第十三話 One Lost His Mouth, One Lost His Legs

「どけ!」

黒武は血相を変え、いつもの彼の片鱗は微塵も感じられない、人を押し退け、彼は、仲間の病室へ向かう。

「どうして、あいつが怪我する、普通俺だろ」

「こちらになります」

看護師は黒武の後ろをなんとか着いていき、仲間の病室へ案内する。

「勇我! 泥闘!」

「よう、すまねぇ、ちょっ……」

「大丈夫か!? 勇我は足が骨折、泥闘は?!」

慌てふためく黒武を落ち着かせながら、勇我は説明する。

「別室だ、トラックが爆発して、俺は腕がⅠ度の火傷、泥闘は深達性Ⅱ度つう奴らしい」

「そうか」

黒武は置いてあった水を貰い、落ち着きを取り戻す。

「泥闘は首とか顎辺りの火傷がひどくて、まともに喋れないらしい」

「そうか、お前はいつ現場に戻れる」

「そうだな、リハビリも含めると、三週間位だろうな」

「なるほど……それまでは俺が特攻部隊の指示をとる、良いな?」

「ああ、もちろんだ」

二人が話していると、黒武の携帯が鳴り出した。

「すまん、ちょっと出るわ」

「おう」

黒武は病室を出る。

「……くそ」

勇我は溢す、己の未熟さと、泥闘を助けられなかった事を悔いて、そっと、言葉を溢した。

「もしもし?」

「関崎です、今、大丈夫ですか?」

「ああ」

「私は今、勇我隊長と泥闘分隊長の事故現場を調べてます」

「どうだ?」

「カゲロウの痕跡がありました」

「本当か!」

「はい、やはりこれは……」

「ああ、侵入者の仕業だ、これは俺の予想だが、侵入者は分隊長の中にいる」

周りに聞かれない為に黒武は屋上に移動しながら、会話を続ける。

「この前、検査をしたと聞きましたが」

「おそらく一時的に他の奴にカゲロウを移して、会議が終わった後、カゲロウを戻したと考えられる」

「そんな時間、ありましたか?」

「あっただろう! あの時、お前と、網繋、そして社長が入ってきた時だ!」

「! まさか、僕も網繋も特徴は一致していない。……まさか、社長?」

「確かにあの時、社長はスーツだった、だがそれを言うなら、分隊長達も隊長達も俺だって、全員スーツだった」

「じゃあ、中に内通者が居たというのは?」

「それはあり得るな、まずは分隊長と隊長の家を捜索、もちろん俺ん家もだ、そして、Αphone本社地下の部屋を捜索する」

「分かりました」

「そして、この捜索は可能な限り、少人数でかつ秘密で行う」

「分かりました、早速、人を集めます」

「頼んだぞ」

黒武は電話を切り、屈む。

「どうしよっかなぁ」

悩める時間は一瞬で、また黒武の電話が鳴る。

「はーいもしもし?」

「どうも、陰帯社長の秘書です」

「どうも、今日はどうしたんですか?」

黒武は屋上のフェンスにもたれ掛かり、話を聞く。

「社長が昨日伝え忘れていた事があったので、その件についてです」

「はい」

「もうすぐ、Αphone17が発売するのはご存知ですか?」

「はい、1週間後ですよね」

「はい、それで、少し前にカゲロウが増えていると報告があったので、警備を頼みたいんです」

「なるほど」

黒武は行こうと思っている走の学校での文化祭の日程を思い出す。

文化祭は1週間後、警備の日と被ってしまっている。

「分かりました、何人か送ります、私は午前中に予定があるので、午後からで良いでしょうか」

「分かりました、ありがとうございます。それでは」

電話が切れる。

「くそ、やることが増えちまった……まあ、文化祭に行けるだけ良いか」

黒武は空を眺めた、白い雲はこれからの悲劇を隠すように空を漂う。

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