猫の話をしよう
妄想魔法で現れたのは、上半身裸のロワーズと瓜二つの黒光りしている男だった。何故か割増で筋肉が付いていて、ボディビルダーのポーズを満面の笑みで決めている。うへぇい。
(ちょちょちょやめて、どうしてこんなのが出るの!)
こんなボディビルダー男なんかの妄想はしてないはずだ。消えろ妄想魔法と頭の中で唱えたが、ロワーズボディビルダーは一向に消えないどころか白い歯をキラキラさせ眉を小刻みに動かしながら目を合わせてくる。
「やめてー、どうしてー」
本人の前で本当にやめて、恥ずかしすぎる。早く消えて欲しいのにいつまでも消えない。ロワーズは呆気に取られ、その後しばらく難しい表情で黙る。もう、これ怒っているよね?
「もう、これどうやって消えるのよ!」
ロワーズボディビルダーが機嫌よくフンフンと鼻を鳴らしながら尻の筋肉をアピールしてくる。やめて、やめて。本当にやめて。
「もう、いいから消えて!」
怒り任せにそう叫べば、ロワーズボディビルダーがスッと消える。ふぅ、やっと消えてくれた。急いで何もなかったかのように猫との時間を妄想し、黒猫を出す。
(よかった。今度はちゃんと成功した)
黒猫はテーブルに飛び乗りゴロンと転がったと思ったら、ゆらゆらと揺れる灯りの魔道具の光と遊び始めた。しばらく遊んだら、飽きたのか私のところに戻ってきて撫でろと要求してきた。実体がないので、撫でるフリをすると消えていった。これ以上妄想魔法に暴走されたくないのでオフにする。ステイオフでよろしく。
何か言いたそうにこちらを見つめるロワーズに冷静を装い説明をする。
「このように想像上の猫などを出せるみたいです」
「……あの裸の男は私か?」
やめて。そんな話もう持ちださなくていいから。声のボリュームを上げ再び説明に戻る。
「触ることも出来ない上に、言うこともなかなか聞いてくれないみたいです」
「先ほどの――」
「猫の話です!」
裸の男の件は記憶から削除だ。その話はスルーだスルー。あれは、なかったことにしよう。
「ふむ……ユニークスキルについては、分からぬことが多い。妄想魔法というスキルは今まで聞いたことがないので助言はできない」
分かるよ。多分、このスキルは私以外誰も持っていないと思う。私もいらなかったよ、こんな制御できないスキル。この際、気を取り直して他のスキルについて情報を得よう。
「他にどのようなユニークスキルがあるのでしょうか?」
「ユニークスキルの持ち主自体少ないのだが、その中でも多いスキルが鑑定とアイテムボックスだ。ユニークスキル持ちは貴族や人攫いに狙われることが多い故、平民だと公表せずに持っている者も多い。魔力が高い者に出現することが多いので、ユニークスキルの持ち主の大半は貴族である。スキルの種類については書物がある。機会があれば、後々見せるとしよう」
「そうですか。ありがとうございます」
「それから、鑑定スキル持ちの者に聞いた情報だが、ユニークスキルは術者が魔力の使い方に慣れれば徐々に使いやすくなると言っていた。エマも練習をすれば、先程のような失態はせぬかもな」
「……ソウデスネ」
苦笑いをしながらロワーズに返事をする。でも、いい事を聞いた。明日から、バンバン魔法の訓練をしよう。そして、あの生意気な黒猫を屈服させてやる。いや、猫はあれでも良いのだけれども、ロワーズボディビルダー事件はもう起こしたくない。
さて、目標も出来たし明日から頑張るとするか。椅子から腰を上げロワーズに挨拶をする。
「色々、ご面倒をかけておかけして申し訳ありませんでした。本日はこれで――」
「まだ話は終わっていない」
座れと言われたので、腰を上げた椅子に再び座る。ロワーズの眉間のシワが深くなっている。なんの話かな……なんだか今から説教される気分だ。
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