年上のお姉さんに襲われる

「うふふふ♡」


「ひぇっ・・・!」


助けて母さん。

今僕は、年上のえっちなお姉さんにヤられそうになってます。


でもそれはそれでなんかいいかもと思ってしまう僕がいる。その時ふと、頭の中の遥と雫が軽蔑したような眼差しで「きもっ」と言ってくる姿を幻視した。


「うっ」


なんかダメージを受けてしまう。


「あ、あらあら。そう怖がらないで。私は貴女に・・・いえ、貴方に聞きたいことがあるの」


密かに傷付いた僕を尻目に、優香さんが優しげな眼差しで見つめて言った。

どうやらこのまま「あーっ!」な展開にはならないらしい。ちょっと残念。


ポツンポツンと落ちる水滴の音が、広い浴室に木霊した。


「ねぇ、青峰 湊くん。貴方って女の子に興味がおありかしら?」


「へ?お、女の子ですか?勿論興味はありますけど」


「なるほど・・・計画は上手くいっているのね」


計画?それに青峰って・・・。

僕の名前は春峰だから、優香さんは誰かと勘違いしてるのかな。


スーパーウルトライケメンな僕と誰かを勘違いするなんて───その誰かさんもカッコよすぎるだろ。


なんてツッコミは置いといて、優香さんの表情はどこか物憂げだ。それに何かを知ってるみたい。


もしかして、


「あの、もしかして優香さんって、青峰生徒会長と何か繋がりが?」


「えぇそうよ。昔は優香お姉ちゃん!って後ろを着いてきていたの。その時は研究職だったからね。出会う機会は多かったわ」


「なるほど。きっとその時の青峰生徒会長は可愛かったんでしょうね!」


「ふふっ♡えぇ、とっても可愛かった。勿論、今の貴方は別よ?でも不思議。前に会った時よりも、魅力が増してるわ」


妖艶な笑みを浮かべて、僕の顔を覗き込む優香さん。ついでに揺れるGカップのお胸様。

超高性能湊アイによって、女の子の胸のサイズをはっきりと視認できる。


そんな僕でも服の隙間から谷間が見えそうになっちゃって、思わず目を逸らしてしまった。


「ねぇ、どうして?」


優香さんが僕の頬に触れながら、ゆっくりと名前を呼んだ。

左胸に細い指先でクルクル円を描きながら、耳元で囁く推しの先生の声。


「青峰 湊くん?」


「……っ、あ、あの……僕、春峰なんですけど……?」


呆然としながらも、何とか名前の訂正を試みる。もし誰かと間違えてるなら、その人が可哀想だしね。


でも優香さんはそこで、わずかに目を細めた。

笑っているけど、どこか“試してる”みたいな笑い方。


「 ・・・本当に、そう思ってるの?」


「そ、そう思ってるって何ですか!? 僕はずっと春峰です!」


「ふふっ♡ そうよね。言われた通りに名乗ってるんだものね」


「・・・え?」


“言われた通りに名乗ってる”って何!?

僕の家、そんな裏ボスみたいな親いないけど!?(※います)


混乱する僕を置き去りにして、優香さんは湯気の中で微笑んだ。


「昔のあなたは、ちゃんと 青峰 湊 だったのよ」


「む、昔!?僕そんな記憶――」


「・・・ふふ、覚えてないんでしょうね。だってそう設定・・されてるもの」


「せっ、てい?」


その単語だけで、胸がざわついた。


どういうことなんだろう。青峰、設定っていう単語から紐解こうとしても、湯気のせいで優香さんの濡れた服から見える、黒い下着のことで頭がいっぱいおっぱいだ。


すごく・・・えっちです。


「あら、ごめんなさい。難しい話はもういいわ。湊くんも、混乱しちゃうものね?」


優香さんはすっと距離を詰め、背伸びするようにして僕の耳元へ。

そのまま首筋にふっと息を吹きかける。


「今はただ……えっちな時間でよかったのにね?」


甘い吐息が、耳にかかる。

理性が一瞬で溶けそうになった。


あれ、もしかして今、襲われかけてる?


「ま、待って待って待って!?設定とか名前とかも気になりますけど!まずは一旦待ってください!」


「落ち着いて?♡それに大丈夫よ、いずれ思い出すから」


「いや安心出来ないですよ!?そ、それにこんな・・・ぅっ、ちかいです」


「っ!そんなかわいい反応しないで?ふふっ、思い出すまで……」


優香さんの手が、僕の胸を撫でて下へ――


「――優香お姉ちゃんが、しっかり優しくしてあげる♡」


「いや絶対ろくな意味じゃない!!」


浴室に響く僕の絶叫。


瞬間、雫が浴室のドアをドンドン叩く音が更に大きくなった。


でも、その“春峰”と“青峰”の矛盾。

僕が知らない“設定”

優香さんが知っている“本当の僕”。


全部が、ドアを叩く音を除外して胸の奥の不安を刺激する。


それでも――


優香さんの胸元が揺れるのを見て、やっぱりちょっとどうでもよくなった。


ごめん、妹よ。

お兄ちゃんは女の人には弱いみたいです。


優香さんは、僕のすぐ目の前までスッと距離を詰めて、濡れた髪を優雅にかき上げた。


「ねぇ湊くん・・・そんなに震えてどうしたの?」


「ど、どうしたじゃないです!急に距離近すぎてその・・・心臓がどきどきするというか」


「ふふ♡ それって“男の子”だから?」


「へっ!?」


い、今、男の子って言った!?

いや、待って・・・そう聞こえただけ?


なんて現実逃避する僕。


だってそうじゃないとさ、十年くらい友達として付き合ってきたのに僕が一切男だと気づかない遥と雫二人が馬鹿みたいじゃん!


混乱しながら助けを求めるように優香さんを見ると、その人は無邪気に笑っていた。


「ふふっ♡ 冗談よ。女の子でもドキドキする距離でしょ?」


そ、そうだよね!!

僕が勝手に過敏になっただけ!男バレはしてない!まだしてない、はず。


でも優香さんは僕が男だって気づいてる節があるんだよね。


と、勝手に自己完結してると、優香さんは僕の頬に手をそっと添えた。


「でも湊くん・・・今の反応、とっても可愛かったわよ?」


「や、やめてください・・・優香さんみたいな綺麗な人にそんなに見られると───は、恥ずかしい、です」


思わず涙目で覗き込む形になりながら、優香さんを見上げる。


数秒間、優香さんは何故かボーッとした顔を晒した後、びっくりしたように心臓に手を当てた。


「ッッッ!な、なるほど。あの子も手を出せない可愛さね」


「え?」


「でも動揺してる姿もかわいい。ペットにしたいくらい」


優香さんは、僕の慌てる様子が面白くてしょうがないらしく、クスクスと笑いながらさらに距離を詰める。


ペットなら大歓迎ですよ。

特技はワンワン吠えることです。ちなみに、ネコ科じゃないのかってツッコミは野暮だよ。


「ねぇ湊くん、ほんとに女の子みたいに可愛いわね・・・触りたくなるくらい♡」


胸元と腰に指が伸びる。


何故かここで、遥が「湊はネコか、やっぱりな」って朗らかな笑みでサムズアップしてきた光景をまたもや思い出した。


僕は獅子とか虎みたいなかっこいいネコ科を自負してるはずなのに、優香さんに見詰められると蛇に睨まれた蛙みたく動けなくなる。


「もう触ってまふ!?」


僕が慌てて押し返そうとした瞬間、


ピタッ。


優香さんは僕の手をそっと包み込み、微笑んだ。


「湊くん。嫌なら無理にはしないわ」


「・・・・・・え?」


急に真面目な声だった。


その一瞬だけ、浴室の湯気よりも温かい気配がした。


「無理強いはしない。私は“楽しませたいだけ”なんだから」


「ゆ、優香さん?」


一瞬の優しさに胸が温かくなる。


でも――


優香さんはすぐに悪戯っぽい笑顔へ戻った。


「でも・・・“楽しませて”って言われたら、全力でいくから安心して」


「安心出来ませんよ!?それに今後どんなことがあっても、“楽しませて”なんて言いませんから!」


「あ、今言ったわね。して欲しそうな顔もしてる。よーし、天井のシミを数えてれば終わるから!怖くないわよ♡」


「僕そんなして欲しそうな顔のパターンなんて、搭載してないです」


「ふふっ、じゃあ――」


優香さんは僕の耳に唇を寄せ、


「“言わせて”あげる♡」


「んっ・・・って!こらぁ!」


僕の全力のツッコミが響き渡る。

ところで、男子高校生の一般的な妄想についてだけど、男の皆ならきっと一度は思ったことがあると思う。


年上のえっちなお姉さんに筆下ろしされたいって。


かくいう僕もその例に漏れない。


でも何でだろう、何故か雫と遥の悲しそうな顔が思い浮かんでしまった僕は、眼前まで迫った優香さんの頬に手を置いて距離を取ってしまった。


「あ、あら」


「・・・うっ、ごめんなさい。でも優香さんには、もっと身体を大切にして欲しいです。じゃないときっと、雫も悲しむと思うし」


しどろもどろになりながらも、透けた服から見える下着を直視しないように、はっきりと意志を伝えた。


「そう・・・ふふっ、いいわ」


そんな僕の情けない返答に優香さんは、嬉しそうに微笑んで僕を立ち上がらせる。


まるで僕が拒絶するのが嬉しいみたいに、とっても嬉しそうだった。


「合格よ。可愛いだけじゃなくて、“男”らしくて素敵なのね、湊くん」


「あ、あはは。まぁスーパーウルトライケメンなので」


事実である。

優香さんは自信満々にそういう僕を見てふふっと微笑むと、浴室の扉を開けた。


瞬間、雪崩込むように入ってきた雫が僕の胸に飛び込んでくる。


「湊ッッ!!よかった!」


赤渕眼鏡を曇らせながら、心配と不安を滲ませた表情を解す雫。


「二人は仲がいいのね。お姉ちゃん羨ましいわ」


「っ、どの口が!お姉ちゃんがもし湊に手を出してたら・・・〇〇〇悪口して〇〇〇とっても悪口しながら〇〇〇法則禁止用語するところだった」


僕が一生言うことは無いだろう悪口を優香さんにぶつけながら、コアラみたく抱きつく雫を抱きしめ返す。


流石に優香さんもちょっと涙目になっていた。


っていうかその、雫の真っ赤な下着が透け・・・い、いやいや!何考えてるんだろ僕!


だって親友だよ?昔からの大親友の下着を見たくらいで、今更動揺してるとかどうよ?あ、今笑うとこね?


とかく僕は雫の柔らかな感触を感じながら、抱き締め返し続ける他なかった。







▁▁▁

更新のやる気出てきました。

今まで不定期更新にするつもりでしたが、大幅にプロットを書き換えて再挑戦です。


皆さんから感想を貰う度、かなりの励みになりました。これからも感想やレビューを励みにどんどん頑張っていくつもりです!

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