第4話:俺はシスコンではない

それからしばらく自身の成長を感じながら、何日も魔法と剣術の研鑽に明け暮れる日々を過ごした。


ある日の朝、部屋に妹のレイが押し掛けてきた。



「お兄様!おはようございます!」 


「おはようレイ。どうしたんだ?」


「魔法見せてください!ピカピカして綺麗なやつ!」


「わかったよ」



固有魔法≪光≫に覚醒してからというものの、庭や訓練所で頻繁に練習をしていた。


そのため使用人や軍の人たちに見られて噂になっていたのだ。



そこで、ちょっと体をピカピカさせたり、光学迷彩で体の一部を消したりして見せた。


「すごーい!」


と目をキラキラさせながら抱き着いてくる妹は本当に可愛いのである。よし、あとで飴ちゃんをやろう。


これは決して妹をもっと喜ばせたいとか笑顔がみたいとかではない。


その後、使用人から料理長に話を通して、飴ちゃんどころか大量のお菓子を持っていかせたのであった。



お前ら、そんな目で俺を見るな。


俺は断じてシスコンではない!(たぶん)


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ここで少し詳しく家族の紹介でもしておこう。


まずは我が家の大黒柱である親父からだ。


現侯爵家当主の親父は、総勢十万にも及び、国防の要であるアインズベルク侯爵領軍の総帥をしている。得意なのは身体強化と〈風〉魔法を駆使した剣術で、親父が二十五歳の時に参加したアルメリア連邦との国防戦では一騎当千の活躍をみせた。


 今でも「鬼神」という異名で各国から恐れられている。



次は親父を尻に敷いており、実質我が家の権力を握っていると言っても過言ではない母についてだ。


母ちゃんは帝国の反対側にあるケルベル男爵家長女として生まれた。帝都の魔法学院を卒業後、帝国魔法師軍に所属し、当時近衛騎士団に所属していた親父のハートを射止め見事正妻という地位を確立した。


カナン大帝国の貴族は基本的に正妻のほかに妾が何人かいたりする。それは尊い血を残していくという視点で重要なのだが、うちの母ちゃんがそれを許すハズもなく....


まぁ結果として覚醒者である俺と、器のでかい兄貴、天使であるレイを産んだので誰も文句なんて言えたものではない。


そんなある意味破天荒な母は〈水・土〉魔法の適性があり、両方とも上級まで使える。

ちなみに親父も〈風〉魔法は上級まで使えるらしい。


我が両親も、優秀な上に努力家なのである。




次は兄のロイドだ。


兄貴には〈火〉魔法の適性があるが、魔法も剣術も苦手らしい。しかし、学問の方は、家庭教師が舌を巻くぐらい優秀らしい。


それに、優しいし器がでかい。両親は二人とも顔立ちが整っているので、その血を引いた兄貴は、穏やかなイケメンなのである。


兄貴は次期侯爵家当主なので、最近は他貴族との交流を深めるべく、お茶会に参加している。

一度その様子を見かけたのだが、他貴族の令嬢たちが肉食獣のような目つきで兄貴を見ていた。

ご愁傷様である。


それに次期当主ということは、学園をいい成績で卒業しなければならない。

もし魔法や剣術の才能が開花したら、学園の後に帝都の魔法学院か騎士学院にも入学させられると思う。主に両親によって。


このように、次期当主という面倒くさいレッテルを貼られても、嫌な顔一つしない。


それが器がでかい我が兄、ロイドだ。


(普通の貴族子女なら当主を継ぎたいものが多いので、家督争いが激しくなり泥沼化することも珍しくはない)


そういう意味でもアインズベルク侯爵家というのは他とは少し違うのである。

 



次は皆さんお待ちかね、我が家の天使レイである。


彼女は母の血を引いているので、少しやんちゃで天真爛漫だ。もちろん顔も整っており、めっちゃ可愛い。将来は美人になること間違いなし。


そしてもう一度言おう。彼女は短期間で帝都魔法師軍大尉にまで上り詰めた母ちゃんの血を色濃く引いている。

 

要するに魔法の適性がとても高い。たまに母との魔力操作の練習を見るのだが、非常にスムーズに行っている。あれは間違いなく、天才の部類である。


恐らく、最低でも母と同じ〈水・土〉属性への適性はあるだろう。

二年後の選定の儀が楽しみだ。

 



おまけに俺の専属執事であるケイルも説明しておこう。


彼は元々帝都の騎士団に所属していたらしい。

俺が知っているのはこのくらい。


親父はケイルのことをよく知っているのだが、特に俺は聞かされてないし、俺から聞いてもいない。彼とは現状でも良い信頼関係が築けているので、今のままで満足している。


一言で表すと、謎ジジイである。


この謎ジジイは、目つきや仕草、体の動かし方が完璧なので一目でただ者ではないとわかる。

それに親父と同じで、戦場を長く渡り歩いたものが纏う覇気を持っている。しかも頭の回転も速いし、知識の量も豊富だ。


だから覚醒者である俺の専属執事として猛威を振るえるのである。

(たまにアルテの我儘を聞いているだけ)



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それから二年の時が流れ、俺は十二歳となった。

兄貴は来年帝都の学園へ入学するために勉学に励んでいる。妹のレイは、あと数か月後に選定の儀が控えているので、今までより一層魔力操作と属性魔法の勉強に励んでいる。


ちなみに無属性魔法は身体強化を含めて、ほとんど習得したらしい。恐ろしい天使である。



そんなある日の午前中、俺は侯爵軍中将である【マルコ】と剣を合わせていた。


「アルテ様は、また強くなりましたね! たぶん一般兵なら三人相手にしても余裕ですよ!」


「剣戟中にっっっ!余裕ぶりやがってっっっ!」


お互いに身体強化を駆使しながら、結構本気で模擬戦をしていた。まあ本気なのは俺だけで、あちらは余裕そうだが。


俺は両手剣を使い、マルコは片手剣を使っている。もちろん両方木刀だ。


そして暫くして、俺の剣が弾き飛ばされた。


「アルテ様の剣術は、基本の型を軸にしているんでしたっけ?それにしては違和感がありますね」


「気づいたか。覚醒者の力を使わないときは基本の型を軸にしているんだが、使う時は自己流の型を使ってるんだ」


「なるほど、二段階に分けることで相手を翻弄できますもんね。それに覚醒者の剣の型は、その人にしかできないものなので、自己流になるということですか」


「理解が早くて助かる」


「覚醒者の力は使わないのですか?」


「あぁ、俺の力は剣術においては筋力が上がるわけじゃないからな。今は使わずに、基本の型を伸ばそうかと思って」


そう。剣術に応用できる固有魔法≪光≫の力は光速思考と光速反射なので、力が強くなるわけではない。反射で動けても、相手が中将級のマルコになると押し負けるので、今は基本の型しか使ってない。


「アルテ様のそういうところに好感が持てますな」


「おっさんに好かれてもなぁ」


「そういえば、なぜアルテ様は剣を研鑽されているんですか?覚醒者の力を使えば、大抵のことはできるのでは?」


「趣味」


「そ、そうですか。趣味ですか」


「あと、もし魔法が使えない場面に出くわしても、指をくわえて見てることしかできないのは嫌だからな」


「さすがはあの『鬼神』の御子息ですな」


「俺よりも兄貴とか妹の方が凄いよ」


「ははっ。ご謙遜を」


このようなお方だからこそ、覚醒者になれたのであろうな。とマルコは思った。


そしてマルコが去った後、しばらく訓練所に籠り、覚醒者の力をフルで使って仮想敵と戦うアルテであった。


「ぶっちゃけ固有魔法≪光≫を使えば一瞬で片が付くんだが、それじゃあ面白くないからな。というか、そろそろ親父に外出の許可を貰って魔物相手に実践でもするか」


そこで後ろから、専属執事であるケインが現れた。


「アル様。御当主様は現在、アインズベルク侯爵領の商業ギルド長と会議を行っていますので

夜にならないと無理でございますよ」


「わかった。ありがと」


このジジイは一体いつから後ろで見ていたのか、まったくわからなかった。やはりただ者ではないな、この謎ジジイは。


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 次の日、俺はマルコの息子で侯爵軍騎士団に勤めている【ケビン】ともう二人の一般兵を護衛につけて、城壁の門を潜った。


現在俺が住んでいるのはアインズベルク侯爵領で一番大きいとともに国防の要である、


城郭都市「バルクッド」だ。


ここから東に向かえば天龍山脈にある大渓谷にあたる。ここを通るのには高位の冒険者を雇わなければいけないほど、危険である。しかし、それを差し引いてもカナン大帝国とは取引をする価値があるので、ここを通って大商人たちがたくさん訪れるのである。


そのためバルクッドは国防の要であり、ここら一帯の物流の中心だったりするのだ。


カナン大帝国の商業は、主に大型船を使った海での輸出入と、バルクッドでの輸出入が軸になっている。


 

バルクッドから西に向かうと、テール草原と呼ばれるとても広い草原があるので、今回はそこへ向かう。ここには、商人たちが商品を運ぶ街道が真ん中を横断しているので、比較的安全である。


比較的低ランクのモンスターしか生息していない上に、場所が開けて視界が広いので初心者の俺には打ってつけである。


他にもチラホラと駆け出しの冒険者たちの姿が見える。ちょうど学園を卒業したくらいだと思うので十八歳くらいだろう。


貴族は基本的に帝都にある学園に通うのだが、このバルクッドにも学園はいくつかあるので、そこを卒業したのだ。

 

あの男女の駆け出し冒険者パーティも、大切な我が領民である。

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