第7話 狩りに出た

「はぁはぁはぁ、割と体力があるのね」


 水筒に口をつけながら、俺は呼びかけに答えた。


「そうなんですか?」


 全員が息を切らせながら休憩をしている姿が見えた。


 あれから俺たちは狩り場まで移動してきた。

 馬車にはそれぞれの装備が積んであるので、御者をする人間以外は徒歩だったのだが、まさか十時間も歩くとは思っていなかった。


「普通の新人ならここまで歩かされたら泣きをいれるのに、どんな体力バカなのよ」


 泣きを入れ恨めしそうに見てくる女性冒険者。普通なら彼女の言う通り泣きを入れる羽目になったのだろうが、俺には秘策がある。


「身のこなしは素人同然だが、案外見込みがあるのかもしれないな」


 自分の水筒に注いでいるのはエリクサーなので、水分補給をするふりをして体力を回復させることができる。


「それで狩場まではあとどのくらいなんですか?」


 まさか、日を跨ぐことになるとは思っていなかった。あとどれだけかかるのか俺が確認すると、リーダーが答えた。


「今日はここで野宿して、明日の早朝に数時間移動したところが目的地だ。近くに森があるし、川もある。様々なモンスターが生息しているから得物探しには困らないぞ」


 街郊外の雑魚モンスターと違い、それなりに手強いモンスターが湧くのだという。

 本日も移動中に何匹かモンスターが湧いたのだが、彼らは「時間がもったいない」とばかりに蹴散らしていた。

 そんな彼らがいうそこそこ苦戦するモンスターなら気を引き締めてかからないとならないだろう。


「今日は飯を食ったらすぐに寝るんだな。明日は一日解体作業になるんだからな」


「生憎、体力には自信があるので平気です」


 リーダーからの忠告に、俺は言葉を返すのだった。




「ここが目的の草原だ。駆け出しなんかじゃ到底倒せないモンスターが随時わくから、後衛を護りながら戦うぞ」


 リーダーの声に全員の表情が引き締まる。


「お前たち二人は矢と短剣でサポート。一人は後ろで倒したモンスターを解体して馬車に積み込んでくれ。もうつめこめないか撤退のタイミングになったら離脱する」


 リーダーの指示に対し、


「俺は?」


 今の指示ではどこに立ち位置を置けばよいのかわからない。


「あー、んじゃ。最初は俺と並んで戦ってみるか?」


 先日の件を冗談で流そうとしていたようだ。俺はうなずくと剣を抜き彼の隣に立つ。


「いいか、強引に突っ込むのだけは絶対するなよ? 助けられなくなるからな」


「わかりました」


 他の人間からも視線を受ける。あれは「余計な仕事を増やすなよ?」と言っているような顔だ。


「きたわよっ!」


 そうこうしている間に、モンスターが湧き出した。

 街近郊では小型のモンスターが目立ったのに、ここでは中型の……それなりに大きい犬程度のモンスターがちらほらといる。


「この狩が成功したら酒場で宴会だ! お前ら気合入れて行けよ」


「「「「おおっ!」」」」


 そのようなフラグを立てながら、全員が武器を手にモンスターとの戦いに身を投じた。




「はっ!」


「やっ!」


「えいっ!」


「ふっ!」


 先頭で敵を押さえつけるのがリーダーともう一人の男冒険者で、後衛から矢をいるのが二人の女性冒険者。

 連携がとれていて、前衛が受け止め、距離をとったところで後衛の矢が突き刺さる。モンスターは二人の攻撃を同時に注意しなければならないので、怪我を負わされ倒れて行った。


「回収頼んだ!」


 モンスターが絶命すると、後方に控えていた最後の一人が駆けつけ解体を始める。

 リーダーたちは後方の人間が戦闘に巻き込まれないように移動する。


「やるなぁ」


 こればかりは素直に感心するしかない。

 彼らは役割分担をすると次々にモンスターを倒していたからだ。


「おい、新人。後少しでこっちも倒せる。そうしたら、俺たちと場所を交代して解体をしろ」


 自身も戦闘をしていると、そんな言葉が投げかけられた。


「それは、どうで、しょうか、ねっ!」


 目の前の巨大な狼モンスターに剣を叩きつけ傷をつける。


『ギャインッ!』


 毛が金属のように固く、なかなかダメージが通らない。


「そいつぁ、シルバーウルフ。金属並みに硬い毛で護られているから、駆け出しの生半可な武器や攻撃は通用しねえ。俺たち並みの速度や矢がないと倒せないぞ」


「まっ、時間稼ぎできてる時点で十分合格なんだけどね」


 そのような言葉を言われるのだが……。


「このまま代わったらついてきた意味がないんだよな」


 俺は水筒を口に含み体力を回復すると、


「そろそろ秘密兵器を使うとするか」


 剣を握り締めると、身体中から急激に力が抜け始めた。


「くっ、何度やっても慣れない」


 思わず意識が持っていかれそうになるが、なんとか耐える。

 俺の身体がわずかに傾いたのをチャンスと思ったのか、シルバーウルフが突進してきた。


『ガルルルルルルッル!』


「おいばか、避けろ!」


「矢が間に合わないっ!」


 上段から襲い掛かり、俺に牙を突き立てようとするシルバーウルフを、


「せいっ!」


「「なっ!?」」


 俺は剣を全力で叩きつけ真っ二つにした。

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