獣の姫と果てなき勇者

シェフィア

第1話 果てなきエンディング

「魔王、終わりにしよう」


 地に伏された魔法に銀光の剣が突き立てられる。

 因縁の戦いがついに終わったのだ。

「ガハッ……やるな勇者よ」

「何を笑っている」


 憐れな者を嘲笑うかのように微笑むその姿は何処か胸騒ぎを感じさせた、まるで「既に終わらせた」かのように。



「,,,!姫は何処だ!」

「ハハ、、ハ、玉座の裏の、通路の先だ、早くに見に行ってやると、、良い」


 やけに素直に答えられ、嫌な予感が膨れ上がってくる。

 何をした?いや、姫に何をした?

 この言葉に嘘は無いと何故か確信が持てるが、安心が全く出来ず、トドメの一振を首に叩きつけ通路へ急いだ。


(姫、どうかご無事で、、!)


 悲鳴を上げる体を無視して駆け抜ける、そして鍵のかかった部屋を見つけ厳重な障壁ごと叩き切る。

「助けに来ました!ひ、、、」


「あ、貴方は?」

 そこに居たのはとても元気そうで昔、城で見た肖像画より少し成長した姿である姫。


……しかし、吸い込まれそうな翡翠の右目とは対照に、左には血に飢えた爬虫類のような眼球がこちらの姿を捉えていた




「、、、姫様?」

 見間違いかと思ったが間違いなくその目はこちらを見据えている、魔王の態度からして手遅れであった事は明白だ。


「そうです,,,やっぱり、私何処か変ですか?」

 少し悲しげに顔を伏せる。

 彼女の近くにある机には研究資料の様なものが乱雑に置かれていた。


「これは…【終末の獣】?」

 一通り目を通し、簡単に纏めれば多くの魔物を融合させ、キメラを作りあげ暴走させる研究らしいが、それにはとある媒体が必要だったらしい。


 それが「姫の生き血」。しかし、俺の到着が早すぎたせいか実験は間に合わず、最終手段として姫を丸ごと媒体にして別の方向から研究を完成させようとした、、、結果は奴らにとっては大成功、こちらにとっては最悪の置き土産となってしまった。


「…ふざけやがって」

「勇者、、、さん?」


 いまいち状況が飲み込めて居ない彼女を見てため息を着く、俺の使命は姫を連れ帰ること、だが今のまま帰せばどの道世界は滅びてしまうかもしれない

一先ずは落ち着いて状況整理する為にも軽く事情を説明して場所を移すことした。






 その後俺たちは戦場の跡地となった魔王城から離れ近くの森に来た。

 テントを張り、姫は中で休んでもらいながら俺は資料を読み進める。

 そこでひとつ気になる点を見つけた。


「魔物を凝縮させ多くの魔力を馴染ませ個体の安定化、そして特定の魔力を多く与え制御性を高める、、、つまりは暴れる化け物を操れるようにするのが目的だったのか」

 中々に厄介な呪いを掛けてきた物だとため息をつく。

 しかも解除方法も分からない、完全に戻す気が無かったようである。

 その時、叫び声とも聞こえるような悲鳴が突然上がる。


「っ!姫!」

 慌ててテントを覗けば息を荒くした姫が蹲っている。


 近ずいてみれば涎を垂らし、瞳孔は開き、まるで底知れない空腹に襲われてるかのように腹の音が鳴っていた。



「まさか、、暴走の前兆か!?」

 抑えるには恐らく魔物を食べさせなければならない。

信憑性のない資料の情報だが、ここにはこれしか頼るものがない。

 しかし、戦いのせいでこの辺の魔物は大半が逃げ出し、巻き添えにあった死体があったとしても使えるとは限らない。

 俺自身の体力も、大して残ってはいない。


……手段は一つだけある、悩む暇はない


 ナイフを取り出し、コップを準備し、自分の腕を深く切り裂いた。

 激しい痛みと共に大量の血が流れ落ちる。

コップ一杯に溜まったあと、すぐさまなけなしの魔力を込め、自分の傷を治す。


「……た、タすケ、、て」

 絶望したかのような目を向けながら、血の匂いに釣られたのか姫に笑みが浮かぶ。

 その時にある筈がない肉食獣特有の牙が見えた事から既に猶予がないとわかった。



「姫、これを飲んでくれ」

 彼女は差し出されたコップへ縋るように近づき、夢中になって飲み干していく、その姿は完全に飢えた獣そのものであった。


 飲み干す頃には発作も収まっており、口元に広がる血の跡とチラリと見える牙以外は先程の姫と変わらなかった。


「あり、がとう、ございます」

 完全に憑かれていた先程とは違い、理性が戻った今ではショックで声が震えており、落ち着くまで見守る事しか出来なかった。




 放っておけば暴走し、彼女の理性が壊れても暴走する。

 だからと言って殺せはしないし、時間が経つほど凶悪になる。

「、、、これは参ったな」




そして勇者は救った世界を守る為に姫と、終わりの見えない新たな旅をする事になった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る