間話1 召喚された勇者
幼なじみたちと集まり学校へと向かう途中、いきなり地面が白く光ったことは覚えている。
気が付くと見慣れた通学路では無くどこかの部屋の中だった。
慌てて周りを見れば見慣れた顔が4つ。俺の大切な幼なじみたちだ。
それと見知らぬおじ……いや、お兄さん。
俺たちが全員しっかりと制服を着用しているのに対しこのお兄さんはTシャツにハーフパンツと言った今まで寝てましたと言わんばかりの格好をしている。
もう朝の8時を過ぎているというのに……ニートだろうか?
「済まぬが移動願えるだろうか?」
少し離れた場所に何人かの人がいることには声を掛けられて気が付いた。
移動しろと聞こえたがこんな拉致みたいな事をされて大人しく従ってもいいものかと少し悩む。
「
従うべきか逆らうべきか、悩んでいると幼なじみの1人、
「え? あぁ、腰の剣か……」
暗くてあまり良く見えていなかった。
こういう時賢人は本当に周りが良く見えていて頼りになる。
普段はオドオドした陰キャを地で行く賢人だが全国でもトップクラスの頭の良さと抜群の観察眼を持っている頼れる男だ。
「どうする? あっちの方が人数多いしここは大人しくしとくのがいいと思うけど」
反対から声を掛けてきたのはこいつも保育園の頃からつるんでいる幼なじみである
知也は中学時代に柔道、空手両方で全国ベスト4に入る武闘派でその強さからか常に落ち着きを忘れない賢人とは違う方向で頼りになるやつだ。
「そうだね……ここは大人しく従っておこう。あのお兄さんもそのつもりみたいだし」
Tシャツハーフパンツのお兄さんは1番に立ち上がり声を出した男に着いていく姿勢を見せている。
俺たちより年上っぽいし声を掛けるべきか?
いやでもニートっぽいし頼りにならないかもしれない。
「知也、なんかあったら俺たちで賢人たちを守ろう」
「得体の知れないヤツらに勝てるかは分からないけど……なんとか逃げる時間くらいは……」
俺と知也は頷き合いまだ座ったままの女の子2人、
案内されて通された部屋には偉そうな人たちが待ち構えていた。
まずは座れと言われたので並んで座る。
ニートさんが端に腰掛けたので一応俺はみんなとの間に入るようニートさんの隣に腰かけた。
みんなにニートが移ったら困るしね!
俺たちが席に着くとでっぷりとしたおじさんが話し始めた。
「ここまで御足労ありがとうございます勇者殿方。私はこの国で宰相を務めるエラルド・カーチスと申します。以後お見知り置きを」
そう自己紹介して綺麗な所作で一礼した。
すごいな、醜く肥太ったあの体であんな綺麗な動作で……ってダメダメ!
人を見かけで判断するなんて最低な行為だ、気を付けないと。
「そしてこちらに御座すは我らがエルヴニエス王国国王、エルリック・セラフ・フォン・エルヴニエス国王陛下です。皆様粗相のないようにお願いします」
次に紹介されたのは国王様らしい。
すごくマッチョでイケメンなおじさんだ。
えっと、粗相の無いようにって失礼の無いようにってことだよね?
「皆様を召喚するに至った経緯としましては、伝説に謳われる魔王が復活しまして……我々も立ち向かいましたが歯が立たず、藁にもすがる思いで伝承に残っていた勇者召喚を行ったところ皆様が現れた、ということです」
両サイドの2人、例のニートと賢人が僅かに身を乗り出したのがわかった。
賢人はゲームとかライトノベル? とか好きだから勇者って言葉に惹かれたんだろう。
隣のニートは……そんなものに興味持つくらいならきちんと働けばいいのに……
ニートとか引きこもりってもっと太ってて髪もベタベタで無精髭生やしてメガネ掛けてるイメージだったけど、この人はきちんと髪も整ってるし無精髭も生えてない。
さっき歩いてる姿後ろから見た時もしっかり鍛えてる感じの体型と歩き方だったのになんで働かないんだろ?
もしかしてこの前賢人が言ってた美少女が筋トレするアニメに影響されてジム通いでもしたのかな?
そんな暇があれば働けばいいのに。
「まず皆様にはステータスの確認を行って頂きます。紙とペンをお配りしますので、ステータスを書き写してください」
ステータス? まるっきりゲームみたいだな……
俺はあんまり詳しくないけどそういうのは賢人が詳しそうだから後で聞いてみよう。
「ステータスオープンと唱えてください。そうしますと自分のステータスが表示されますので」
「ステータスオープン」
隣のニートが真っ先に唱えたので俺も慌てて続く。
「ステータスオープン」
◇◆
名前……
職業……勇者
年齢……17
生命力……C 魔力……C 筋力……C 素早さ……C 耐久力……C 魔攻……C 魔防……C
スキル
【神器召喚】【魔法適性(光、雷)】【剣術】【堅牢】【剛腕】【限界突破】【ブースト】
◇◆
「勇者……?」
自分のステータスを見て小さく声が漏れた。
他の人を見てみると俺の声には気づかず何度か瞬きをした後紙に自分のステータスを書き写し始めた。
反対側に座るニートを見ると、何も無い場所を見つめて固まっている。
どうしたのだろう? もしかして職業って文字に驚いてるのかな?
ニートだから無縁だろうし。
まぁニートは放っておこう、俺より年上なんだから最低限自分のことくらいはしてもらわないと……
俺もみんなに習って自分のステータスを書き写して提出した。
集めた人はそれをエラ……エラ……エメラルド? 宰相に手渡した。
「ふむ、忍者に賢者、聖騎士、剣聖に勇者……ん?」
おそらく俺たちの職業だろう、それを読み上げていたエメラルド宰相の動きが止まった。
「トラック……運転手?」
トラック運転手? あぁ、だからこのニートは固まってたのか。
トラック運転手ってすごいきつい仕事で給料も安いいわゆるブラックだってパパが言ってたし。
無職のニートがいきなりそんなことやれって言われて固まっちゃったんだな。
「陛下、なにやら変な職業が混ざってしまった様子。職業も聞いた事のない職業ですしステータスも……平均よりはやや上ですが他の勇者殿方とは比べ物になりません」
「左様か……強者の集団に1人でも弱者が混ざると機能せん。その者にはいくらか金を渡してお引き取り願え」
「かしこまりました、おい!」
エメラルド宰相は近くの男の人になにか言っている。なんだろう?
あ、小走りで出て行っちゃった……
「クリイド殿、すまぬが貴殿に勇者としての力は無いようだ。しばらく困らぬよう取り計らうので勇者殿方の邪魔をしないようにしてもらえぬだろうか?」
クリード? この人の名前かな?
クリードって……この人日本人じゃないのかな?
それより邪魔しないように?
「お持ちしました」
「うむ、ではクリイド殿、これを持って行くがいい。そこの騎士に城外まで案内させる」
壁際に居た兵士さんが出てきてクリードさんを連れて行ってしまった。
あれ? 追い出された?
邪魔するなとも言われてたし、ニートはこっちでもゴミクズってことか……
あぁはならないようにしないとな……
注意……運送業を貶すような描写がありますがあくまで勇者くんと勇者くんパパの個人的見解です。
運送業会を貶める意思は作者にはありません。
作者もトラック運転手です。仕事は割と好きです。
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