上空
時は少し遡り、イグニディス達が城に到着した頃。ルーベウスは、ィユア・ライトテスと共に、ヴァーゴ領の上空にいた。横一列になって、一機のヘリコプターに搭乗中である。
「この音は何とかなんねぇのかな」
パウチに入った栄養剤を飲みながら上を見た。回転するプロペラが常に騒音を出している。
「ゴーストビジョンで車体にステルス施しても、音で存在を気づかれそうだ」
「ヘリコプターなんて、ほとんどの人が知らないです。平気ですよ」
左で、同じくパウチを咥えながらィユアが言う。着ているインバネスコートの裾が、尻の下で、少しシワになっていた。
(……そろそろ、射撃の時間になるか)
喋りつつ、機内の時計を確認する。ヘリは三機編成で、一機はこれ、もう一機にはプディルとフレデリカが乗っており、残る一機には、全長二メートルの太い金属棒を搭載している。雪のように白いため「ノース」と呼ばれるその棒、中には抗魔物質を高濃度で封入してある。時間が来たら、会談の場にぶちこむ手筈だ。
ノースは、発射直後から抗魔物質を微量に撒き散らす。それにより、向かう先にある全ての魔法は無効化されるが、防御層が厚い場合、壁に刺さる前に、ノースが失速して落ちてしまう恐れがある。推進用の火薬がくっつけてあるが、あまり強力ではないのだ。
実は、初めは会談なんてせず、ヴァルハラードの執務室に、ノースを直接打ち込む予定だった。しかし、ヘリコプターを使って下調べを行なった結果、彼の執務室は地下にあると判明した。そのため会談を開かせた。会談に使われる部屋は――候補はいくつか考えられたが――いずれも、上の階である。
(ノース、適度な威力で頼むぜ。壁は貫通してほしいが、部屋をぶっ壊すわけにはいかねぇからな)
会談の部屋にはフランゼフとイグニディスがいる。室内での彼らの位置は、イグニディスの腹に仕込んである発信機で検討がつくが、それでも加減は難しい。
不安で仕方ないが、ノースを打ち込むのは自分の役目ではない。今はやれることもなく、ルーベウスは、うまくいくよう祈りながら、空になったパウチを所定の場所に捨てた。
「お前、今日はよく飲み食いするな」
操縦者のアガサキが言った。
「緊張すると食べるタイプだったか?」
「あー、いや。これはその……ただの飲食物じゃないっていうか。ハイになる効果があるっていうか」
「本当か? それ、悪影響とかないだろうな」
「ねぇよ」
ただのハイカロリー飲料だ。プディルとフレデリカも飲んでいるだろう。抗魔物質の対策としてエーテラ寄宿を行ったため、イグニディス以外の研究部五人は、エネルギーの大量摂取が必要なのだ。とにかく腹が減る。
(機密事項だから、アガサキ相手でも、詳細を喋ることはできないんだよな)
話題を変えようと、ルーベウスは「なぁ」と切り出した。
「なぁアガサキ、お前、よくヘリの操縦なんてできるよなぁ。ボタンも多いし操縦桿も複数あるし、傍から見ていると、もう何が何やら……」
「基本はバイクと変わらないさ。一週間ほど缶詰になっていれば、操作は誰でも覚えられる。それより、後ろのあいつら、本当に大丈夫なんだろうな?」
ルーベウスは後ろを向いた。魔獣が七頭。檻に入れられて積まれている。ドルギアの県級センターから持ってきたもので、102の親戚にあたる個体だ。見た目はよく似ている。ただ、牙にある毒は、致死性ではなく麻痺性だ。
「機械を脳に埋め込んで、行動を制御していると聞いたが。本能には逆らえないんじゃないか」
「習性を利用しているんだ。オオカミは、ボスの言うことには従う」
彼らも作戦に欠かせない。ヴァルハラードの元に護衛が集合しないよう、城を駆け回って兵士達を翻弄する。
突如、ガー、ピーという音が機内に響いた。
『こちら第三班! ノースの目標地点への到着を確認。作戦第二段階に移行せよ!』
「第二班、了解した!」
アガサキが素早く返答する。
「檻とハッチを開けるぞ。準備はいいか?」
ルーベウスは、左右の仲間二人の顔を見て頷く。濃縮された抗魔物質により、ヴァルハラードの洗脳効果はなくなった。これで、仇敵の元で剣を振るえる。
(待ってろよ、イグ。お前一人だけで、戦わせたりなんかしねぇから!)
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