消し忘れ

バロン

年齢:四十五

種族:人族

職業:セラール聖国密偵

魔力:3

体力:4

スキル:言語、 長剣、短剣、索敵、戦闘、快速、殺気、防御、精神耐性、 (隠匿)(暗殺)(暗器)(強姦)(虐殺)

魔法属性:水

魔法:生活魔法、水魔法

称号:(元盗賊)(亞人の敵)


 また例のセラール聖国の密偵という肩書……このバロンという男も隠匿持ちで変装中なの? でも、その割には固有スキルはない。どうやってハインツに瓜二つなのだろうか? 目を凝らしながら再びバロンを鑑定すると顔面の近くに何か表示が現れる。


変身のスクロール――対象者の髪や血などをスクロールに吸収させることで対象者の顔の面を偽造できる。(所要時間は二時間)


 そんなことができる物があるの? スクロールって巻物ってこと? そんな道具があることを初めて知った。顔だけがハインツに偽装していたからやけに身体の大きさに違和感がしたってことか……。私も世間知らずかもしれないけれど、卑怯じゃない? こちらは数日前にこの世界に到着したばかりなので、そんな道具があるなんて分かる訳がない。


「では、早くその子供をこちらに」


 ハインツの顔に扮したバロンがにやけた顔でシオンに手を伸ばす。そんな気味の悪い顔でハインツに変装出来ていると思っているの?


「子供は、私が抱えますので結構です」

「ちっ。左様ですか、それでは安全な場所へ移動しましょう。さぁ、早く」


 声を潜め、シオンに強い光を出したら安全空間セーフスペースに入り私がいいと言うまで出て来ないようにと伝える。シオンが頷きながら耳打ちをする。


「あのひと、ハインツさんじゃない」


 勘のいい子だ。シオンも違和感から偽ハインツを鑑定していたのだろう。


「そうだね。シオンは心配しなくてもいいから。それじゃ、いくよ。準備はいい?」

「うん」

 

 シオンが緊張したような顔で返事をすると、すぐに車のハイライトの数車分の光を一気にバロンへと向ける。急な光で目を開けることができなくったバロンが叫ぶ。


「ぐぅわああ。なんだ!」

「シオン、今だよ」


 無事にシオンが安全空間に入るのを確認、ハイライトを消すと半目のハインツが辺りの家具に八つ当たりを始める。飛んできた家具に当たらないように

避ける。人と家具の区別がつかないバロンは大声で叫び散らす。


「くそアマ! どこに行きやがった!」 

「ハインツさんは、そんな下品な話し方はしませんよ」


 徐々に視界の晴れたバロンが辺りを見回し焦ったように声を裏返す。


「ガキはどこに行った!」

「なぜ、あの子供に執着しているの?」


 明らかにシオンをターゲットにしたかのように口調がどうも引っ掛かる。だって、私たちは数日前に現れた無関係の客人のはずだ。なんで私とシオンを狙うの? バロンが私を掴もうと動けば光の魔法をその手に集中して再びハイライトを顔に直撃させる。


「なんだ、その攻撃は……ただの女だと思ってたが、光魔法持ちか。魔力も多そうだし、高く売れそうだな」


 バロンがハインツの顔でゲスな笑みを浮かべ、こちらを上から下まで舌なめずりしながら見てくる。その顔でその表情と行動は凄く不快だ。

 表の護衛はこれほど騒いでいるのに、天幕の中を確認すらしない。護衛が外にいなければおかしく思われるはずだけど……何か防音的な魔法か魔道具を展開しているのだろうか? 随分と用意周到で気持ちが悪くなる。


「ガキはどこにやった? ガキは始末するよう命令を受けているからな。お前は俺が可愛がって、用が済んだら高く売ってやるよ」


 この男は何を言っているの? シオンを始末するって戯言を言ったの? 芯から制御できないほどの怒りが湧き上がってくる。たぶん、今の私の顔は歪んで醜い。


ドドン

『殺気のレベルが上がりました』

ドドン

『殺気のレベルが上がりました』


「お前みたいなクソ虫に子供は渡すわけないでしょう?」


 ブワッと魔力の吸い取られる感覚がする。そうだった……妄想魔法をオンにしたままだった。

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