第三十一話 Bless The Raven

「おい、新入り」

『烏』が所有する商業施設の六階にあるジムで筋トレに励んでいた走に『烏』末端の隊員に話し掛けられる。

「……何ですか?」

「お前、関崎隊長の推薦で、入ったんだろ?」

「そうですけど」

「どうやってあのカタブツ隊長に取り入ったんだよ」

「……僕と関崎さんは同じ学校で、たまたま出会って」

「あの隊長がお前と同じ学校だと? そんなわけ無いだろ」

隊員が拳を振り上げる。

「そこまでだよ」

そう言いながら男は隊員の振り上げた拳を抑えた。

「久しぶりだね、鴉馬君」

「えっと……誰ですか?」

「あれっ、俺の事覚えてない?」

走はジッと男の顔を見つめた。

「雑木……さん?」

「正解」

「離せ!」

「おっとすまん」

隊員はサッサッと部屋を出ていった。

「ちょっと、話そうか」

二人は五階の食堂に行き、フライドポテトをつまみながら話し始める。

「鴉馬君、さっきの隊員との会話なんだけど……」

「はい」

「関崎隊長が学生であることは末端の人間には知られていない。だからあまり他言はしないで欲しい」

「じゃあなんで、雑木さんは知ってるんですか?」

「面子の問題だ……関崎隊長は二歳の時に五代目総隊長に引き取られて、十二年の青春を捧げて、日本代表になった。つまり関崎隊長はろくな人生を歩んでない、今関崎隊長が高校生活を送れているのは、俺の根回しと七代目総隊長の粋な計らいだ」

「雑木さん……最近黒武さんからの連絡が無くて、何してるか分かります?」

「分からないな…………あ!」

雑木はポケットからクシャクシャの紙を取り出した。

「これ、黒武総隊長から」

「えっと……」

クシャクシャの紙に書かれた字は不安定な場所で書いたのか、ガタガタしていて読みづらい。

「読みづらいよな、要約すると、アメリカで会議があるから手伝いに来てくれっと書いてある」

「なるほど」

「……言っちゃうか」

雑木は深呼吸して、紙を見ている走に告げる。

「鴉馬君」

「はい」

「これは俺の推測だけど、次の総隊長は君だと思う」

「なんでですか?」

「君は似てる。黒武総隊長の師匠であり、黒武総隊長の前任。『烏』七代目総隊長導鳥護に」

「どんな人だったんですか?」

二人はフライドポテトを食べ終えて食堂を出る。

走は一階の出口まで階段で下りながら雑木の話を聞く。

「導鳥総隊長は情に厚い人でな、どんな状況でも諦めない凄い人だ」

「そうなんでしょうね」

「ああ」

「昔、と言っても、先月の事ですけど。黒武さんからも、その人事を聞きました、黒武さんも雑木さんも凄い楽しそうに話してます」

「そうか」

「僕、成れますかね、そんな人に」

「成れるよ、誰よりもすごいね」

「頑張ります! 僕」

二人は一階の出口に着く。

「それじゃ」

「はい、また今度!」

走は軽い足取りで走り去っていく。

 その頃、黒武はアメリカ直通の飛行機のファーストクラスに乗っていた。

「やっぱ、ファーストクラスは飯がうめぇ」

黒武が機内食を楽しんでいると、黒武は誰かに視界を塞がれた。

「久しぶりだね、黒武くん」

その声は女性で、黒武の背中に胸を押し付けながら話し続ける。

「早速だけど、黒武くん、良いニュースと悪いニュースがあるんだけど、どっちから聞きたい?」

「当ててやろう、悪いニュースはお前が居ることで、良いニュースは機内にカゲロウが居ることだろ?」

「半分正解、半分不正解。正しくは、機内にカゲロウが居た、だよ」

「そうか、サンキュー」

「そうだ、君にプレゼントでAVを持ってきたんだ、観るかい?」

「……ああ」

「オッケー!」

「座れよ、グレース」

グレース・マリアンヌ・ワシントン、アメリカ代表兼ワシントンD.C.支部隊長兼『烏』技術研究部隊CAO、フランス系アメリカ人であり、現在『烏』に最も長く所属している隊員である。

「うん」

グレースは黒武の隣に座り、座席に付いているモニターにアダルトDVDのディスクを入れる。

「今さらだけど、ジャンルは?」

「いろいろあるよ、このAVには、痴漢、コスプレ、3P、騎乗位があるみたい」

グレースはDVDに付属しているブックレットを読みながら答える。

「そうか」

「もしかして、嫌いジャンルある?」

「ねぇよ」

「そうなんだね」

読み込みが終わり、AVが始まる。

「お前こういうの見るんだな」

「この歳だと、一般のやつは刺激が薄くてね。By the Way、黒武くん」

「なんだ?」

「来月の会議の事なんだけど……」

「……コスプレプレイって、何ですぐ脱ぐんだろうな」

AVを見ながら、黒武は話をはぐらす。

「はぐらかすな!」

「悪い悪い、会議の内容は」

「後継者の事でしょ?」

「ああ」

「後継者の話題が出るのは分かるけど、なんでこの時期に出すの?」

「俺の勘だよ。そろそろ終わる気がするんだ、カゲロウとの戦いが」

「ふぅん、当たると良いね、その勘」

「ああ。そうだ、最近どう?」

「そうだねぇ、最近、技術研究部隊にスパイが三人居たから殺した位かなぁ、あとはいつも通りだよ」

「スパイか、珍しいな」

「うん、まだいるかもだから、今調査中」

「ねぇ、ヒント頂戴」

「ヒント?」

「うん、後継者のヒント」

「そうだなぁ、当日会議に来た奴の誰か、かな?」

「分かった。ヒントをくれたお礼に一つ豆知識を教えて上げるよ」

「なんだ?」

「アメリカ人は絶頂イク時にcomeって言うんだよ」

「へぇ、今度試してみるよ」

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