リリアとのお茶

 今日も目覚めは良い。

 天幕から外を覗くと、白々明けの森は昨晩から降り始めた雪で覆われていた。早朝六時くらいだろうか、騎士たちはすでに訓練を開始していた。

 服を洗浄クリーンして着る。ズボンは相変わらず折り曲げていて、インナーやTシャツもダボダボで不恰好だ。下着は収縮性のある物で、サイズも小さかったので大丈夫だった。ブラは始めからやや窮屈なスポーツブラだったので、アジャストのおかげでなんとか使用できている。

 シオンと私の下着は洗浄クリーンしてコピーする。シオンの服、それから私のスポーツブラも一枚ずつコピー。あとはクッキー箱をふたつまとめて複製したら今日のコピーは終了した。

 シオンも目覚めたので身支度をする。心なしかシオンの身支度を手際良く手伝えた。子守スキルのおかげだろうか。

 朝食を食べ、午前中はまた生活魔法の練習をする。少し苦戦していた治療キュアは、アンの手にあったヒビ割れを軟膏を塗るイメージで治し無事習得した。これだけ上手く治療ができれば、今後ちょっとした怪我をしてもすぐに治せそう。


「ここまで綺麗に治ったのは初めてです」


 アンも普段から治療キュアをかけているらしいが、綺麗に治らずにすぐまたあかぎれを起こすらしい。魔力レベルの違いだろうか。案の手はまだ若いのに酷い状態だった。アンには後でハンドクリームを分けてあげよう。

 シオンの生活魔法取得も順調に進んでいる。今日はアクアを覚えたそうで、見せてくれる。


「エマ、みて」

「おお、いっぱいお水が出ているね」


 水は私と同じイメージで蛇口なのだろう。アクアを発動する度に、シオンは蛇口を捻る手振りをしていた。

 今日の魔法練習を終了して天幕へと戻る道中、騎士たちからチラチラと刺さる目線や「おいっ銀髪だぞ」などの声が聞こえたので天幕へと早足で戻る。今日は、ここ数日で一番多く騎士が野営地に滞在しているように思う。

 天幕に戻るとリリアが私たちの帰りを待っていた。彼女に会うのは、数日振りだ。挨拶する前にグッと詰められ謝罪をされる。


「エマ様。ロワーズ様との関係を勘違いしてしまい、申し訳ありませんでした」

「え? いえ、そのように謝らないで下さい。本当にもう気にしてないですから!」


 リリアは、困ったかのような笑顔で顔を上げた。以前は薄暗かったので気付かなかったが、右目にある泣き黒子を含め全体的にメリハリがあり動きのひとつひとつが官能的な女性だ。とにかく色気が凄い。


「本日は、エマ様が普段お召しになれる衣装をお持ちしました」

「いや、そこまでして頂くのは、本当に申し訳ないので……」


 ここ数日の高待遇で忘れていたが、私は別に客人ではない……はず? どちらかといえば、職質されている途中なのでは? 私たちのことはリリア達にはどういう風に説明されているのだろう?


「ロワーズ様に申し付けられております故、受け取って頂かないと私が困ります」

「あ、待って!」


 リリアが妖艶な笑みで私を奥のパーテーションへと連行すると、あれよあれよという間に着替えさせられた。

 準備された灰緑色のウールのコルセットドレスは、無駄なヒラヒラなどなくて動きやすい。ポケットの部分は腰に紐を巻きつけるポシェットがドレスの中にある。これは、外から手を入れて使用するのか。中はシュミーズのロングワンピースのみで、ノーパンが居心地悪く自分の下着を穿く。

 

「エマ様、少し息を吐いてください」

「ぐえっ」


 コルセットを締められ変な音が出る。衣装にはブラもないのだが、コルセットの上部分がブラの役割をはたしていて結構快適だ。いや、快適過ぎる。あまりにもサイズがピッタリすぎない?


「苦しくないですか?」

「とても良く仕立てられてます。サイズもピッタリです」

「色合いを心配したのですが、この色で正解でしたね。こちらのマントも羽織って頂けますか?」


 渡されたマントと共にドレスを情報収集する。


ドレス――リリア・ローレンス作、ウールコルセットドレス

良品

価格相場:金貨一枚


マント――リリア・ローレンス作、ウールマント

良品

価格相場:金貨三枚


 え? これ製作者も出るの? 床の絨毯はカネリー製としか出ていない。このドレスとマントはリリア一人で仕立てたということなのだろうか? それにどちらともリリア……これ実質二日で仕立ての? 元々あったのを調整したのだろうか、それにしては私の体型にぴったり過ぎる。


「これは、リリアさんが仕立てたのですか?」

「はい。少々お時間がかってしまいましたが、マントもとてもお似合いです。シオン様にもお揃いのお色で用意しております」


 確かに、紺色のフード付きマントに銀髪が良く映えた。フードを深く被れば、髪も顔も隠せそうだ。短時間でリリアは私とシオンの服を仕立てている。優秀過ぎじゃない? リリアを鑑定してみる。


リリア・ローレンス

年齢: 三十一

種族:人族

職業: クライスト侯爵家侍女

魔力3  体力2

スキル:言語、 刺繍、手芸、作法、 化粧、社交、 作法、房中術、ダンス、 リュート、短剣

魔法属性: 水

魔法:生活魔法、水魔法

固有スキル: 裁縫師2

称号:魅惑の未亡人、流し目の達人


 房中術……ロワーズとレズリーにも生えていた。貴族とか騎士はそういうお勉強をしているのか? 称号を見る限りリリアがエロスの達人の領域にいるのは理解できた。何になのかは分からないが、リリアをリスペクトしながら固有スキルを確認する。


裁縫師――裁縫師1:仕立ての時間を50%カット。裁縫師2: 完全身体採寸、対象を見ただけで採寸可能。


 ああ、このスキルか。しかし、それでも数日でこれを仕立てるって純粋に凄い。

 試しにリリアの化粧と房中術をスキルコピーしてみたが、どちらもコピーは出来なかった。ふっ、いいのよ、別に。


 リリアとお茶をしながらお喋りしながらこの世界の情報を得る。こちらは騎士や冒険者以外の女性はロングドレスが主流らしい。ロングドレスは絶対ではないが、脚を見せるのは恥ずかしいと感じる女性が多いようだ。服の生地は、冬場はウールで夏場はリネンが多く、絹、綿、それからベルベットは貴族や豪富が着ることが多く、平民も特別な機会に準備する高価なものだという。私の持っていた服のほとんどが綿だったため、リリアはとても驚いていた。

 夕食をとり、寝支度をしてシオンとベッドに入り天井を眺めながら考える。こんなに至れり尽くせりで良いのだろうか? 私たちは、迷子の住所不定の無職なんだけどなぁ。でも、ロワーズ達に会わなければ私もシオンも今頃は森の中で凍死してただろうな。本当に命の恩人だよ。明日、飴玉とクッキーをお礼アンド賄賂としてまた渡そう。砂糖は角砂糖はあるが、リリアの話を聞く限り砂糖や菓子はある程度高価な物のようなので、ポンポンと出せばいろいろとトラブルになりそう。角砂糖はとりあえず出さないでおこう。

 シオンとベッドに入ったまま灯りライトで遊んでいたら、いつの間にか眠っていた。

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