鑑定地獄

 シオンと共に騎士の集められた場所で待機していると、ハインツを引き止めていた者たちを含め数人の密偵が捕らわれたとロワーズから直接伝えられた。


「それからイアン――ユージーンと言ったか? あの密偵は捕らえたが、イアンに付いていた下男はすでに姿を消していた。イアンが連れて来ていた使用人と騎士も密偵だったようだ。捕らえる前に二人とも自害した」

「そうなんですか……どうして密偵はシオンを狙ったのでしょうか?」

「ユージーンは何を言っているかよく分からないが……シオンについては、私の子供だと完全に勘違いをしているようだ。クライスト家の子供は殺すと復唱している」


 ユージーンは気が触れたかのように同じ事を何度も呟き、時折暴れているそうだ。拘束して自害できぬようにされているらしい。きっとスキルの弊害なのではないかと思う。そう思うとスキルって怖い。


「シオンのことをロワーズさんの子供と勘違いしたということですか?」

「ああ。守ると約束したのに、私のことで逆に危険に晒してしまい言葉がない。申し訳ない」


 ロワーズが膝を付き謝罪する。周りに騎士がいるこの場でそれは目立つのでお願いだからやめて欲しい。


「ロワーズさん、違いますよ。あのような奴らはどうやっても湧いて現れます。確かに巻き込まれたといえばそうなのですが、私たちはロワーズさんたちに助けて頂けなければ死んでいたと思います。なので、悪いのは犯罪行為をする者です」

「――気遣いを感謝する。それで、図々しく願うのだが……エマの鑑定に頼りたいと思っている。これから、それぞれの隊を個別に鑑定する予定だ」


 ロワーズが言うには、隠匿を見破るには高い魔力がいるそうだ。私と同じ鑑定のスキルも持ちであるレズリーにも鑑定はさせるそうだが、隠匿のレベルが高いほど見破るのは負担と時間が掛かるそうだ。もちろん世話になっているし、今まで鑑定した分で特別身体に負担を感じたことはなかったので提案を受け入れる。とにかく、シオンを狙った人達をいち早く捕まえて安心したいという気持ちもあった。


「分かりました。私にできることでしたら協力します。ただ、表立って目立つようなことはしたくはありません。ご配慮頂ければと思います」


 協力するのはいいけれど、変に目立つのは困る。ロワーズは私の条件を快く受け入れた。


「エマ、よろしく頼む」

「はい」


 ロワーズとレズリーの話では、結局目撃した紫色の狼煙を上げていた下男は捕らえることができなかったそうだ。まぁ、モブ顔だし……上手く逃げたのだろう。私の見た人相が素顔かは結局のところ分からないけど……。

 集められた騎士には、詳しい詳細を省いた大まかな事件の概要が説明された。騎士の中にはやや動揺する者もいたが、殆どは真剣にロワーズの話を、表情を変えずに聞いてた。


「敵は卑怯なやり方でこちらに入り込んでいた。ペチャムの皮を被り、魔物を野営地に誘導していた。その様な卑怯者に我々は怯えるのか? 違うだろ。これを機に一層訓練に励み敵に打ち勝て!」


 ロワーズが大きな声で言う。その力強いスピーチで騎士たちの顔つきが変わり声援が上がる。

 それから騎士たちを一隊ずつ鑑定して回った。私の存在は騎士たちから見えないように配慮してもらったが、この人数を一人で担当するのがつらい……。これ今日終わるのだろうか?

 聞けばレズリーは下働きを中心に私と同じ量の鑑定をしているという。レズリーもご愁傷さま……。


 この騒動により北の砦への移動は延期となったと騎士の鑑定の途中でハインツに伝えられた。それでも二日以上は食材の関係で延期は不可能とのことだった。


「それは明日までに鑑定を終わらせろということですよね?」

「僭越ながら……」


 ハインツが視線を逸らしながら言う。


「が、頑張りま~す」


 それから次から次へと終わらない鑑定を続けた。

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