キス

「湊の不良ー!」


「女たらし」


「美少女ー!」


「天使」


・・・なんなんだろうこの状況。

僕は朝、痴姦冤罪を受けた女の子を助けて、遅刻した・・・のはいいんだけど。


遅刻した足で教室に入った瞬間に、2人にめちゃくちゃ厳しい目で見られた。

なんで?と思いながら二人の席の近くに着席したら、ぷいって顔を逸らされた後にこのザマだ。


僕は・・・罵倒されてるのかな?

それとも褒められてる?

ていうか、なんでこんなに怒ってるの?


疑問は尽きない。


「えと、ごめん。なんでそんなに拗ねてるの?」


「っ、はぁー?おいおい!天下の美少女湊ちゃんはぁ、親友の私たちが心配してRINEも無視してー?」


「ようやく来たと思ったら、また女の子に好かれてる」


「あーあー、私たち心配してたのになぁ」


「ん、返事がないから何かあったかと思った」


「・・・ぐ、ご、ごめんなさい」


あ、これ完全に僕が悪いやつだ。

二人ともぷりぷり怒ってるけど、きっと僕が思っている以上に心配してるんだよね。

僕も遥と雫がいきなり遅刻したら心配だし、連絡がなかったら何かあったらって考えちゃうもん。


だから素直に謝った。


ていうか最近、謝ったり謝られてばっかりなんだけど?


「・・・ま、許してやるよ」


「しょうがない。湊は私がいないとダメだと思う」


「うっ・・・ありがとう」


拗ねながらも、なんだかんだ許してくれるのは本当に優しい。

僕はちょっとありがたい気持ちになりながら、授業を受けた。


───

──


無事に四限が終わる。

残りの二限は明日ある学園集会の椅子運びとからしいから、実質これで授業は終わったみたいなものだ。


「ふぃー・・・やっと終わったよぉ」


首を回しながら、iPadに配布された教材に一通り目を通した。

僕、そこそこ頭はいい方だと思ってるけど、それでもこの量は流石に死にかねない。


共学っていう括りだからなのか、この世界の共学はかなりハードルが高いらしい。つまり、勉強かスポーツができる人しか入れないという仕組みになっているとのこと。


・・・まぁ、男と巡り会いたいって理由で入学されたら困るから、ハードルを上げざるを得ないって言うのが本音だと思う。


でもこの量は酷い。


授業なんかは、遥なんて初っ端から寝てたし、雫は興味無さそうにしていた。


まぁ、めちゃくちゃ頭のいい雫ならテストを真面目に受けなくてもいいかもしれないけど・・・遥?もう少しちゃんと授業うけよ?


この前の考査で、数学のテストが3点だった時驚いたよ?


「あ、やべ」って言ってたからある程度危ないのは予期してたけど、流石にここまでとは思ってなかった。


ちなみに雫は97点でした。

さすがです・・・。


凄いね、2人合わせて平均50点だよ!(白目)


なんて考えていたら、どうやら遥は目を覚ましたらしい遥が、机の上で頭を伏せたまま呟く。


「うへぇ・・・何言ってるかさっぱりわかんねぇ。まぁいいや、食堂行こーぜ食堂!」


どうやら元気が出たらしい。

めちゃくちゃいい笑顔だ。


・・・あ、お胸さんも元気なようで。

ご馳走様です。


どうやったらそんなに大きくなるか分かんないけど、とりあえず拝んでおく。


「不可解。湊はなぜ拝んでいる?」


「いや、そこに山があったからつい」


「やまぁー?何処にもねぇけどなぁ・・・」


そこにあるよ。

ミナトアイによる予測サイズはF。

雫はCだ。


・・・あれ、よくよく考えたら僕って、親友の女の子たちの胸のサイズを吟味する最低野郎なのでは?


いやでもこれは、男なら仕方な・・・くないよね、ごめんなさい。


───最低だ、僕って。


「行くぞー湊、雫。急いでいかないともしかしたら空いてねぇかもしれねぇ」


「うぅ、分かった。じゃあ急いで行こうか」


「湊、また変なこと考えてそう」


「失敬な!」


いやまぁその通りなんですけどね?


でも流石に罪悪感が凄いから、お詫びに食堂で食べた分を奢ってあげようかな・・・でもこれって。

都合の悪いことを食べ物で誤魔化す最低野郎では?


・・・違うと思いたい。


───

──


ワイワイガヤガヤ、という騒音が食堂内に響く。

僕たちが少し遅れて食堂に到着した時にはもう、食堂の外にまで出かねないくらいの人達が並んでいた。


ちなみにその横には男性専用ゾーンがあり、数人が使っていた。


「おうおう、めっちゃ混んでるなぁー」


「当然。うちの学校の食堂はプロを雇ってる。なのに価格は財布にも安心・・・ありがたい」


その言葉の言う通り、うちの学校の食堂の料理は美味しい。

外から取材が来るくらいだ。


そんな食堂の料理の中でも、僕はチキン南蛮が1番好きだ。

あれは人をダメにする・・・オイシイ。


トレーを手に取って、チキン南蛮専用のコーナーに並び注文する。遥と雫は2人とも別々の場所に並んだ。


注文は・・・どうしようかな。今はそんなにお腹空いてないから少なめにしよう。


「おばちゃーん!」


「おー!湊ちゃんいらっしゃい!今日はなんだい?」


食堂のおばちゃんに話し掛け、どれくらい頼もうか思案する。

僕は出された料理は全部食べたいから、多すぎたら困るし・・・でも少なくても後で足りなくなってへばっちゃうから・・・。


「えーっと・・・じゃあ、特Lサイズを三つ!」


三つならちょうどいいかな?

特L1つで2キロくらいあるから・・・大体全部で6キロくらい?


うん、ちょうどいいね!


「───な、特Lを・・・3つかい!?」


なんて思ってたら、食堂のおばちゃんにびっくりされた。


「え、多かった・・・?」


「いや・・・もしかしてダイエットかい?」


「ううん、全然?ただ今日はそんなにお腹空いてないからさ!これくらいでいいかなーって」


「そ、そうかい?ならいいんだが」


ダイエットを疑われるくらいって・・・そんなに量少なかったかな?

まぁたしかに、いつもは10キロくらい食べてる気はするけど・・・。


でも何故か、後ろにいた人達がビックリしたような顔で僕を見つめていた。

え、なんで?


「はい!お待ちどうさんだよ!」


暫く隅っこで出来上がるのを待っていたら、食堂のおばちゃんが専用の台座にチキン南蛮を乗っけて来てくれた。


・・・オイシソウ。


はっ!?危うく食欲に乗っ取られそうだった。


「ありがとうおばちゃん!じゃあ後は持っていくねー!」


「いいってことさぁ!あんたは育ち盛りなんだ、いっぱい食べな!」


そういっておばちゃんはニッコリ笑って、厨房の奥へと消えた。

それを見送って、2キロのチキン南蛮3つをトレーに入れて、いつもの席まで歩く。


僕がいつも座る席は、どんなに人が居て混んでいても、何故かちゃんと空いているのだ。


だから今日みたいな日でももちろん空いている。


「あれ?二人ともまだ来てない?」


トレー3つを抱えながら歩くが、どうやら二人ともまだ注文が済んでいないみたいだ。


先に食べておこうかな?


・・・いいよね?


「よし、食べちゃお!いただきます!」


お手手を合わせていただきます。


顔にかかる銀髪を耳までかきあげて、目の前のチキン南蛮を見据える。


そして・・・配給された黒いお箸で、これでもかと積み上げられたチキン南蛮を綺麗に切り取って口に運んだ───瞬間。


「うっまぁぁぁーーーー!!?」


雷が落ちそうなくらいの衝撃が体を伝う。

毎日毎日チキン南蛮食べてるけど、何度食べても飽きないくらいこのチキン南蛮は美味しい。

食べても食べても止まらない。


これが・・・麻薬?


テーブルの上のチキン南蛮と向き合って、パクパクと一心不乱に食べていく。


1つ目の皿がなくなったのは、たった2分の事だった。


「ふぅー美味しかったぁ!これがあと2個もあるなんて・・・幸せ過ぎない?あーでも、こんなことなら追加であと4個くらい頼めばよかったぁ」


ちょっと後悔。

やっぱりチキン南蛮は何時食べても美味しい。


そんな脳天気なことを考えながら、ほっぺたを緩ませる。

そして、そのまま続いて2皿目のチキン南蛮を食べようとした・・・その時だ。


───トントン。


突然誰かに肩を叩かれた。


遥かな?


そう思って後ろを振り返ろうとしたら「んむっ」人差し指で止められてしまった。


ちょっと痛い。


「きゃーーー!」


「と、尊い・・・」


なのに何故か周りの女の子達がキャーキャー言い始めた。


え?え?なになに、どういうこと?

イマイチ現状を把握出来ない。


でも確かなことがある。


「ふぁ、ふぁれへふか?」『だ、だれですか?』


間違いない。

これは遥じゃない。


そもそも遥も雫もこっそり来るようなタイプじゃなくて、真正面からガツンと来るタイプだ。


つまり、こんな肩をトントンしてほっぺをぷにっとするような子達じゃないってことだ!


「んふふ、誰ですか?って顔してるね・・・あーあ、せっかく私は君に会いに来たのに」


・・・ま、待って?この声って。


「生徒会長の私を忘れるなんて・・・悪い子だ」


「ひ、ヒェッ!?」


や、やっぱり生徒会長!?

なんでこんなところにいるのさ!?


「悪い子はこうだ」


「ッ!?ぬぐぉぉぉ」


驚いて放心しかけてた僕のほっぺを、そのままむにゅむにゅとこねくり回してきた。


あっ、やめて!

僕のクールでプリチーなほっぺが!


視線で訴えかけるが、何処吹く風というようにお構いなく揉み続ける。


結構痛い。


「き、きゃーー〜!」


「見て!あんなに距離が近い・・・!」


それなのに周りの人達は助けるどころか、むしろ喜んでいる気がする。


なんで?めっちゃ痛いんだけど!?


「い、いふぁいです」『い、いたいです』


「ん?それはすまないね。少し夢中になっていたようだ」


「ふぁいじょぶです」『だいじょぶです』


暫くモチモチと僕のほっぺを触っていたので、何とか説得に成功した。

おのれ生徒会長めぇ・・・くっ、でも女の子だから許しちゃう。


・・・あれ、もしかして僕ってチョロい?


なんて考えながらも、ようやく離してくれた頬っぺが無事が触っていると。


「・・・あぁ、そうそう。次は忘れないように」


「ふぇっ?」


───ちゅっ。


「んっ、ふふ。覚えておいてもらわないとね」


「・・・へっ?」


唇に当たる柔らかい感触。

人肌よりも暖かくて弾力のあるナニかが、僕の唇に優しく触れる。


い、今ぼく・・・何をされた・・・の?


「きゃーーー!!」


「見た!?今・・・唇にちゅーしてたわよ!?」


唇に・・・キス?

僕の唇に・・・生徒会長が・・・キス?


いったい誰に?・・・僕に?


「───っ!!!!!」


それを自覚した瞬間、僕の意識は途絶えた。


───

──


「ごめん湊ぉー!待たせ・・・た」


「謝罪。思っていたより混んで・・・?」


牛丼と蕎麦が乗ったトレーを持ちながら、二人がいつもの席に向かっていく。あまりにも人が多かったため時間を取られた二人。


だからこそ、待たせてしまった湊に謝ろうとして。


「・・・なに、してんだよ」


「・・・湊?」


2人は目撃してしまった。


自分達の親友である湊が、この学校の生徒会長であり、学園長の孫娘である人物と───キスしている瞬間を。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る