第154話 帝王カオスの後継者
「さて、まず二人だ」
ベバルは不意討ちを受け、動けない周防と沙矢を見る。
どちらから殺そうか……そう考えてるように……
(だ、ダメだ。う、うごけん……)
周防は先ほどの一撃でアキレス腱などをやられ、歩くことすらできなくなっていた。
魔力もないため、無理やり体を動かすなんて芸当もできない。
――その時、沙矢がベバルに攻撃を仕掛ける。あまりに無謀。
やめろと叫ぶひまもなく……
「じゃあまずお前からだ」
ベバルは再び沙矢を手刀で貫く。血反吐を吐き、沙矢は小さくつぶやく……
「あなた……ごめんなさい。こ、子供たちに、あ、や、ま」
「おっと、死に際は旦那に見せてやらないとな。ほら!」
ベバルは、ゴルドと戦闘中の天海の元に沙矢を投げ捨てた。
ここからは百メートル以上離れた距離からの投擲。
天海ははっとして振り返る。
その視線の先には愛する妻が血にまみれていた……
「沙矢!!」
天海は飛んできた沙矢を優しくキャッチする。
「沙矢!! しっかりしてくれ!」
「あ、な、た。あたくしを、投げ……捨て……て」
「え?」
――瞬間、沙矢は爆炎に飲まれ爆発。
その不意討ちは天海の身を焦がす。
「ぐああああ!」
妻の死に際を見せたと思えば、その体を使って不意討ち……あまりにむごい。
「な、なんて奴だい。ひ、人の心とかないのか……」
「オレは魔族だ」
「混血なんだろ? ブレボスが言ってた」
「……」
ベバルは無言で周防の傷口を踏みつける。
「があああああ!!」
「下らん事ほざくなよ……お前はブレ兄の仇……そう簡単に死ねると思うなよ?」
「「周防さん!」」「「おっさん!」」
事に気づいた南城と、四将軍の燕が、周防の元に走る……が、
突然燕の背中から大量の出血が。
「な、にいい?」
燕が全く気づかぬうちに、背中がいつの間にか切り裂かれていたのだ。
その一撃により地に沈む燕。南城は驚き足が止まる。
燕の背後には、明らかにさっきまでいなかったはずの魔族が二人立っていた。
「ね~え。おにーちゃん。こいつ本当に四将軍? よわすぎて笑える! キャハ!」
「間違いない。だが弱いというより、我ら兄妹が強い。それだけだよ愛しき妹」
「やっぱし~?」
灰色の髪をした、人間で言うと高校生くらいの年代に見える若い魔族の美男美女兄妹……
この二人は、八百万八傑衆の地獄兄妹、ネビュラとノア。
シャドが帝王六騎衆になったことで、必然的に八百万八傑衆最強となった二人である。
その戦闘力は、帝王六騎衆のゴルドに匹敵する。
そして兄のネビュラの能力は……
その名の通り、時間を止めることができる能力。
止まった時間の中で動けるのはネビュラのみ。
瞬時に現れ、燕が気づくひまもなく切られたのは、ネビュラの時を止める能力による物だったのだ。
止まった時間の中では誰も反応などできるわけがない。
(新手のさらに新手!? か、勘弁してもらいたいね……)
帝王六騎衆と八傑衆最強の兄妹の増援……
沙矢は殺られ、天海と燕は不意討ちを受け、周防も再起不能……
形成は一瞬でひっくり返された。
「ノア。そこの子供と遊んであげなさい」
「了解お兄ちゃん」
妹のノアが南城に襲いかかる。
「なめやがって!」
南城対ノア。
そして天海と戦ってたゴルドは、天海の負傷を見て攻勢に出る。
「ありがとよベバルの坊っちゃん!」
「ちぃ! させん!」
理暗がゴルドを止めようと動くも、彼の前にはネビュラが立ちふさがる。
「玄武、相手しようか?」
「邪魔だ!」
理暗対ネビュラ。
一方不意討ちを受けた天海は、なにも残らず吹き飛んで亡くなった妻を想い、呆然としていた。
そんな天海を容赦せず、ゴルドの拳が襲おとしていた。
「死ねえ天海!」
だが拳は空を裂いた。
天海はいつの間にかゴルドの背後に回っており、そして……
両手につかんだ手裏剣でゴルドを切り刻む!
「おがああああ!」
そして天海の目は違う者を捉えていた。
「ベバル!!」
我を忘れ、天海はベバルに特攻する。
「死に損ないが。オレに勝てるつもりか?」
ベバルは余裕の笑みを浮かべる。
天海はベバルの四方八方に手裏剣を大量射出! 逃げ場など一歩もないほどの……
「下らん」
ベバルの周囲に大きな火柱が立つ。手裏剣は火柱に飲まれ、一瞬で消失。
そして……
「THE END」
ベバルがまたもレーザー状の炎を一瞬で大量に射出!
天海の全身がいとも簡単に貫かれていく……
「がはっ!?」
天海は血にまみれながら地に沈む。
同じ帝王六騎衆のゴルドを圧倒していた天海が、手も足も出ない……
同じ帝王六騎衆でも、上位と下位では天地の差がある。そう思えるほどに……
「天海!」
周防の叫びがむなしく響く。
「周防。言っておくが、悪いニュースはまだあるんだ」
「なんだって……?」
「後衛の情報送る部隊かなんかから、なにも送られてこなくなったよな? トランシーバーも壊れたよな?」
……想像したくないことが頭をよぎる。
「ま、まさか……」
「ぶち壊してきた。その場にいた奴らも一部残して殲滅してきた」
「バカな!? なんで居どころが!? それに大暗黒剣入手の争奪戦に、時間を使うような真似を……」
「確かに、争奪戦で無駄な事する余裕あるわけないよな? そこが浅はかなんだよお前らは」
薄ら笑いを浮かべるベバル。
「バカみたいに全員で取り合いしてどうする? バカみたいにここで魔宝玉もってくる奴待つだけでどうする? 勝者になるものはな、重要な事に時間を使うものだ」
「そ、それが後衛の伝達部隊の殲滅……?」
「そう。奴らがいなくなればお前らに情報が渡らなくなる。現に、オレの不意討ちに反応できなかったろ? 増援が近寄ってることにもな」
伝達部隊には、各部隊がどういう状況か、誰が誰と戦い、誰が近づいてるか知らしめる任務を任せられていた。
だからこそ、何の情報もないのなら、なにも起きるわけがない。……そう周防達は油断してしまっていたのだ。
「あ、あそこには
「ああ。いたなそんな奴。叩き潰してやった。死んだかどうかは知らんが」
「くっ……」
「それに? なんか騒ぎを駆けつけて最高司令とかいうのも来たな」
「――黄木さんが!?」
周防にとって、誰よりも尊敬する人物。最高司令官の黄木善。
そんな人の死など考えたくない。だが、この男がここにいるということは……
「司令は……どうしたんだい?」
「あ? ぶち殺してやった」
「貴様!」
「おっと」
またも炎のレーザーが周防を貫く。
「がはぁ!」
「無駄な足掻きを。そのまま這いつくばっておけよ。この場の奴らを皆殺しにした後、ゆっくりお前も殺してやるから」
「ぐ、くそ! 司令を! 黄木さんを殺しただと!」
周防は今まで誰にも見せたことのないほどの怒りをベバルに見せる。
周防にとって、子供の頃から憧れ、尊敬していた人物。
美波火人と黄木善。その二人の事は軍で共に働くようになってからも、その尊敬の念は変わらなかった。
偉大で、勇ましく、天界のために戦う二人を……いつまでも、いつまでも尊敬していた。
火人を助けられなかった事は今でも悔いている。だからこそ、黄木だけは、なんとしても守りたい。周防はそう思いつづけていた。
だからこそ、ベバルが殺したというのが事実なら、けして許すことなどできやしないのだ。
「まあ、オレも急いでたからな。死体確認したわけじゃねえが……」
その言葉を聞くと、一瞬気がぬけた周防。そこを見逃さず、また周防の傷めがけて踏みつける。
「がああああ!」
「だから油断するなって。だから弱いんだよお前達」
「ぐっ! そ、そんなに憎いかい。ブレボスを殺したオレが……」
「憎いね」
ベバルの視線が急に冷たくなる。
「ブレ兄はな、帝王のクソッタレにも愛されず、捨てられた過去があるかわいそうな人だった」
「……」
「それでもめげずに帰ってきた。そして下から這い上がってきた。あのクソッタレに愛されたい一心でな。それを……」
周防は目を疑った。ここまで残酷な事をしてるベバルの目元か潤んでいることに気づいたからだ。
こんな悪魔のような奴にも、家族に対する情があるものなのかと……
「それを、踏みにじり、手にかけるなんてな……許せるはず、あるか?」
足に力をいれ、周防の傷口をえぐる。
「ああああああ!」
激痛に叫ぶ周防。もう彼には叫ぶ事しかできない。
「だがな、お前は最後だ。精々、仲間が死ぬところを……」
――瞬間、感づくベバル。何者かが、自分を狙って仕掛けてくる事に。
「いい殺気だな!」
その相手の剣の一撃を素手で受け止めるも、勢いに負け、周防から距離を離される。
剣でベバルに切りかかったのは……緑色の髪をした、眉目秀麗の美男子……そう。
「お初にお目にかかるな! 朱雀!」
朱雀、美波神邏がこの場に駆けつけてこれたのだった!
神邏は静かな怒りをベバルにぶつける。
「これ以上……好き勝手できると思うなよ……帝王軍!」
「朱雀、オレはお前が倒したバロンとはレベルが違うぞ?」
神邏対ベバル。この場の最強戦力の戦闘が幕を開ける。
そんな二人を遠目で見つつ、戦闘していたグランド頭領ヴァイソンは驚愕していた。
「バカな!? 朱雀はうちのカゲツが力を封じたはず……」
ヴァイソンの目には、封印能力はすでに解けているようにしか見えていなかったのだ。
――つづく。
「キャ~神邏くん~! 好き! あ、でも状況的に厳しいんですよね……おそらくこの後北山くん達がこの場に来て驚いた時系列に……あれ? なんで神邏くんが先に?」
「次回 悲劇の連鎖。え、こ、怖くないですかこのタイトル……」
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