安全空間

「ユニークスキル?」

「自分を鑑定してユニークスキルの欄は見える?」

「うん。セーフスペース、かんていってかいてあるよ」


 シオンにスキルはそれぞれの詳しい説明も表示されることを教えたが、セーフスペースのスキルの使い方に関しては読んだ内容だけではピンときていないようだ。


安全空間セーフスペース――術者と術者の許可した者のみ入室を許された空間を創る。術者の魔力により大きさや内部の変形可能


 正直、私も安全空間セーフスペーススキルの全て概要をこの説明だけで全て把握できている訳ではない。でも、予想するにこれはパニックルームを作るようなスキルなのだと思う。どのように使うかは試してみなければ分からない。


(妄想魔法は無害だけど、これは大丈夫なのだろうか)


 安全空間と名前が付いているのでシオンを危険に晒すようなスキルではないと思いたい。術者が自身のスキルに傷つけられることはないとハインツも説明していたけれど、時と場合によると思うんだよね。魔法という新しいエレメントの全てをそうやすやすと信用はできない。

 まぁ、とりあえず安全空間セーフスペースがどのようなものなのか見てみよう。


「シオンにとって安全でいられる場所を想像して安全空間セーフスペースを唱えてみようか」

「あんぜんなばしょ……」


 シオンが一点に集中して【安全空間セーフスペース】と唱えると、目の前に小さな古びたふすまの扉が現れた。黄色く変色したふすま紙の端はところどころ破れ蹴られたような穴が開いていた。


「これは……」


 この小さな古びたふすまがシオンの安全な場所として出てきたことに複雑な思いになる。これはシオンの過去の記憶から形成されたのは明らかだけど、蹴りあとの詳細まで……シオンがキラキラした目で私を見上げ両手を上げる。


「エマ、ぼくできたよ!」

「う、うん。凄いねシオン! 一回で成功したね!」


 動揺と涙が込みあがりそうになるのをシオンに悟られないように大げさに拍手をして褒める。シオンが慣れた手つきでふすまをガタガタと開ければ、中には真っ白な狭い空間があった。この大きさでは私は入らないだろうが、小柄なシオン一人なら丁度入るサイズだ。想像していたふすまの中とは違ったようでシオンがキョトンとする。


「ここにまくらがあって――あれ?」


 シオンがそう言うとモコモコと白い空間が盛り上がり天幕のベッドと同じ枕が形成されていった。内部の変形可能ってこういうことか。これは下手したらこの中に国が作れる。ああ、シオンとシオンの許した人しか入ることができなくて良かった。これは悪用されそうだ。


「シオン、このお部屋のこと今は私と二人の秘密にしよう。ロワーズさんやレズリーさんにも内緒よ」

「うん。わかった。ぼく、いわないよ」

「約束ね」


 それから安全確認のためにシオンから了承を得て先にふすまの中を触り、頭を突っ込む。白い部分は見た目通りフワフワとしていて心地良く普通に大丈夫そうだけど、うーん……とても狭い。


「エマ、だいじょうぶ?」

「うん。大丈夫だよ」


 これ、傍から見たら角度によっては頭だけ消えてるのかな、胴体だけ落ちてるってホラーだね。


「ぼく、はいっていい?」

「確かにシオンが入れるサイズだけど、少し狭くないかな」

「ぼく、せまいところだいじょうぶだよ」

「うーん。少しだけね」


 喜びながらふすまに入り枕に頭を付けるシオンと近距離で目が合い笑う。


「やっぱり狭いね。もう少しだけ大きくなりそう?」

「うーん」


 シオンが唸るとほんの少しだけ空間が成長したような気がした。起き上がりふすまから顔を出すと、天幕の外からアンの声が聞こえシオンが中にいるままふすまが自動に勢いよくと閉まるとそのまま消えてしまう。


「え? シオン!」

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