虫の送り主
妄想魔法をオンにして小さな蠅を妄想する。注目を集める小さい何かって想像した時に鬱陶しい蠅が出てきた。小さな虫はなんで存在感があれほど大きいのだろうか。蚊も面倒――あ……。
ブーンと目の前に蝿と蚊が現れる。蚊も出てしまったか……まぁ、どっちとも迷惑には変わりないから大丈夫でしょう。さぁ、二匹とも行け! ロワーズの元へ。
二匹が我先と喧嘩しながらロワーズの元へと猛スピードで向かう。蝿と蚊にも意思があるのだろうか?
ロワーズの元に到着した二匹、早速耳元でブンブンと羽を鳴らすが軽く叩かれ追い払われる。もちろん妄想魔法には触れることはできないので、叩き落とせないのだけどね。蝿と蚊は何度かロワーズの回りで徘徊させ注意を引こうとしたが全く見向きもされない。もっと目立たせないと。
蚊をロワーズの見える位置に配置、手の甲の血を吸うフリをさせればパシンと叩く音がする。
(よし、注意は引いた)
虫を叩いた手の中を確かめるロワーズに虫たちダブルキャストでお送りするシャッフルダンスを披露させる。しばらくキレよく踊る虫たちを見ながら固まったロワーズがギロリとこちらを睨み騎士たちとの会話を切り上げる。
「――話は以上だ。各自よろしく頼む」
話の終えたロワーズが不機嫌に尋ねる。
「して、あの羽虫はなんだ?」
「お話がありましたので」
「この状況でしなければならない話だったのか?」
「はい。可能なら他の方へ会話の内容が漏れない場所でお願いします」
「ふむ。分かった」
そう答えたロワーズが自ら別の天幕へと案内する。後ろから無言で付いてきたハインツと護衛は外で待機した。ロワーズが乱れた髪を掻き上げながら口を開く。
「済まないが、話は手短に頼む」
「イアンは密偵です」
「……短すぎる」
手短にと言われたのでそうしたが、確かにそこだけ抜粋したら良く分からないよね。ロワーズにイアンの皮を被ったユージーン・オリオが隠匿しているステータスを称号含めて全て説明をした。
「隠匿を持つ者か。それは、厄介なスキルだな。隠匿まで鑑定できるエマも異様だが……何故、セラール聖国の密偵だと断言できるのだ?」
「職業の欄に――あ……」
「職業の欄とはなんだ?」
説明する途中で気づいたけれど、他の鑑定では職業まで見えないのだろう。ロワーズの表情が明らかに変わる。なんとか誤魔化そうとしたが、後の祭りだった。
「レズリーを今すぐ呼べ」
ディエゴに指示を出し、再び視線をこちらに戻すロワーズの表情が硬い。
「イアンは、子爵家出身の真面目な騎士だ。性格は多少頑固だが、自分の不利になる発言をするほど愚かな奴ではない。今日のイアンの様子は確かに奇妙であった」
ユージーン扮するイアンは、野営地が裏切り者の所為で魔物の集団の襲撃に遭っているかもしれない大事な会議の最中に愛人(ではないが)やその子供の事ばかりを気にしていた。正直、密偵にしてはお粗末としかいえない。すぐに呼び出しを受けたレズリーが私たちのいる天幕を訪ねる。
「団長、どうしましたか?」
「レズリー、見張りの騎士の尋問はどうなっている?」
「まだ全員完了していませんが、初見では怪しい者はいません。ただ……二人の騎士が交代時に同じ人物と接触している」
「誰だ?」
「……イアン・ペチャム卿です」
レズリーが少し躊躇しながら報告する。ロワーズはため息をつくと私と目を合わせ言う。
「そうであるか。レズリー、イアンは密偵の可能性がある」
「子爵家のイアン卿がですか? そんなことは――」
「いや、奴はイアンではない可能性が高い」
「それはどういうことだ?」
レズリーが眉を上げ尋ねる。ユージーン・オリオについて私が現時点で分かっている情報を全てレズリーに説明する。しかし、この名前……なんだかとあるおやつを連想して食べたくなるのでやめて欲しい。
レズリーが首を傾げながら確認するように尋ねる。
「疑うわけじゃないが、隠匿はほぼ鑑定できないスキルだ。それに職業までステータスが見えるとは……エマちゃん、本当なのか?」
「私も他の鑑定が職業まで見えない事を今初めて知りました。隠匿については見えてしまったと言う他ないですが」
「そうか。エマちゃんの魔力は高いので十分可能かもしれないね」
苦笑いするレズリーにロワーズが本題に戻る。
「敵が一日限定の固有スキルを使用しているとしたら、イアンはこの野営地で囚われていると考えるが……残念ながらイアンは直近で連日全員で寝泊まりする遠出の訓練で野営地を離れたことがあった。イアンはすでに殺害されている可能性が高い」
「心臓を食うなど常人とは思えない。団長、どうしますか?」
「団長、緊急の連絡です!」
ロワーズがレズリーの質問に答える前に騎士が慌ただしく天幕へ報告に来た。
「伝えよ」
「はっ。これが南の救護班天幕近く、それから団長の天幕の近くにて見つかりました。他にも同様の物が北で見つかりました」
ロワーズが連絡の騎士に渡された物の臭いを嗅ぎ、眉間に皺を寄せる。
「これは、魔物を興奮させ引き寄せる薬が塗られているな」
あの黒紫の棒って……魔物の襲撃時に変な色のついた煙を出していた棒だよね。やっぱり狼煙の一部じゃなかったのか。
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