第17話 出会い
もし記憶が元に戻ったら、オフィーリアである自分はきっとレオンハルトを愛していて、そして元通りレオンハルトのお妃様に収まる。
では記憶がない自分が、今の自分の意思を通して、その道を潰してしまってはいけないのではないのか。
そして逆に記憶が戻らなかった場合。
高位貴族であり、しかも王族の血が流れるオフィーリア。オフィーリアが何処に嫁ぐかによって、国家間の均衡が変わってくるらしい。
お姫様や貴族の令嬢に産まれて、見た目は華やかに着飾っていたとしても、所詮は単なる政治の道具なのだと。高貴な身分の姫君とは、今のオフィーリアが持ち合わせている価値観では、少しも羨望されるような地位とは思えなかった。
「オフィーリアはどんな人だったのですか?」
問いに、魔術師レナードは静かに答える。
「オフィーリア様は夜会の会場にて、魔術師が殿下に怪しげな魔法を放った時、不審な動きに気付いてとっさに庇われました。
魔法の気配に気付ける、素晴らしい感知能力、そして洞察力。自身の身を顧みず殿下を守った行動力。
何をとっても、時期王太子妃として相応しいと判断しております。またそれ程殿下を愛していたのでしょう」
「オフィーリアが、金髪王子を…」
命を賭けてまで守るなんて。自分という人間が、そんな事をするなんて信じられない。レナードの言う通りそれ程愛していたのだろうか。
今の話を聞けば、他国の人間であるオフィーリアがここまで大切に扱われていた理由も、律儀にレオンハルトが部屋に通っていた訳にも納得がいった。
謎のポエムは理解出来なかったけど。
すっかり外は暗くなり、空は夜の色に染まる。
オフィーリアはテラスから夜空を眺め、息を飲んだ。天頂で広がる銀の星々は、胸に迫る美しさだった。庭の花や木々が夜風に揺れて、夜の香りを運んでくる。
こんな満天の星空は知らない。
きっとオフィーリアの微かな記憶にある世界にも、同じような空は広がっているはずだ。ただ都会のネオンの明るさに、遮られていただけで。
夕食もこの部屋に運んでもらい、出された食事は、牛肉のロースや小エビのテリーヌなどとても美味しかった。食後のデザートも全て平らげた。
(今日は来ないのね…あの金髪王子)
多分毎日欠かさずこの部屋に来ていた気がする。意識のある夜は必ずあの王子が枕元にいた。
訪れがない事と、ショックで寝込んでいると聞かされた事が相まって、レオンハルトがほんの少しだけ気がかりとなっていた。寝付けないせいか、そんな彼との出会いを思い出す。
ある時目覚めると、二次元から飛び出して来たような、金色の髪のとんでもない美形の顔の度アップだった。そんなとんでも美形が、自分を覗き込むようにして、映像に映し出されていたのである。
しかしその時は、レオンハルトが美形である事実などよりも、もっと深刻な事態だった。
寝たまま身動きが取れない自分の隣で、男が添い寝をしていた事に、驚きと恐怖の方が優っていた。
「オフィーリア…!?まさか起きているの…?」
(誰!?)
問われても、声を発する事は出来ないオフィーリアに向かって、彼は話し続ける。しかし混乱した頭では内容が入って来なかった。挙句、額にキスをされた時は失神するかと思った。
この絵に描いたような、無駄にキラキラした金髪の王子が毎日部屋にやってきては、オフィーリアに話し掛けてきた。オフィーリアの意識が、覚醒している事を微塵も疑ってはいなかった。
ところで先程から幾度となく眠ろうと試みているオフィーリアだが、全く寝付けない。それは何故かと、オフィーリアも自分なりに考えてみたら、答えは至極簡単だった。
今まで寝過ぎていたからだ。
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