第二章 第11話#7-2 陸士長 九十見醒惟

 絶対に違う。あの光点は意思を持った物体の動きだった。


 ベテランの上官を前に反論することはできなかったが、彼女にはそれが沿岸に接近してくる小型船だという確信に近いものがあった。

 「でも、本当にあれは……」

 パメラは唇をかんで言葉を飲み込んだ。上司に信じてもらえない自分のふがいなさが悔しかった。

 

 琉洲奈島南島で最も賑わう場所は南側の新厳原町だ。新型コロナ感染症対策の外出禁止がやっと解除された。

 

 その夜、パメラは外出許可をもらって新厳原町に出かけた。金曜日だったので陸上自衛隊の隊員たちも町に繰り出していた。彼女にとって初めて手柄になりそうな不審船の発見が誤認と言われたことが悲しかった。久しぶりに居酒屋で飲むビールは苦かった。

 

 「パメラちゃん、久しぶり~」

 陸上自衛隊の若手が居酒屋に入ってきた。観光客向けの店は他にもあるが、地元向けの島民価格で飲める店は限られている。待ち合わせしなくても同じ店に集まってしまう。

 「久しぶりです」

 「パメラちゃんがここにいるって九十見に教えたら、あいつ泣くだろうなあ。あいつ今日の当直で出て来られないんだ」

 

 「九十見さんって、あの……。」

 数週間前に初めて会った時、ずっとしゃべり続けていた九十見のことを思い出した。

 「そう、あのチャラ男だよ」

 「話の途切れないマシンガントークでしたね」

 出会ってすぐにパメラの隣に座り込み、自分の家族構成、趣味、これまでの彼女たちといった話を聞きもしないのにずーっと話していた。

 「パメラちゃんがいるってあいつにLINEしてやろう。」とみんなが笑った。

 

 自衛隊員には当直がある。当直時の職務はその駐屯地や勤務先によって違う。当直でも早く仕事が終わり通常と変わらず夜に外出できる職務もある。琉洲奈警備隊では基地内の巡回や機器類のチェックが明朝まで続く。当直の予定が運悪く土日と重なれば、休みでも外出できない。

 

 九十見は誰が見てもはっきりとわかるくらいパメラにご執心だった。面白がった何人かが新厳原の居酒屋で彼女と一緒に飲んでいることを知らせたようだ。当直中の九十見がさぞ悔しがっているだろうとクスクス笑うものも多かった。

 「なんか、自信失ってしまいましたです」

 ぼやいてローテンション中の彼女は、ハイテンションキャラの九十見がいなくてよかったと思った。だが、そうはいかなかった。

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