第五十二話 スライムパニック 後編


「そこ、ちゃんとかき混ぜて。怠ると魔核コアが脆くなる」


「違う。あんまり魔力を込めると魔核に記憶させた部分を拭き取る事になる。今は馴染ませるように少量の魔力を込めながらゆっくり混ぜて」


「後は仕上げに魔力を大量に込める。今のままだと足りない」


 知識を得たからと言って実際に上手く出来るとは限らない。

 そこは才能に恵まれたシェリーでも、やはり初めての錬成、それも難度の高い魔核を作るのは厳しく、ティナから注意を受けていた。

 何度も何度も、指摘されては正してを繰り返し、かなりの時間を掛けてやっとのことで完成まで漕ぎ着ける。



「うぅ、本当に大変だった。でも魔核は作れましたよティナ先生」


「ん、鑑定して確かめる」


 取り出された完成品を受け取ったティナは、【鑑定】を使用して魔核の出来を確かめる。


「えと、ちゃんと出来ていますか?」


「それは使ってみれば分かる。さあ、早く入れてみて」


 確認した時間わずか十秒。ささっと済ませたティナは、魔核をシェリーに返して動かないスラタロウ試作品に入れるよう指示する。

 それを聞いたシェリーは恐る恐る、魔核を持つ手をスライムボディに差し込み、中心まで手を届かせると魔核を手放して素早く手を引っこ抜く。スライムボディは形を維持するよう作られており、手が差し込まれた穴はすぐに塞がっていく。

 それを見たシェリーはホッと安心の一息。先程までの様子は、ただ単に手を差し込んだ事でスライムボディに穴が空くと思って心配していたからで、緊張やスライムに触れる忌避感からのものでは無い。


「よし、じゃあ起こしてみて」


「えーと、たしか魔力を込めて命令する感じで・・・・・・【起きて下さい!】」


 命令と言うよりお願いをするシェリーの声に、スラタロウ試作品がぷるるんと反応し、そして・・・・・・。


「え、えええっ⁉︎」


 ビヨンビヨンビヨンビヨン。

 スラタロウ試作品は、その身がどこまで伸縮に耐えれるかを試すように、そのスライムボディを伸ばして縮めてと何度も同じ行動を高速で繰り返し始めた。


「こんな感じに魔核の錬成は一筋縄ではいかない」


「それよりスラタロウが、スラタロウが・・・」


「それは試作品。スラタロウは今、私の自室で元気に飛び跳ねてるか転がってる」


「ううっ、そうですけどこの子が・・・」


「大丈夫。別にこれぐらいでどうこうするほど生半可な作りにしてない。それよりこれ見て」


 そう言い一切止まる気配のないスラタロウ試作品へ手を伸ばすティナ。すると、その手に触れないよう伸びる方向が変わる変わる。


「これ、なんで手を避けるのかシェリーは分かる?」


「・・・・・・たしか魔核を錬成する時、全員の髪の毛とかを混ぜて魔力を覚えさせ、危害を与えないように設定したからです。あれ、それじゃあ正常に機能しているって事ですか?」


「ん、その通り」


 魔核に危害を与えてはいけない人物を設定する時、その人物の身体の一部(髪の毛などほんの少しでも可)を投入する事で簡単に覚えさせれる。

 今回、シェリーは髪の毛一本の先を切って投入し、シロネ達は自慢の狐の尻尾から抜け落ちた尾毛をこの時のため保存しており、それを使用して魔力を覚えさせる事で危害を与えないよう魔核を錬成した。

 なので、ティナの手を避ける動きを見せているスラタロウ試作品は、一見制御を失ったかのように見えてるこれが正しく、作られた通り人に危害を加えないよう行動している証明である。



「でも、それじゃあこのスラタロウ試作品の現状は一体・・・」


「スラタロウとスラジロウの跳ねる動きは結構複雑。上に体を伸ばすだけじゃ移動は出来ない」


「そ、そうなんですね」


「そこは試作品の能力を活用しないと・・・」


 ティナは、シェリーに一度自分で作り上げて欲しかったので最低限のアドバイスしかしなかったが、今はちゃんと細かく教えて次の錬成に備えさせる。

 改善点や錬成の参考例をいくつか挙げており、それを聞いてはメモをするシェリーは真剣に覚えようとしていた。

 そんな二人のやり取りはしばらく続き、やっとメモを取るシェリーの手が止まる。だが、これで一段落とはならず、今度はシェリーから数々の質問が投げかけられてはティナと姉二人も交えて回答してと、質問タイムが始まるのであった。




「魔核の錬成はこんな感じ。わかった?」


「・・・それなんですけど、なんだか教えられたとき以上に難しく感じます。本当にこんなに様々な事に気を使う錬成を続けなくちゃいけないんですか?」


「そこは経験あるのみ。そのうち慣れれば時間も手間も、まとめて短縮出来るようになる。その域に達したらスラタロウのような自律型の魔核を教えてもいい」


「うぅ、気が遠くなりそうです・・・。難しい自律型をほいほい錬成するティナ先生がとても凄いってことが改めて分かりました」


 今回初めて触れてみて大変さを知ったシェリーは素人ながら頑張って想像してみたものの、ティナの域まで到達するのにどれだけの経験と努力が必要なのか全く想像出来ない。


「正直、スラタロウレベルの魔核を作れるのなんてほんの一握りよ。私達を師事したお母さんでさえ無理だって驚いてたし、みんなで見様見真似で錬成してみたら酷い目に遭ったわ」


「だね、あれは酷かったよ。ほんと流石にあれだけ自律して動き回れる子、シャンスティルでも殆ど見なかったね。魔核に関してはティナは天才だよ」


 そんな姉二人の言葉には決して身内贔屓した評価などではなく、いち錬金術師としては本気で嫉妬してしまった者の悔しさが滲み出していた。

 それを知ってか知らずか、皆から称賛されたティナはドヤ顔を披露。姉二人はちょっとイラッとする。


「ま、まあシェリーちゃんもこれから頑張ればどこまで行けるのか分からないから、しっかり覚えてけばスラタロウを超える傑作が作れるかもね」


「む、それは聞き捨てならない。ティナは誰にも負ける気はないから改良させる」


「そこは応援するところでしょティナ先生。なんで対抗心を燃やすのよ」



 こうしてしばらく部屋には四人の楽しそうな声が響いていたが、良い時間帯になるとシロネは夕食を作りに向かい、リタは自分の作業を進めるために自身のアトリエに戻っていった。


 こうして残された二人はというと、シェリーの魔核錬成の練習を続けていって、二度三度と行うと魔力も限界に近づいていたので本日の四度目となる締めくくりの錬成の準備へと取り掛かっていた。


「ん、流石シェリー。たったの三回で中々様になってきた」


「ありがとうございます」


「最後に少し変わった錬成を試す。準備に必要な素材取ってくるから待ってて」


「はい」


「・・・・・・ふふ、楽しみ」


「?」


 ティナが部屋を出ていく瞬間にポツリと呟いた声を聞いたシェリー。

 ティナの悪戯好きはシェリーも知る所だが、今は真面目な生徒として説明に違和感なければ全部聞き入れていた。

 ここで新たに投入した素材についても、さっきとまで少し違う方法で魔核を作る作業を進める事になっても、今はただ教えられた通り魔核を作るのに必死に取り組むだけである。このあと大変な目に遭うともしらずに・・・。




・・・




「二人とも頑張ってるー?ご飯出来たよー・・・って、すごいもうちゃんとした魔核出来たんだ」


 シェリーが四度目の錬成を終えて動作を試していると、夕食を作り終えたシロネが二人を呼ぶためにやって来る。

 そこでシロネは作業台上で飛び跳ねるスラタロウ試作品を発見。傍らで嬉しそうにしているシェリーを褒めながら近寄った。


「すごいねシェリーちゃん。ちゃんと飛び跳ねてて大成功だね」


「はい!頑張りました!」


「ん、シェリーはとっても頑張った」


 この子を見たら分かるよ、と言いつつスラタロウ試作品に手を伸ばすシロネ。

 その手が触れようとした時、果たしてちゃんと避けるのかと試そうとしての行動だった。

 しかし、その結果として予想とは真逆、スラタロウ試作品は差し伸べられた手に飛び移り、腕を伝い登って行ってそのまま胸へと飛び込んだ。


「え、なになになにっ⁉︎」


 ベチャァ・・・。

 スラタロウ試作品は原形を留めず、ただのスライムのような不定形の姿となり、シロネの胸全体を包み込んでしまった。


「シロネお姉ちゃん!」


「大丈夫だよ。それより、どうしてこんな事に・・・」


「ふふ、想定通りの結果になった」


「ティナ、これの原因知ってるの?」


「私、何か間違えたのでしょうか?」


 困惑するシロネと焦るシェリー、そして面白そうに二人を見ているティナ。

 この状況を何か知ってそうなティナに二人は視線を向けてこの現状について尋ねると、そこでティナは悪戯が成功した時の楽しそうな声音で種明かしを始める。


「シェリー、まず錬成は大成功と言っても良い。ちゃんと出来てる。ただ今回の錬成は特別で、原因はシェリーがシロ姉を好きすぎただけ」


「?・・・・・・まさか刷り込みで錬成させたんじゃないよね」


「刷り込み?」


「えーとね、魔核を錬成する時の一つの方法で、ちょっと厄介なデメリットがあるんだよ。シェリーちゃん、最初とは違う材料混ぜて何か強く願いながら錬成しなかった?」


「え⁉︎ええと、えとえと・・・そ、そうですね。シロネお姉ちゃんの事を考えて作りました・・・」


「やっぱりそうなんだね。ティナ、なんで刷り込みで作らせたの?」


「ん、魔核を錬成するならそっちにも触れてもらおうと」


「慣れない内にやらせなくてもいいでしょうに・・・・・・。この感じだと説明無かっただろうし、シェリーちゃんには私が教えるね」


 魔核を錬成する際、行動パターンを記憶させて制御するやり方の他に、自身の考えや想いといった思考を行動パターンとして覚えさせて魔核を制御する刷り込みと呼ばれる方法がある。

 刷り込みは、魔核へ簡単に情報を記憶させる事を可能とする技術だが、未熟だと人の情といったある種の不安定な部分を組み込むこととなってしまう。


「だからね、作るのに慣れてない内は、こうやって勝手に行動に移したり暴走する魔核が出来ちゃったりするんだ」


「そうなんですね・・・・・・あれ、じゃあ今その子が暴走してるのって・・・・・・」


「ティナは錬成中のシェリーに、シロ姉について色々思い起こすように雑談して誘導した。印象やしてもらいたい事とか想像するように・・・」


 ティナがそこで話しを区切ると、ほんの少しだけ静寂が部屋に訪れたが、一瞬でシロネとシェリーによって壊された。それぞれ違った意味で顔を赤くした二人によって。


「えへへ。シェリーちゃん、私に甘えたかったんだ〜」


「ち、違うんです!あ、いや、違うというかなんというか・・・」


「シェリーは必死に念じてた。まさかシロ姉の好感度がここまでとは。それに胸に顔を埋めて思いっ切り甘えたいなんて考えてるとは思わなかったけど」


「違うんですってば、もう!とにかく今は【シロネお姉ちゃんから離れて!】・・・あれ?」


 慌ててスラタロウ試作品に命令するも、何故か動きがない。変わらず胸周りをぐるりと巻きつく形でスラタロウ試作品はシロネに抱きついている。


「なんで・・・」


「刷り込みの問題点のひとつ。刷り込ませた想いが強すぎると製作者の命令すら無視する。つまり、シェリーはそれだけシロ姉に、」

「言わなくて良いです!それなら力ずくで!」


「あ、今は近づかない方が「きゃっ⁉︎」あちゃー遅かったか」


 自身の心情を代わりに晒すスラタロウ試作品に焦ったシェリーは、命令を無視するなら強引にでも剥がしに掛かろうとする。

 それに気付いたシロネは制止するよう伝えるも最初からそれなりに近くにいたシェリーは既に手を伸ばしており、その手がスライムボディに触れようとする瞬間、スラタロウ試作品に引っ張られ、そのままシロネの両腕ごと身体を抱きしめる形で一緒に取り込まれた。


「え、え?あれーーー⁉︎」


「わっ、シェリーちゃん暴れないで。落ち着いてね」


「あっごめ、なさい!」


「ううん、一度暴走すると見境なくなるの伝え忘れた私も悪かったよ」


 現在、シロネは上腕辺りをシェリーの腕に、スラタロウ試作品には腕の殆どを上から押さえられて動かせないでいる。

 これぐらいならシロネも力任せに脱出も可能だが、そうすると自身の背中に貼り付けるように固定されているシェリーの腕を中から無理矢理広げて引き離すことになってしまうので、その選択肢は選べるものではない。


(うーんしまった。シェリーちゃんの手前、強引に引き千切るのはショックがでかいと思ってやらなかったけど、こうなる前に引き千切ってでも脱出するべきだったかな・・・・・・おっといけない。今は後悔するより解決する方が先だよね)


 自分に抱きついて顔を真っ赤にするシェリーを宥めつつ、被害が広がる前に行動出来なかった事に後悔するシロネ。しかし、すぐに平常心で後悔より先に事態の収拾する方法を模索する方が優先だと切り替える。


(手っ取り早いのは魔核の破壊だけど、これは流石に最終手段だよね。あとは・・・製作者が直接魔核に触れて魔力を思いっ切り流しながら停止命令する方法、かな?正直強引な手法しかないし、今できる方法と言えばそれぐらいしか・・・)


 シロネが自身に抱きついて動かなくなってしまったシェリーに解決方法を伝えようとしたその時、ガチャリという音と共に開け放たれたティナのアトリエの扉から、この場にはいなかったもう一人の人物が顔を出した。


「な、何してるのよ、それ・・・」


「あ、リタ。これはね、」

「ヘンタイ・・・」

「え?」

「変態!スライムに包まれてグチョグチョ密着プレイなんてアブノーマルだわ‼︎」

「何を言ってるのリタ⁉︎」


 状況を知らない者がいきなり目にするには刺激の強いとんでもない光景、そしてそれを見たリタからとんでもない発言が飛び出した。

 とんでもない発言の内容が内容だけに、シロネも誤解を解くより先に突っ込まずにはいられない。どんどんカオスになる空間でただ一人、ティナだけが腹を抱えて珍しくケラケラと笑う。


「シェリーを自身の欲望を満たすために利用するなんて許さないわ!」


「ちょっ、落ち着いて。まず自分が何言ってるか考えようね」


「そんなこと言っても無駄よ!まずシェリーを解放しなさい!」


「あっ待って!これ以上近づいたら「きゃっ⁉︎」ってそこで転ぶのね」


 不埒な姉からシェリーを救わんと制止する声を無視してずんずん進むリタは、途中で足を滑らせ仰向けに転んで尻餅をつく。


「いたた・・・なんなのよもうっ!何か変な感触のもの踏んじゃったじゃないの!」


 この場にいる全員は原因となった踏んづけられた物が気になりリタの足下に注目すると、そこには原因となった一目瞭然な証拠、くっきりリタの足の幅サイズにへこみ、潰されて動かないバブルスライムがポツンと残っていた。


「あ、ごめん。気が付かなくて・・・」


「んーん、元からこうなっても良いように数だけは用意してあるから問題ない。それよりケガは?」


「大丈夫よ。・・・・・・それとお姉ちゃんごめんなさい。何も話聞かずに勝手に決めつけちゃって・・・」


「あ、うん、それは良いよ。それよりどうして誤解だと?」


「転んで冷静になるってのもあれだけど、そもそも今問題起こしてるのはスライムだからシェリーがちょっと失敗しちゃったか、問題を好んで起こしそうな外野が一人いるからね。勝手に暴走しておいてなんだけど、そうなった理由聞かせてくれるかしら?」


 かくかくしかじか。

 シロネからこれまでの経緯を聞いたリタは、とりあえずティナの脳天にチョップをかます。


「ひどい、ティナからも理由聞いて判断するべきでは?」


「ふーん、じゃあ言ってみなさい」


「折角だから魔核錬成で色んなパターン試して教えた方が良いと思った」


「で、本音は?」


「何も知らせず実践したら面白くなると確信してたからやらせた」


「このお馬鹿!」


 最初より威力高めのチョップがもう一度炸裂し、今度はティナが頭を押さえて蹲るリアクションが追加される。

 そんな妹を一瞥し、今度こそ協力して二人を解放しようと向き直るリタだったが、ある一点に違和感を見つけた。


「ねえ、そこ一箇所だけ色が違くない?ほら、そこのスライムの中」


 スラタロウ試作品は薄い青を半透明にした色だが、リタが指差す先には拳大サイズの緑がポツンと浮かんでいた。

 スライムボディに取り込まれてる二人には見えにくい位置にある。しかし、リタの言葉に一番反応を示したのはティナだ。

 蹲って痛がるフリをしていたティナは、すぐさま跳ねるように立ち上がり、リタの元へ向かい一瞬でそれが何であるか理解して焦り始めた。


「まずい、バブルスライムが取り込まれてる」


「え、さっきまで無かったんだよね?」


「ん、きっとリタ姉が転んだ時、踏まれた個体の隣を掃除していたのを蹴飛ばしたのが偶々そこへ飛んだんだ」


「私のせいじゃないわよ⁉︎」


「ん」

「分かってるよ。うん、でも急いで脱出しないといけなくなったね」


 スラタロウ試作品に浮かぶ緑の物体の正体。

 それはティナの言う通りバブルスライムであり、推測通りリタが転けた際に蹴飛ばした一体が取り込まれたものだった。



「あの、どうしたんですか?」


 三人は慌て始めたが、今なにが起きているかは魔核について初心者なシェリーには分からなかったので、抱きついてるシロネに上目遣いで尋ねた。


「きゃー可愛いっ!じゃなくて、今の状況なんだけど、」

「それならティナが説明する。今二人を拘束している試作品にバブルスライムが取り込まれた。本来、複数の魔核を取り入れるとエラーで機能しなくなって動かなくなるところ、バブルスライムの魔核は特別製。他の魔核の指示を受け入れる事が可能で、それを行動に取り入れて活動するの」


「つまり、その・・・・・・スラタロウ試作品のシロネお姉ちゃんを抱きしめようとする行動と、バブルスライムの掃除しようとする行動が合わさって?」


「ん、このままだとシロ姉とシェリーは拘束されたままスラタロウ試作品に取り込まれた部位は全部、隈なくバブルスライムが綺麗にさせようと念入りに這い回り始める」


「そんな⁉︎」


 ただ拘束されている状況から一転。このままだと二人は、先の取り乱したリタの言葉通り一般では経験しないような大変な目に遭ってしまうのだ。

 ティナと同じくスライムに特別な魅力を感じているシェリーではあるが、流石にスライムが肌を這い回る事には抵抗があるのか普通にショックを受けていた。


「だから二人は脱出を急ぐ必要がある。そのためにまず魔核の位置を知らないと」


「あー、それなんだけど・・・魔核、私の服の中に入っちゃったんだよね。多分、シェリーちゃんが取り込まれた時の弾みで・・・・・・。初めはシェリーの服のボタンでも入ったんだと思ってたんだけど」


「・・・・・・そんな前屈みになったら正面から中が見えるようなゆるゆるな格好してるから」


「だって色々キツく無いし可愛いんだもんこの部屋着。ほら着いてるモコモコも可愛いし」


「そんなの今はどうでもいい。それより魔核はどの位置にある?」


 自身のお気に入りの服装について語っていたシロネは、ティナの問いかける言葉によりさっきまでの様子はどこへやら、頬を赤らめて視線を逸らしながら恥ずかしそうに答えた。


「それなんだけど・・・・・・ちょっと間に挟まってるんだよね」


 開いた襟元から服の中へ侵入した魔核は、そのまま下に落ちる事なくシロネの大きな障害物によって阻まれ、見事に埋まってしまった。

 それを聞かされたシェリーはシロネ並みに頬を赤らめて、リタとティナの二人はジトっとした視線を魔核があるであろう位置に向ける。


「とりあえずシロ姉、胸を出して」


「ちょっ、言い方!確かにその必要あるかもだけど・・・」


「面倒」


 もじもじしているシロネを見たティナは、じれったいのかただ一言だけ発して魔核があるシロネの服の中、胸元を晒し出すために襟元を引っ張り下げた。その際、ティナ自身もスライムボディに取り込まれたが一切気にしていない。


「やめて!伸びる!伸びちゃう‼︎」


「ん?うわ、本当に挟まってる。それじゃあシェリー、停止するよう強く想いながら魔核に触れて。そうしたら強制的に止まるから」


「えと、私も両腕拘束されてるのですが」


「大丈夫、触れる部位はどこだって良い。だから今一番動かせてる部位を勧める」


「いちばん?一番・・・・・・もしかして」


「そう、今も動いてるそこ、舌先でちょんといったれー」


「そ、そんなっ⁉︎・・・・・・・・・・・・でも仕方ないんですよね?解決するためですもんね」


 妹と妹分に密着され、怪我させないよう大きく動けずもじもじするだけで胸元を晒す羽目になった姉と、ノリノリで姉の服の襟を引っ張り下げる妹、そしてそこへ顔を赤くして言われた通り頑張って舌を伸ばす妹分。


 三人がスライムに飲み込まれ揉みくちゃする光景を見せられたリタはしばらく固まっていたが、正気に戻るとなるべく目立たないように部屋の隅へ避難。

 移動するまでに背後でなにやら「やん、息が胸に当たってくすぐったいよー」「こら動かない。魔核が余計谷間に沈む」「今、頬がシロネお姉ちゃんに挟まれてっ⁉︎」という声が聞こえたが気にしない振り向かない。


(時間制限付きスライムになったのは私のせいだけど、元から解決方法は私がやらかさなくても変わらないし、別に私が無理に入って行かなくても良いわよね。問題ないわよねっ)


 一部責任は感じているものの、スライムまみれになるのは抵抗があるリタ。それに三人の揉みくちゃになる様を見て、混ざるのはもっと嫌だと思った。

 一応なにか緊急事態が起きたら助けに動けるように待機しているので、決して見捨てたわけでは無い。

 そう自分に言い聞かせ、部屋の隅にある物の陰にひっそり隠れて見守るのだ。




「んーっ、んーーーー!やった!やり遂げましたよ!」


 ほんのニ、三分ぐらいの激闘の末、ついにシェリーの舌先が胸の動きに合わせて踊る魔核の動きを捉える。

 その際、ちゃんと魔力を流して停止命令を送るのを忘れない。

 魔核は機能を停止し、スラタロウ試作品も原形に戻ろうとシロネの胸周りをベチャァ・・・としている状態を解除。バブルスライムを取り込んだまま元の形まで戻ると、そのまま重力に引かれてポトリと落ちてスライムボディを落下の衝撃で震わせながら床を転がり三人の元から離れていってしまう。

 そして魔核はというと、シロネに挟まれたままそこに残されていた。


「あれ、魔核はまだ残ってるのにスライム本体だけ行っちゃった」


「シロ姉の胸に挟まれて取り残されるとか・・・なんか腹立つ。ていっ」


「ひゃんっ⁉︎どうして私の胸を叩くの!」


「格差に嘆いて?」


「どういう意味・・・」


「叩いたら何故か更に沈み飲み込むその現象のこと!」


「なにするのーっ⁉︎」


 更なる理不尽がシロネを襲う。

 ティナが素早く一瞬でシロネの晒された胸の谷間へと腕を突っ込んで魔核を回収したのだ。

 異物が勢いよく強引に取り除かれた事により、包んでいたシロネの双丘は大きく揺れたがティナの興味は今、手の中の魔核へと移っていた。


「ちょっとティナ、まずする事があるんじゃないかな」


 だが、そこで待ったを掛けたのは直前まで散々好き勝手にされたシロネ。

 このまま自分の作業に没頭するのは違うのではないかと訴える。

 しかしティナからは「んー」という返事が返ってくるのみ。

 シロネは、そんなティナの態度にため息をこぼすと、使いたく無かった手の一つで罰を与える事にした。


「今回、ちょっと悪戯が過ぎたよね。だから罰を与える事にします」


「ん?」


「明日から一週間、ティナだけ毎食出す野菜の量を二倍にします」


「⁉︎」


 日々の食事は家事全般を担うシロネが管理している。

 つまり料理しているのはシロネなので、献立どころか量だって自由自在であり、完全に掌握していると断言しても良い。

 シロネは妹二人の健康面を気遣い最低限野菜を出していたのだが、その強権で必要以上に嫌がる相手に無理させるのは気が引けていた。

 けれど、今回に関してはティナの反省を促すために効果的な手で、更に不足気味の野菜を摂らせられる絶好の機会なので少し自分を曲げる事にしたのである。


「シロ姉ひどい。横暴だー」


「ひどくありませんー。それよりしなくちゃいけない事あるよね?」


「んー・・・あっ、夕食をみんなで食べること?」


「違ーう!まずティナは一番迷惑を掛けたシェリーちゃんに謝らなくちゃいけないでしょ!」


 ただ今回の騒動についてティナがちゃんと反省と謝罪をしてくれることを期待していたシロネであったが、流石にこうも流されていたら先に進まないと諦める。

 それで今回の件、スライムまみれになったのに加え内心を曝け出す羽目となった一番の被害者であるシェリーへ謝罪するべきだとハッキリ伝えるのだった。

 それを聞いたティナは、ここで魔核のことばかり気にしていてまだシェリーに謝って無い事に気付く。


「ん・・・シェリー、ごめんなさい。今回は悪ふざけが過ぎた」


「いっぱい恥ずかしかったですけど・・・・・・その謝罪、受け入れます。貴重な知識と錬成する機会を頂けましたので。ありがとうございました」


(うんうん、これで一件落着。本当は自分で気付いて欲しかったけど魔核の状態とか気になって仕方が無かったんだよね、多分。これも錬金術師の性なのかな)


 二人の間に遺恨が残ることが無さそうで見守っていたシロネはホッと一安心、と言いたい所だが、錬金術師としての好奇心が人との関係で大事なやり取りより優先されているのは大問題だなと感じたシロネ。


(特にティナの自由奔放さだよね。好き勝手やりたいように錬成したり、悪戯が過ぎる事も多々あるし)


「これは野菜をいっぱい食べさせる罰を増やして矯正していくしか・・・」


「⁉︎」


 ポツリと呟いたシロネの言葉を鋭敏な聴覚で拾い取ったティナは焦る。流石に野菜を何度も盛り盛りに盛られるのは辛い。

 ティナは待ったを掛けようとするものの、それより先に動いたのはシロネであった。


「ティナ、とりあえず明日から一週間、出す野菜を二倍に増やすから頑張って食べてね?」


「・・・・・・」


「あとね、あんまり他所様に迷惑掛けたり悪戯が過ぎるともっといっぱい食べる事になるから気を付けてね?」


「んぅむむむ」


「食べないとティナだけお肉抜きになるから、残さず食べるんだよ。良い?分かったよね?」


「・・・・・・・・・・・・うぃ」


 胸の前で手を合わせてニコニコ笑顔で話しているシロネであるが、どんどん語気だけ強くなっていくので迫力が増していく。

 被害は冷や汗を流すティナの他に、先程話していたためにティナの近くにいたシェリーは巻き添えを食らい、自身に向けられた圧では無いのに身体をブルリと震わせる。


「よし決まりね。それじゃあ食卓へ行こうか。体に着いてたスライムもさっき全部引いてくれたからベタベタしてないようだし。まあティナの悪戯のせいで、もう冷めちゃってると思うけどね」


「スミマセン」


「シェリーちゃんごめんね。また今度、しっかりした物ご馳走するよ」


「い、いえいえ、シロネお姉ちゃんの料理はそんなの関係ないぐらいとっても美味しいですよ!」


「えへへ、そう言って貰えると嬉しいね。それじゃあ行こっか。二人も早く来てねー」


 そう言い残して少し怯えた様子のシェリーの手を取り、シロネは部屋を後にする。




「・・・・・・・・・・・・・・・行った?」


「行ったわね。久しぶりに激おこお姉ちゃんの一歩手前を見たわ」


「・・・リタ姉、助けてくれなかった」


「あんたが全面的に悪いんだから仕方ないでしょ」


「でも助けてくれても良かった。揉みくちゃしてる時に見捨てた!」


「いや私を巻き込まないでよ。私もちょっとそこお姉ちゃんに指摘されるんじゃないかとビクビクしてたのよ、ずっと部屋の隅で」


「やっぱり見捨てた!」


 シロネ達の足音が遠ざかり聞こえ無くなるまで動き出さない二人であったが、十分離れたと判断して始まったのが片付けなどでは無く、まさかのティナの逆ギレからの姉妹喧嘩である。


「まずしっかり謝っていれば罰も無くお姉ちゃんも必要以上に怒らなかったわ」


「ぐぬぬ、事実ばかり並べるのは卑怯」


「そう?本当に全部並べていいのなら今からでもお姉ちゃんに伝えてくるわよ?」


「む、何を?」


「ティナがお姉ちゃん達を助けるために飛び込んだ時、片手しか使わずにいた事よ。二人は色々大変で気付かなかったようだけれど、ティナは片手で服を引っ張って、もう片手で魔石をシェリーの元へ持っていけたわよね?」


「⁉︎」


「あんなに焦るシェリーを・・・焦ってたわよね?・・・・・・まあいいわ、焦るシェリーをノリノリで煽って、まだふざけ続けてたなんて知られたら、ティナの罰は一体どれぐらいになるかしら?」


「スミマセンデシタ」


 早々に決着。

 どう考えてもずっとふざけていたティナが悪いので、逆ギレしたって敵わない。特に裁定を下す圧倒的なお姉ちゃんがいるので、そこへ持って行かれるとどうしようもない。

 ティナはとりあえず食卓へ辿り着く前にリタに口止め料を交渉して、最小限の罰を受け入れるしか無かった。



 その日以降一週間、本当に一人だけ毎食野菜が二倍盛り付けられたティナ。

 錬金術の次にテンションが高いはずの食事の最中、草食動物のように一切表情を変えずひたすら野菜を食むその姿は、同じ食卓に着くリタからも不憫に感じるものであった。


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