第2話

 数分後には近くの住民がやってきて悲鳴をあげた。やってきた警察官は現場を見てすぐさま応援を呼んだ。そのまた数分後には現場は警官だらけになっており、俺は保護された。

「僕、お名前は?」

俺が警官から離れたところでうずくまっていると、女性警官が笑顔で隣にしゃがみこんで声をかけてきた。俺はおびえながら答えた。

「真田優馬」

「優馬君ね。いい名前。今何歳?」

「五歳」

そのあとの会話は覚えていない。怖くてうまく会話できなかったはずだ。

気が付いたら母方の祖母の家にいた。祖母が寝かしてくれていたのかとても心地よかった気がする。老人特有の優しい香りが俺を包んでいた。束の間の安らぎだ。

「おお、お目覚めか。」

祖母は芝居がかった口調で言う。外を見れば昨日の闇が嘘のように消えている。快晴だった。

「パパは? ママは?」

俺はまだその時昨日の出来事が夢だと思っていた。しかし、夢ではなかったようだ。不安になる俺を祖母は優しくなでてくれた。表情を一切変えずに

「ママとパパは遠くに行ったのよ。だからしばらく会えないかもねぇ。」

と言った。もちろん、嘘をついたわけだが俺はまだ祖母の言葉にすがることができた。それはそれでありがたかったと思う。

 その日の昼頃、俺は人生を変えてくれる人物に出会った。最高の探偵に俺は出会えたのだ。

「ピンポーン」

「どちら様ですか?」

「わたくし、雲野幸三というもんです。ここに真田優馬さんはいらっしゃいませんか?」

祖母は顔をしかめる。そして冷たく言い放った。

「そんな子は知りません。警察を呼びます。」

「おっと、待ってください。わしは暗殺者やありません。組のもんですよ。ほれ、見てください。」

男はそう言ってジャケットの内側を見せた。

「そうですか、おかえりください。」

「すんまへんな。せやけどここに優馬さんおるんやろ?」

「ですからそんな子知りませんって。」

「わしはさっきから優馬さんとしか言うてない。せやのにあんたは『そんな子』言うたな。わざわざ『さん』付けして呼んでんのになんで子供やってわかったんやろか。えっらい不思議やな」

「た、確かに優馬のことは知っていますがこの家にはいません」

「ん? ほな、なんで車にチャイルドシートが乗っ取るんや?」

「そ、それは」

「もうええ。他にも言い訳はできるやろうけどわしも下調べくらいしとるんや。それにわしは探偵や。何も優馬君をどうこうしようって輩やない。もし、あんたが拒んでも後ろの車にこっわい面下げたお兄ちゃんがいよんねん」

「わかりました。今開けます」

祖母は俺を押入れに隠して玄関を開けた。玄関でトラブルはなかったようで祖母は出てきていいわよと言った。

「おお、君が真田さんの息子さんか。立派なもんやな」

雲野は俺を見て満足したようだった。関西人特有なのかはわからないが、雲野からは優しいイメージを感じた。髪の毛は後ろにきっちりと撫でつけられおり探偵というよりかはヤクザに見えた。

「おじさん何しに来たの?」

「おうっとすまんすまん。わしは雲野幸三言うて探偵をやっとるんや」

「タンテー?」

「まあ、いわゆる金田一耕助ってところやな」

 雲野は自慢げに鼻をさする。

「誰それ」

「坊ちゃん金田一知らんのか。八つ墓村や八つ墓村」

「なにそれ」

「うそやろ、知らんのか。ほなシャーロックホームズや。」

「ならおじさんは、おじさん滝に飛び込むの?」

「なんでそこだけ知っとんねん。ほな探偵ってもんを教えたる」

俺はその時目を輝かせていたはずだ。俺はヒーローを求めていたのだと思う。

「教えて、教えて」

「優馬君はさっきの会話聞いとったか?」

「う、うんちょっとだけ」

「どこからや?」

「ピンポーンってなったとこから」

俺はその時、間違えて『ちょっと』と言ってしまっていた。嘘をついたので叱られるかと思ったが雲野は豪快に笑った。その表情が俺にはとてもうれしかった。

「はっはっは。最初やないかい! 坊ちゃん結構笑いの才能あるな。いっそ吉本に入るか?」

「聞いてたらわかったやろ。簡単に言うとタンテーっていうのは、人がわからんことが分かる仕事や」

俺はその言葉に目を輝かせた。その言葉は俺の心に深く刻み込まれた。探偵がかっこいいと思った。

「すごいねおじさん」

「せやろ。でもな、

さすがの探偵も全部のことが分かっるわけやない。優馬君に探偵の手伝いをしてほしいんや。」

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