国復部
室内に入ってすぐ、ルーベウスは、国復部は特殊魔法研究部とは全く違うのだと実感する。いや、そもそも同じだとは思っていなかったが、完全に別物だ。こちらの研究室は書類や本に覆われているが、国復部のラボはメカだらけ。錆びのような機械油のような、独特のにおいが微かに鼻をつく。天井は高く、金属製の梁がむき出しになっており、要所に滑車やロープがかかっていた。その下、至るところに、名の分からない機械が置いてある。そのうち最も目を引くのは、奥にある巨大なガラスケースだ。騒音源はそこで、中に複数、不思議なものが浮かんでいた。
(もしかして、あれがヘリコプターか? 航空機……なるほど、確かに飛ぶな)
オタマジャクシを金属で再現し、頭に旋回する羽をつけたようだと思った。大きさは人の胴体ほど。全部で五基ある。そのうちニ基はガラスケースの底面に鎮座し、三基が、雑音を立てつつ、ふらふらと左右に揺れながら、何とか空中に留まっていた。
傍には操作パネルのような複数置かれ、ゴーグルをかけた男女が、それを懸命に操作している。操縦しているようだが、どのボタンが何に対応しているのか、一瞥しただけでは分からない。
「こっちだ」
ギルバルトの案内で奥に行くと、白い扉があった。そこは休憩室らしく、机やソファが置いてあり、小さな流しが設けられている他、菓子や雑誌が用意されている。
「測位システムの被験モニターは、イグニディス君と聞いている。間違いないか?」
どうやらフレデリカは、異精霊契約のことは伏せ、単なるモニターとしてこちらを紹介したらしい。イグニディスが、はい、と頷いている。
「んじゃ、此処に座って上半身の服を脱いでくれ。腹に傷があるんだよな? それを利用して機械を埋め込む」
イグニディスが着ていた白衣に手をかけたのを見、ルーベウスは軽く手伝った。手を出さずにはいられない。包帯を解くのも、ギルバルトがやると言ったが、機械油のついた服を着ているような人に弟の傷口をいじられたくなくて、ルーベウスはぎっちり手を洗った後、イグニディスの様子を見ながら対処した。もっとも、機械を――親指の爪ほどのサイズだ――埋め込むのは、ギルバルトの仕事だったのだが。
最中はィユアがサポートし、イグニディスの容態を常にチェックしてくれていた。
(なんか俺、やんなくていい仕事に手を焼いてるだけって感じだな……)
そんなことを思った時だ。
「すみません、ルーベウスさんはいらっしゃいますか?」
扉をノックし、女性が顔を出した。
「はい、俺ですが」
「呼び出しです。今すぐ、F棟の応接室に来てください」
「応接室?」
思わず問い返してしまった。そんな場所に何の用だろう。
「わざわざ連絡してくるなんて、火急の要件だろうな。ルベス君、また後で来てくれ」
「でも」
「ルー、行って。僕なら大丈夫だから」
ィユアに傷口を確認されつつ、イグニディスが言う。出血もほとんどないし、顔色も呼吸も落ち着いていて、確かに問題ないようだ。
「……分かりました」
どのみち、この場でできることはあまりない。後ろ髪を引かれる思いをしつつ、ルーベウスは一人、国復部の部屋を後にした。
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