第2話『魔法との出会い』

 

 表情は凍ったままだった。


 当然といえば当然だ。

 これは精神的疾患で、体に依存はしていない。

 川の水面に映る自分の顔は、相変わらず無表情だ。


 当然のこととはいえ、ショックである。

 転生したならどさくさ紛れに治っていてほしかった。

 誰にも文句は言えないがな。


「へえ、君はそんな悩みを持っていたんだね。

 でもさっき、ちょっと笑ってなかった?」

「......いつのことだ?」

「確か、ボクが魔術を使った時だったかな?

 視界の端に下手な笑顔がちょっと映った」


 下手な笑顔って......

 まあ、恐らく見間違いだろう。


 いや待てよ?

 これが朝比奈先輩の言っていた『何かを好きになればいい』ということか。

 俺の魔法への憧れが、一瞬だけ精神疾患を破った可能性。


「それなら、もっと魔法について知りたいな」

「気になる?

 なら、魔法博士のボクにお任せあれ!」


 精神治療の手立ては、未だ暗雲の中にある。



  ===



 魔法。それは幻想の産物。


 魔法は"魔術"と"能力"の2種からなる。

 簡単にいえば、魔術は魔力を用いた技術。

 能力は魔術の複合系といえる。


「魔術はね、知能と努力があれば大抵習得できる。

 それに対して能力は、1人1つの個性豊かな才能。

 さっきボクが使った2つは、どちらも上級魔術だよ」


 ホノンが指先に炎を灯しつつ、ドヤ顔で話す。


 魔法には五段階の等級が存在する。

 下から順に、下級、中級、上級、究極級、伝説級。


「それは俺でも扱えるものなのか?」

「魔法には"五大原理"っていう必須の技能があってね。

 『魔力・術式・親和・想像・具現』を満たせば、誰でも魔法が使える」


 ようは、『ガソリン・設計図・コミュニケーション・構想図・実践』ってことか?

 なんかむずそう。


「まあ、一番簡単なのは実践してみること。

 ほら、早速試してみようよ!」


 思い立つ前に吉日を押し付けられている感じだ。

 興味があることに変わりはないが。



「なにをすればいい」

「まず、目を閉じて集中。

 人差し指を突き出して、そこに力を込める。

 指先がだんだん熱くなってきて、火が灯るイメージ」


 集中、想像。

 爪に近い皮膚から火が灯るイメージ。

 俺の指はガスマッチだ。


 指に感じた熱に目をあけると、そこには小さな火があった。

 小さな、しかしたくましく......はねえな。

 滅茶苦茶ちっさい炎が、すぐに消えた。


「おお、センスあるね!」

「なんかしょぼくね?」

「まあ、最初はみんなそんなもんだよ」


 ちょっと期待ハズレだが、上手くできた。

 『できる/できない』の壁はとても大きいのだ。




「てか、ホノンの魔法ってどんな感じなんだ?

 さっきのも十分にすごいけど、あれ以上って......」

「え? 気になる? 気になっちゃう!?

 そーだよね! しょうがないなぁ!

 ボクがどれだけ強いのか、教えてあげるよ!」


 お手本を所望したら、凄い勢いでドヤ顔をされた。

 実演前にそんな自信満々だとハードル上がるぜ。


「なるほど、ホノンは小指一本で山を吹き飛ばせるのか!

 そりゃ凄いなぁ。さすがはホノン様だn......」

「ちょっっとスト―ップ!

 いくらボクが凄くても、さすがにそんなことはできないよ!」


 まだ子供だから見栄を張りたいのだろう。

 俺はさっきの炎と風で満足しているから、あの程度でも笑わんよ。

 むしろ、あれだけのことができるなら慢心しても仕方がないと思っている。


「ふぅ、シンジは無責任にハードルを上げるね。

 いいよ。ボクがそのハードル、越えて見せるから!」


 ホノンはニッと笑い、俺に背を向け天に手を掲げる。


 そして、空気が変わった。

 風が巻くように吹く。


「現状、ボクの奥の手は3つ!

 そのうちの1つをとくとご覧あれ!」


 口調も外見もさっきと変わっていない。

 しかし別人かのように、ホノンの雰囲気が変わった。

 さっきの風魔術の時の空気に似ている。


 ホノンの琥珀色の瞳は鳥を捉えた。

 空を呑気に飛ぶ鳥だが、機動力の高い種だったはず。

 そう思い、ホノンの狙いは定まった。


 目を閉じ、息を吐き、吸う。

 そして目をカッと開き、詠唱した。


追駆砲爆ピズマ・エクリクシス!!」


 ホノンの頭上に赤色の魔法陣が現れた。

 その赤色が血のように黒くなった後、中央から光が射出される。


 光の球はいくつかに分裂し、鳥に向かって飛んでいく。

 鳥は攻撃に気がつき、着弾の直前に高速で移動し光をかわす。

 だが、光の球は鳥を追尾し、着弾した瞬間......


 黒と赤の光が空を汚した。

 凄烈な爆発は爆音と爆風を地面に届かせる。

 俺の黒髪が、ホノンの銀髪が、嵐のように暴れる。


 爆音に耳鳴りがする。

 俺は耳を塞ぐこともせず、ただ呆然としていた。


「.........え?」


 黒焦げの鳥が自由落下する。

 俺が言葉を失っていると、ホノンが振り返った。

 ピースサインを掲げ、過去一のドヤ顔をする。


「ほら! やっぱり魔法を見ると口角がちょっと上がってる!

 どうだった? ボク結構、いや、かなり凄いでしょ!」

「さすがに驚いたよ。

 まあ、猫に小判かもしれんが」

「そうそう、ボクって昔から......

 って! 今なんて言った!!」


 茶々を入れたものの、純粋に感心している。

 前世でいうグレネードってあんな感じなのだろうか。

 あんまそういうのは詳しくないが。


「ホノンみたいな子供でもこんなことできるんだな」

「子供っていうな! これでも18歳だぞ!」

「は? 見た目10歳ぐらいじゃん」

「ちょっと諸事情で見た目年齢低いけど、中身は立派な大人なんだから!」


 そう言いながら地団駄を踏む姿は小学生にしか見えない。

 相当大きく見積もっても中学生だ。

 この世界だとこんなこともあるのか。


 見た目に反し、怒らせたら俺もあの鳥みたいになるのだろうか。

 に、日本人らしく平和に行こう。




【メモ】

・ホノン=ライラルフ:銀髪、琥珀瞳、めちゃポジティブ、実は天才......?

・龍ケ崎真治:黒髪、水色瞳、表情治らず、精神治療は経過良好......?

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