第五十五話 大金ゲットとランクアップ
「そう、サルザードに三人だけですごく頑張って活動してるのね」
「はい、皆さんに助けられながら頑張ってます」
錬金術師ギルドの奥、関係者しか入れないスペースにシロネ達は通されていた。
何故そんな場所にいるのかというと、少し前にバレッタが勤務中である受付嬢のティーニスを借りようとした事から始まる。
「おい、そこのお前、ティーニスを少し借りるのと、あと例のアレ作った嬢ちゃんもいる事を上に伝えてくれ」
「ちょっと!」
「申し訳ございません。バレッタ様の要望とはいえこの場で返答することは出来ません。上司に相談して参りますので少々お待ちください」
流石にマスターランクの錬金術師の要望とはいえ、いきなりの無茶振りに応えることはできない。
バレッタに話しかけられた受付嬢は急いで奥へ引っ込んで上司へと報告。
その上司もこのサルザード第九区錬金術師ギルドのトップである支部長まで持っていくと、話したいことがあるから急ぎの仕事を片付けるまで奥の控え室で待ってもらうよう指示し、要望の受付嬢は仕事として接待につくよう命じるのであった。
「私、仕事中なんだけどなー」
「いいじゃねえか、のんびりしていても給金貰えるんだからよ」
「でも、だからって私だけのんびりしてるのは・・・」
上司から言われた通り四人を奥へ案内して話し相手となるため、そのまま同じ席に着いたティーニス。
ただ部屋を出たら同僚が働いているというのに、こうしてのんびりしているのが気まずいのか落ち着かない様子。
「ったく真面目だな。もっと楽に生きれば良いだろうに。嬢ちゃん達もそう思うだろ?」
「ん、サボれる時はサボるのみ」
「必要な時に頑張れるよう、休めるなら休んでも良いんじゃないかし・・・・・・良いんじゃないですか・・・」
堂々とヒドイ発言をするティナと、途中で初対面の相手がいる事に気付き、ちょっとだけ丁寧に言い直すリタ。
バレッタへの返答として内容の酷さは別として、どちらも休むことには賛同した。
しかしここで一人だけ、シロネだけはティーニス側に回る。
「ティーニスさんの気持ち分かります。仕事があるのに休もうとすると落ち着かないですよね。私ものんびりしていられないんです。私が動かないと何かが悪くなるような・・・止まってしまうような気がして、とにかく動くしかないんです。でも大丈夫です。食事をしっかり取ってお風呂入ってちゃんと寝れば、次の日も元気に働けます。そう、健全な肉体と精神は家事に追われながら大量の仕事をしてと生活サイクルに含んでも保てるんです。だから余計な休息って何だかんだ要らないですよね?私は今も元気です」
「嬢ちゃーんっ⁉︎体は無事でも精神が完全にやられちまってるじゃねーか!」
「私、今とっても休みたくなってきたよ・・・てかどれだけ重い責任負わされてるの?流石に私の立場じゃここまで思い詰めること無いよ」
語るシロネの目は死んでいる。
今のシロネを突き動かす原動力は、大事な妹二人が安全でちゃんと生活させる為に気を張り、母親のヘレナの代わりに自分が背負うこととなった責任に向き合い、真っ当することのみ。
リタとティナの方でも色々依頼品を作成して仕事はするが、シロネは常に必要な行動を取っていた。二人が少しでもやりたい錬成を行えるようにと動いていたのだ。
しかし、サルザードに来てからずっと続けていたシロネのキャパシティにも限界が近づいている。見た目に反して強靭な肉体を持っていても、流石に精神だけは無事では済まず、ここまで来るのにかなり擦り減っていた。
「私も仕事をもっと手伝うからもっと休んで!出来れば家事も、料理でも洗濯でも手伝うから!」
「ティナも手伝う!」
まさかシロネがここまで追い詰められているなんて思っていなかったリタとティナは、流石に自分達が動かなければならないと、今までも・・・これからも絶対言わなかったであろう料理をするという言葉を、つい口にしてしまった。
「へえー、洗濯とか料理、してくれるんだ。いっぺんには大変だろうし、まず料理から覚えよっか!」
「「ん?」」
「それで慣れたら、三人で毎日交替で一日の三食を用意するってことで!あ、ダンジョン行く日は朝食と夕食を私が用意するからね」
「「え?」」
「いやー嬉しいな、まさか二人が進んでお料理手伝ってくれるなんて、感激だよ〜」
「「あれー?」」
あの錬金術以外に殆ど興味を示さないリタとティナが・・・シロネが今までに何度言ってもやろうとしなかった二人が、ついに料理をすると言ってくれたのだ。シロネは記念日にしたいぐらい感激していた。
「なあ嬢ちゃん、大丈夫なのか?」
「何がです?」
「いや普通に病んでたろ。こう目が虚でよお」
「いえいえ、私は大丈夫ですよ。ふふふ・・・」
どこか怪しい雰囲気を漂わせるシロネに、バレッタとティーニスはかなり引いた。
「(ねえあのシロネって子、かなり苦労してるみたいだけど一体どういう生活してるの?)」
「それなら本人に直接聞いた方が早いだろ」
「ええ、私から話させてもらいますね」
「もしかして聞こえてた?」
「耳が良いのでテーブル越しの内緒話ぐらいは普通に聞こえちゃいます」
「そ、そうなのね・・・」
シロネはシャンスティルからサルザードへ来た所からヘレナからの課題について、あと今までのサルザードの生活を掻い摘んで話す。
三人だけで放り込まれた新しい環境で、シロネ達がどれだけ努力して来たか知ったティーニスは称賛を送る。
「うんうん、ほんとすごいわね。特にシロネ、妹さん二人の世話しながら頑張ってるんでしょ。なら妹ちゃん二人も、さっきの話してた通りお姉ちゃんに任せっきりにするんじゃなくてちゃんと家事手伝ってお姉ちゃんを助けてあげなくちゃダメだよ」
「・・・・・・ガンバリマス」
「・・・・・・うい」
「はっはっは、優しく諭されると言うこと聞くんだな」
「「むうー・・・」」
バレッタにそう言われたリタとティナは頬を膨らませる。言い聞かせられたのが恥ずかしかったのかムカついたのか、色々入り混じっての反応がそれだった。
それで他三人に笑われることになるのだが、リタとティナの機嫌が更に悪くなる。
そんな妹二人はイライラを発散させるための憂さ晴らしに姉の恥ずかしいエピソード大公開。シロネの慌てふためく反応も込みで大変盛り上がり、時間はあっという間に流れていく。
「あ、もう昼だね。そろそろ発表されると思うわよ」
ティーニスの言葉に皆が時計を確認すると、針はちょうど頂点を指している。
シロネがこの時間にいったい何が発表されるというのか尋ねようとしたその瞬間、部屋の外から大勢の雄叫びのような歓声が聞こえてきた。
「騒がしいわね」
「現場はティナ達が入ってた時よりうるさそう」
「すごい盛り上がりだね」
流石に距離もあり部屋の壁で隔てられているので、自分達が囲まれて声を掛けられていた時よりはまだマシである。だが、現在いる場所にまで届く声量を考えると、発生源にいたらどうなっていたか想像したくない三人であった。
「はいはい、あっちは気にしないで今はこっちよ。シロネちゃん、ギルドカード出してくれる?」
「え?あ、はい。えーとこれ・・・じゃなくてこっちですね」
アイテムボックスとなっているポーチから取り出したのは錬金術師ギルドカード。
ギルドカードと言われて真っ先に触れたのは、いつも使っている冒険者ギルドカードだったが、必要なのは錬金術師ギルドカードだとすぐに気付いて間違えず取り出した。
シャンスティルで登録したものの、ヘレナに錬金術師ギルドの依頼は受けないよう言われていたので、実に数年振りと長い間しまわれていたギルドカードが日の目を見る。
「ちょっと預かるね。どれどれ・・・うわ、本当にランクはルーキーなんだね」
「あはは、一度も錬金術師ギルドで依頼を受けてないのでランクも上がってないんですよ」
「そうなの?じゃあ一切依頼達成せずにランクアップするんだ。珍しい」
「ランクアップ?」
突然出てきたランクアップという言葉。
錬金術師ギルドでは依頼を一度も受けていないと言ったばかりなのに、何故ランクが上がる話が出てくるのかシロネは疑問に思う。
どうしてランクアップするのかシロネが質問しようとしたが、その前にティーニスが素早くあるアイテムにシロネのギルドカードを差し込んだ。すると、アイテムからピピッと音が鳴りティーニスは何かを確認している。
「シロネ・ディーニア、ルーキーランク。魔力も本人とちゃんと一致してるようね・・・はい確認終わったよ」
「あの、それは何ですか?」
「これ?あーこれはね、ギルドに登録した人物とアイテム製作者の魔力が一致しているか確認するためのアイテムよ。昔、他人の作った物を自分が作ったと言い張って不正していた事があってね。今回シロネちゃんが提出したという何でも味変ストローと魔力が同一か確認したのよ」
「それって・・・」
味変ストローは数え切れないほど作ってきたが、何でも変わるものは一度だけ、以前バレッタに大金で買ってもらった物だけだ。
「おう、俺が買った奴だ。俺が嬢ちゃん名義で登録しといたんだよ錬金術師の祭典、自分のアイテムをギルドのトップであるグランドマスターに見てもらえるスペリオル以上しか受けられない大会にな」
「ええーーーっ⁉︎」
「ランク詐称」「お姉ちゃん悪ね」
「私が悪いのっ⁉︎」
まさかの妹二人の裏切りにシロネはダメージを受けた。しかし、バレッタからの口撃は終わらない。
「それはマスターランクであり師匠の弟子である俺からの推薦という事でスルーさせた。それで、もう既に表では張り出してあるから言うが、その大会で最優秀賞をシロネの嬢ちゃんが取ったんだよ」
「「「ええーっ⁉︎」」」
「ちゃんとした錬金術師の大会だからな、更にそこで目覚ましい成果を示した物、いや示した者は錬金術師の歴史に名前が刻まれる上に賞金も上乗せだ」
「「「ええーーっ⁉︎」」」
これから錬金術で味関連のアイテムの第一人者にシロネの名前が挙げられるようになるのだ。
研究者として名が広まり残り続けるのは名誉な事であるが、そのシロネが名誉といったものに興味はなく目指す先はただ人助けのみで、今回だって早く課題を終わらせて自立するための手段のひとつに過ぎない。
だから今のシロネに高揚感など殆どなく、内心的に喜びよりもまだいくらかも分からない大金ゲットと周りがうるさくなることに釣り合いが取れてるのか心配の方が勝っていた。
だがシロネだけ、とんでもなくお得な権利を与えられる事になる。
「それにな、ここで最優秀賞を取った者はグランドマスターに認められたっつうことで、本来幾つもすげえ成果を出さないと受けられないグレイテストランクの昇格試験を受ける権利を一発で獲得できるぞ。まあランクは飛ばせんからスペリオルになってからだけどな」
「すっごい近道っ⁉︎」
「お姉ちゃんだけずるい!」
「シロ姉だけズル」
「ずるくないもん!」
「「ずるいずるいずるいずるい」」
「もう!そんなに言うなら賞金も全部私が使うからね。お姉ちゃんはずるいそうなので」
シロネがそう言い放った瞬間、ピタリとリタとティナからのずるいコールが止まる。
「やだなぁお姉ちゃん、ちゃんと本心ではお祝いしようとしてたわよ?おめでとうお姉ちゃん。やっぱりお姉ちゃんは優しくて素敵だわ」
「ん、ティナ達が本気でシロ姉を貶す訳ない。美しく聡明なシロ姉なら分かってくれるはず。おめでとシロ姉」
態度を一瞬で反転させおべっかを並べ始めた現金な妹達に、シロネはひとつため息をこぼして、それを見守る大人二人は苦笑い。
こうしてリタとティナは、シロネを持てはやすのに必死も必死。少しでも分け前を増やすしてもらえるようにすごく必死だった。
「そろそろいいかな。とりあえず今回のシロネちゃんが得る物の詳細をまとめたから見てくれる?」
ある程度落ち着いた所を見計らい、話を進めようとするティーニス。
三人が気になっているであろう賞金やランクの扱いについてまとめて記載してある一枚の紙を差し出した。
「一応紙を見てもらってるけど、説明もさせてもらうね。まず賞金は最優秀賞の金貨千枚、そして未発達な技術を開発・促進させる研究ってことで、グランドマスターのミリア様が金貨二千枚の上乗せを命じられたそうよ」
「「「金貨三千枚・・・」」」
想定を上回る金額が貰えると知り、三人はごくりと唾を飲み込んだ。
「そしてさっきバレッタ様が言ってた通り、シロネちゃんはスペリオルランクまでランクを上げれば、一度だけグレイテストランク昇格試験を受けれるよ」
「一度だけ、ですか?」
「それなんだけど、どのランク昇格試験も落ちたら力量不足との判定されてね。もう一度ある程度成果を見せつける必要があるの。多分一度も試験受けてないから初めて説明を受けたのかな」
「なるほど、つまり今回得たのはグレイテストランクの通常試験一回分。永続的な特別なものでは無く、落ちたらまた相応に頑張って再度試験を受ける必要があるんですね」
「正解。まあ永続的に試験を受ける権利を与えられた例なんて無いから、それだけ知っておいてね」
ふむふむと頷くシロネ。
まあ元からそんな美味しい話は無いだろうと考えていたので一切不満はない。
「そして最後に、今回特例の参加となったルーキーランクが見事トップを掻っ攫う大番狂わせで中々に荒れてね。ルーキーのままだと他の上位ランクの面目が立たないって事で異例の無条件ランクアップを実施されることになりました。ただ二段階昇格も認められず、ベテランランクとなります」
「なるほど・・・ちなみに私について、どれほど参加者の方に知らされてますか?」
「そうね、当然トップになった作品の写真と名前、そして製作者についてはギルドカードに載ってる情報ぐらいかな」
「なら私の容姿などは知られてないんですね」
「ええ・・・あ、そうか、金狐で現在唯一の味を自由に操る錬金術師だもんね。知られたら面倒なのに絡まれる可能性があった訳か・・・」
「はい、そうなんです」
高ランク錬金術師に目を付けられるなんて面倒ごとの予感しかしない。
(幸い現在地や容姿も知られてないし、個人情報までは錬金術師ギルドは相手に渡さないから、すぐに現在地が知られることは無いかな)
しかし、錬金術師の執念の凄さも知っているシロネは安心していられない。既に多くの人前で披露したり現在進行形でその商品を取り扱う店の近くで活動しているのだから、人の噂がどこの耳にまで届くか分からないのだ。
(もう少し敷地内のトラップ強化しとこうかな、二人も喜んで弄り回すでしょ)
とりあえず帰ったらその辺リタとティナに相談して対策をしようとシロネが考えていたその時、扉の外からノックが三回。
バレッタが「入ってきていいぞ」と声を掛けると失礼しますと入ってきたのは、バレッタに言われて上司まで走った受付嬢であった。
「バレッタ様とお連れの皆さま、大変長らくお待たせしました。支部長の所まで案内させて頂きます」
「やっとかよ。あいつめ待たせやがって。よし、じゃあティーニス、嬢ちゃんに渡す金とギルドカード用意しとけよ」
「言われなくとも。悪いけどシロネちゃん、またギルドカード預かるね。話し終わる頃には更新したの用意しておくから」
「あ、お願いしますね」
再度ギルドカードを預かったティーニスは、そのまま先に退室して行ってしまう。
「あいつ、接待なら見送り終えるまで勝手に行くなよな」
「申し訳ございません」
「いやまあお前さんらに謝って欲しくて言ったんじゃねえが・・・まあいいや、それよりとっととあいつのとこまで連れてってくれ」
受付嬢の後を着いて行き、騒がしい錬金術師達がいる表の一般用の階段を使用するのではなく、幅も狭い裏にあるスタッフ用階段でシロネ達は錬金術師ギルドの五階にある少し装飾を施された扉の前まで到着するのであった。
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