


「らっしゃい、また買ってくれるのかい?」

「いや、お裾分け。いつも世話になってるからね」


 角ウサギを1匹差し出すがおっちゃんは受け取らない。


「1匹丸ごとかい?」

「迷惑かな?」


 やっぱり解体してからの方が良かったか……


「いや、そんなことは無いんだが……いいのかい? 俺は商売してるだけだぜ?」

「まぁ俺が勝手に世話になってると思ってるだけだから受け取ってよ」


 グイっと前に出すとおっちゃんはようやく受け取ってくれた。


「はぁ……よくわからん兄ちゃんだな、ありがたく受け取らせてもらうよ」

「良かった、また美味い串焼き期待してるよ」

「おぅ! また来てくれよ!」


 それからもよく子供たちが行く露店に角ウサギを配って回る。

 最初の店でのやり取りを見ていたのかみんな快く受け取ってくれた。


 やることを終えたので街まで走って戻る。

 明日は何するかなぁ……

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