1分で読める?ショートショート・ホラー集

村田鉄則

奇妙な客

 とある喫茶店でエフ氏は友人と昼食を取っていた。

 友人はエフ氏とは大学の同期であり、2人は大学に関する話題で盛り上がっていた。

 最初は講義の内容について話していたが脱線していき、段々と好きな女子の話へと移っていった。

 友人は満面の笑みを浮かべながらエフ氏にこう聞いた。

「お前ってエスさんのことが好きなんだよな?この間飲み会で…」

 エフ氏は顔を赤らめて、慌てた様子で友人の話を遮った。

「いやいやいや、エスさんなんて興味ないって!!俺はもうちょっとナイスバディな女性が…」

 その時、大きな声が喫茶店中に響き渡った。


「おい!!!!!!」

「てめえうるせええええええなああああああ!!」


 その声の主はひどく瘦せこけた中年の男性だった。

 目元はひどいクマで覆われている。


 中年男性は1人で喫茶店にきており、喫茶店にはエフ氏達以外の客はいなかった。

 怒号はエフ氏達に向けられたものだと考えられた。


「うるせええええええ!!」

 男性の怒りはおさまりそうにない…


 エフ氏はそこまで大きな声を出していたかな…と不思議に思ったが中年男性にこれ以上迷惑をかけないために、また、彼に恐怖を覚えたこともあって友人と一緒に急いで会計をすまし喫茶店から脱出することにした。


 喫茶店を出た直後、友人は心を落ち着かせるためか煙草を1本吸いながらこう言った。

「何だったんださっきのおじさん…」

 そして、おじさんの様子を喫茶店の窓から覗き始めた。


 エフ氏は

「わからんな…やべえ奴だったんじゃね。俺の声そんなに大きかったかな…?」

 と言った。

「…」

 友人から返事はない。

「おいどうした?」

「…」


 友人の手からタバコが落ちた。

 外は寒いのに、体から汗がドバっと出ており…

 顔はひどくこわばっていた。

 瞳孔はかっ開き黒目は点のようになっていた。

 そして、友人は手を震わせながら…中年に向かって指をさした。


「何だ…あれ…?」

「え?」

 指をさした方向に目を向けると…

 エフ氏も友人と同じような表情になった。

 

 中年の前には…

 異形の者がいた。

 

 全長は30㎝程で、顔も手も足も体全てがひどく歪んだ形をしている。

 歪みすぎて性別はわからない… 


 中年男はその異形の者に叫んでいただけだったのだ…


 エフ氏と友人は一目散に逃げ去った。

 

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