王都・城下町

 イグニディスは床に座り、箱の前でせっせと手を動かしていた。筆記用具、本に薬。必要と判断したものを詰め、最後に一通り中身を確認して蓋を閉める。

「よし、荷造り終わり」

 立ち上がって軽く伸びをする。もう十七歳、ジルゴ村にいた時よりずっと背が高くなった。腕力は成人にも引けを取らない。


「おーい、イグ!」

 扉を勢いよく開け、ルーベウスが飛び込んでくる。彼は十八歳、すっかり好青年になった。

「終わったか?」

「うん」

「それなら道場で手合わせするぞ。今朝から引っ越しの準備ばっかりで、体がむず痒くてたまんねぇよ」

「兄さんは本当に元気だね。疲れてない?」

「何言ってんだ。俺らは来週から機動隊員になるんだぜ。国王陛下直轄の特殊部隊だ。命令を受ければ、北に南に、東に西に。外国にだって行くだろう。片付けなんかでバテてたまるか。それにお前、やるつもりで、剣をまだあそこに掛けてあるんだろ?」

 ルーベウスは壁を顎で指す。金属製の刀掛けがあり、剣が二本横たえてあった。片方は幅広い長剣で、もう片方は細身に作られている。

「見抜かれたね」

 イグニディスは笑みをこぼす。

「じゃあ、しようか」

「よし! ほぅら、とっとと来い」

「待って」

 駆けるルーベウスを追いかけ、イグニディスは剣を持って部屋を飛び出す。すると。


「こらっ」

 向かいのドアが勢いよく開かれ、小柄な老人が姿を見せる。ルーベウスの祖父だ。

「二人とも、剣を持って廊下を走るんじゃない」

「悪ぃ悪ぃ、体力が余ってるんで!」

 ルーベウスは笑いつつ階段を駆け下りる。一方、イグニディスは立ち止まった。

「お爺ちゃん、道場に行ってくるね」

「引っ越しの支度は終わったのか?」

「剣以外、必要なものは全部荷詰めしたよ。後は下に運ぶだけ」

「おーい、イグ。早くしろ。置いてくぞ!」

 ルーベウスが玄関で声を張り上げている。祖父はそれを見て小さく肩をすくめた。優しげな目元は、少し潤んでいるように見える。

「ルーはもう成人なのに、子供の頃から変わらないな。相変わらずよく走り回る」

「ほんと、元気だよねぇ」

「お前の方がよほど大人だな。イグ、どうかあいつを宜しく頼むよ」

「はい。それじゃ、いってきます」

 イグニディスは軽く手を振り、玄関へ向かう。遅いぞ、とルーベウスに言われながら外に出た。

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