第159話 Side - 15 - 86 - それぞれのにちじょう、ひにちじょう -

Side - 15 - 86 - それぞれのにちじょう、ひにちじょう -



〜ローゼリア王国 地下水路〜


こんにちは、私の名前はセシル・ミューラー12歳、訳あってローゼリア王都の地下深く、迷路のようになっている古い下水路に住んでいます。


今日は子供達との勉強はお休み・・・昨日騒ぎになっていた魔物の目撃者が更に増えたのです、危ないから地下水路の住民は住処で息を潜めるように隠れ、戦える人達は水路を見回っています。


一緒に住んでいるマルコーおじさんも魔法が使えるから同じ住民のベニーさん、それからデニスさんと一緒にお出かけ、私はここでお留守番です。


「じゃぁ行ってくる、セシル嬢ちゃんは大人しく・・・って言ってもどこにも行けねぇよな、とりあえず待ってろ、何か食い物見つけたら持って帰ってやるからよ」


「おじさん気をつけてねー」






ピチャ・・・ピチャ・・・


「・・・おじさん遅いなぁ、油が勿体無いからオイルランプ消そうかな・・・おじさんの住処は他と違って水路が複雑に重なってる分岐点、遥か遠く・・・上の方にお空が見える・・・かなり暗いけど真っ暗じゃないの」


ピチャ・・・ピチャ・・・


「んっ・・・まだ少し痛いや」


ピチャ・・・ピチャ・・・


「最初に付けていた眼帯は布で汚れが酷くて使えない・・・予備の革眼帯を持ってて良かった・・・これもリーゼロッテ様からの借り物だけど・・・」


ピチャ・・・ピチャ・・・


「左目見えないなぁ・・・、時間が経てば見えるかもってちょっとだけ期待してたけどダメかぁ・・・」


ピチャ・・・ピチャ・・・


「グルルルル・・・」


ピチャ・・・ピチャ・・・


「グルルルル・・・グルル・・・」


「ん?、頭の後ろで・・・」


何かの気配と誰かの息が髪に触れる感じがして振り向くとそこには・・・。


「ひっ・・・んくっ・・・あぅ・・・」


私のすぐ後ろに大きな獣が牙を剥き出しにして居たのです・・・ダメ・・・足が動かないから逃げられない!、怖くて声も出ないの・・・あぁ、私食べられちゃうんだぁ・・・。


しょわしょわぁ・・・


ほかほかぁ・・・


お漏らししちゃった・・・金色に光る獣の目から視線が逸らせない・・・涙がポロポロ溢れて鼻水も出て来たの・・・。


フルフル・・・


「あぅ・・・怖いよぉ・・・」


「セシル嬢ちゃん!、伏せろ!」


マルコーおじさんの声がして咄嗟に私は頭を低くしました・・・よく反応できたなぁ、偉いぞ私・・・。


ぱぁっ!


私と獣の間に巨大な赤い魔法陣が割り込むように出現しました、その直後・・・。


どん!


大きな音と共に埃や水路の汚物が舞い上がります。


ずしゃぁぁぁ・・・


「消えた!、どこに行きやがったぁ!」


「げふっ!・・・けほっ!・・・あぅ・・・頭から下水被っちゃったぁ・・・臭いよぉ・・・汚いよぉ・・・」


「大丈夫か嬢ちゃん!」


「大丈夫じゃないの・・・けほっ・・・うぷっ・・・酷いの・・・う⚪︎こがお口の中に入ったの・・・」


「そうじゃなくて・・・いや、下水を巻き上げたのは悪かった・・・すまん」










〜ローゼリア王国 王都ローゼリア西地区某所〜


ずずっ・・・


ちゅるちゅる・・・


ごっ・・・ごっ・・・ごっ・・・


こくん


「ふぅ・・・、ローゼリアの飯も良いが、たまにはジャンクな食い物も美味いな」


やぁ、みんな元気かな、私の名前はリベラ・ロリータ、16歳の女の子だ。


今私は王都の自宅で日本から持って来たチキンラーメンを食っている、カップ麺も好きだがここローゼリアでプラスチック容器を捨てると色々と面倒な事になりそうだから家には袋麺を備蓄しているのだ。


「ぬぅ・・・この汁に白米を入れて食いたいが米を買ってなかった・・・不覚・・・」






ずずずず・・・


「主(あるじ)よ、戻ったぞ」


「おぉ、白虎か・・・臭っ、お・・・お前その臭いは何だ!」


「髪の持ち主を見つけたぞ・・・だが妖術使いが居合わせての、術を放たれ糞尿まみれにされたのよ、清浄の術で身を清める事は出来るのじゃが些か腹が立った故、主(あるじ)にもこの臭気を嗅がせてやろうと思うたのじゃ」


「やめろ!、早く清浄の術を使え!」






「・・・地下の下水路か、怪我をした足で地下への長い階段を降りるのは無理だと思い捜索から除外していたのだが・・・」


「我には人の思考が理解できぬわ、あのような不浄な穴蔵に好んで住まうとは・・・」


「様子はどうであった?」


「男と仲良く暮らしておる、それに童部(わらわべ)どもを相手に文字と算術を教えておったのぅ」


「何?」


「主(あるじ)の為、住処に我の妖気と遠見の形代を残しておいた、其を辿り覗き見るが良い」


「さすがだな、礼を言う」


「なに、良い退屈凌ぎになった」


「して白虎よ、何故お前は猫に変化して私のソファで寛いでおるのだ?」


「うむ、我は此の異界に興味が出た、暫く主(あるじ)の世話になり街を見て回ろうと思うてな」


「・・・」


「主(あるじ)の末裔、・・・確か「りぜろて」と言うたか?、その童部にも会うてみたいのぅ」


「・・・」










〜日本 うどん県某所〜


「ママさん、今日の朝ごはんもすごく美味しいの!」


「そうかぁ、嬉しいこと言ってくれるね、まだあるからもっと食べるかい」


「うん、お味噌汁おかわりお願いするの」


「よし!、具をいっぱい入れてやろう」


「ありがとうなの」


こんにちは、リーゼロッテ・シェルダン15歳・・・もうすぐ16歳になるのです!、今私はローゼリアで日々溜まった疲れを癒す為、日本に戻っています。


ここに居る間はローゼリアで時間が経っていないのであと5日程ここで過ごす予定なのです・・・。


「ねぇ、コナンザ、凄い勢いで日本語上手くなってるよね」


「そうかな、お姉ちゃんいっぱい僕に言葉教えてくれたからだよ」


「私一緒にアニメ見ながら翻訳してただけだよね、今のコナンザ、デーブ・スペクター並みに喋れてるし」


「でーぶ?」


「いや気にしないで、そんな名前の日本語がやたらと上手い外国人が居るの」


「そうなんだ・・・」


「コナンザくん凄いよね、ひらがな全部覚えて今度はカタカナ覚えてる所だろ」


「うん、日本語の勉強楽しい、雑誌に書いてあるバンドの人たちのインタビュー読めるようになりたいの」


「そういえばもうすぐだね、ブラザーズ・オブ・マーキーのライブ」


「うん、ママさんが連れて行ってくれるの、楽しみなの!」


「私の知らないバンドだったけど、コナンザいつの間にかBouTubeで見つけてファンになってるんだもんなぁ」


「理世は守備範囲外だったか、私もコナンザくんに教えてもらうまで知らなかったが、あのバンド変わってるよな、見た目はビジュアル系でやってる音楽はゴシック・メタル・・・あれは相当シスターズ・オブ・マーシーから影響を受けてるな、しかも地元の香川県で活動するバンドだ」


「ベースとボーカルのマーキーさんがかっこいいの、歌上手いし、声も良いの」


「そうかぁ、好きになったバンドの初ライブ参戦は楽しみだよね」


3人で話していると卵かけご飯を美味しそうに食べていた弟の龍之介が割り込んできました。


「昔うちのバンドと2回ほど対バンした事あるよ、なんていうか・・・キャラが濃い人達だった・・・確かあの3人は兄弟姉妹だよ」


「そうなの?」


「あそこはドラムが居なくて、ドラムマシンによる打ち込みなんだ、それが良い味出してるし演奏も上手い、少しインダストリアルなメタルの要素もあるね、曲も個性的というか濃いけど・・・」


「そういえばコナンザ君がここに来てもうすぐ1ヶ月か、向こうにはまだ帰らなくて良いのかい?」


そうなのです、最初は10日くらいの予定だったのですが、事件の首謀者、ドワルスキー家の2人が脱走したので念の為にコナンザの日本滞在を伸ばしてもらっています。


「うん、お父様がね、まだ面倒な後始末が残ってるから申し訳ないが滞在を延長して欲しいって」


「うちとしてはコナンザ君可愛いし良い子だからずっと居て欲しいくらいだよ」


うん、コナンザはお母さんにとても懐いています、お母さんもお人形のような銀髪美少年に懐かれて嬉しそう・・・。


「ママさんありがとう、今度ローゼリアに来てくれたら街をいっぱい案内してお返しするからね」


「楽しみだな、ダーリン」


「そうでござるな、拙者も楽しみでござるよ、遂にアニメを見て憧れた異世界に行けるのでござるな」


実は日本の家族やバンドのメンバーとその他一名を連れてみんなで異世界旅行に行こう計画!が進行中なのです、予定としてはローゼリア時間で来年、その時はシェルダンのお屋敷で歓迎会を開いて王都やコルトの街を観光するのです!。


「お姉ちゃん、今日も顔色悪いね、疲れてる?」


コナンザ、鋭いのです、騎士様達の転移や呪い対策のスーツ作りが重なってかなり疲れています、でも可愛いコナンザと一緒に日本で遊んでると疲れも忘れてしまうのです。


「・・・コナンザにはバレちゃったかぁ、うん、向こうのお仕事が忙しくて終わらないから日本に持って来て少しだけ作業してるの、こっちは魔素が薄いから魔力を込めながら魔法陣刻むの大変で・・・でももう少ししたら魔法陣を改良して作業を効率化する予定だから余裕が出来るかな」


「理世はもう大人だから親の私からは煩く口出ししないが、無理はするなよ、お前は死ぬ前から何かに没頭すると睡眠や食事も忘れる程だっただろ」


「うん、気をつける、お母さんありがとう」











〜旧デボネア帝国 帝都某所 ユーキ邸〜


「私からの質問は以上だ、次から気を付けて欲しい」


「本当にごめんなさい、私が前世で生きていた世界を知ってるかもしれない人が居たから、思わず・・・」


「体調はどうだ?」


「今は落ち着いています」


「そうか・・・私はデボネア帝国語があまり得意ではないから今度通訳を連れて来る、その人間にもう一度前世の事や・・・今回の経緯を詳しく説明して欲しい、私の語学力ではお互いに上手く伝わらないかもしれないからな」


「あの、・・・銀髪の女の子とお話ししたいの・・・」


「今は控えて欲しい、彼女が居なくなると我々は長い時間をかけて海を渡って帰らなければならない、だから騎士達も彼女の機嫌を損ねてしまう事に非常に神経質になっている・・・だが君の精神状態が落ち着いたら話をする機会を設けよう」


「・・・私はもう大丈夫です」


「今も身体が小刻みに震えているのにか?、もう暫く安静にしていなさい」


「・・・」


私の名前はリーシャ・ユーキ、17歳です。


ギャラン大陸にあるデボネア帝国の貴族令嬢・・・でした、先日私が掴み掛かった銀髪の女の子・・・リーゼロッテさんの件で・・・騎士団長さんから怒られました。


彼女はとても人見知りで気難しく、しかも男の人が苦手なのだそうです、この国に騎士様達を転移させて貰うのもローゼリアの国王陛下が頼み込んで渋々やってもらっているのだとか・・・。


怒らせたらもう騎士様達をここに転移させて貰えないし、帰る事も出来なくなる、だからいつも優しかった騎士様達があれ程怒ったのだとか・・・、後で両親と一緒に謝りに行ったら笑って許してもらえましたけど・・・。


騎士団長さんが言うにはリーゼロッテさんも私と同じ、前世の記憶があって、自分で開発した転移魔法陣を使って日本とローゼリア王国を頻繁に行き来しているらしいのです。


この事はローゼリアの貴族達の間では知られているようなのですが、ほとんどの人に信じられていないのだとか・・・、そう私に教えてくれました。


「それが本当なら私を日本に連れて行って欲しい、帰りたいの・・・、でも今の私は首輪を嵌められて醜い刻印がお顔や背中に・・・日本で生活する事になったら変な目で見られちゃう・・・それに大好きな両親を置いて私だけ日本に戻るなんて出来ないよぅ・・・」










〜ローゼリア王国 王都シェルダン邸〜


ガチャ・・・


「ほら見て!、ここがキティちゃんのお部屋よ!、前のお部屋よりは狭いけど・・・いいかな?」


「はい!、ありがとうございます、でもいいのですか?、こんな素敵なお部屋、私、ゴーストなのに」


「大丈夫だよ、ここはいくつかある子供部屋の一つなの・・・キティちゃんとコナンきゅんの子供の為に用意してたの・・・うぅ・・・でもこんな事になっちゃって・・・ぐすっ・・・」


「あぁぁ、お母様泣かないで下さい、私、もう気持ちの整理は付いているので・・・それにまだこのお家に居られるなんて夢のようで・・・」


私の名前はハロキティ・リラックーマァ、ゴーストになってしまった私はお義母様とはお話が出来ないので紙の束とペンを持って会話しています。


お義母様が喋って、その横にふよふよ浮いている紙とペン・・・側から見るとお義母様が独り言を呟いてるようにも見えますね・・・。


お義父様は私の宝物を持って来てくれてから再度お城に戻って、今度は私が持っていたお洋服や宝石まで取り戻してくれました、だからこのお部屋には私が生きている時に持っていた物、宝物が沢山置かれています。


私の姿は人には見えないので意思表示はあのお人形、リゼぐるみの153番、このお屋敷まで這って来てボロボロになっていたものをお義母様が綺麗に直して下さいました、今はお義母様に抱かれています。


ぴょこぴょこ・・・


「ふふっ・・・喜んでくれて嬉しいな、でもキティちゃんの姿が見えないのは寂しいよぅ」


「あの、私、ゴーストについてはあまり詳しくないのですが、頑張れば実体化出来そうなのです、昨日試してみたら指の先だけ出来たの、これから練習したら皆さんに見えるようになるかも」


・・・行きますよぉ・・・ぬぅうぅぅん!、・・・はぁ・・・はぁ・・・もうちょっとかぁっ!、・・・きぇぇぇぇっ!。


すっ・・・


「わぁ!、指の先だけ見えたぁ!、この可愛い指は確かにキティちゃんだね」


「はい、でも実体化したら・・・私・・・全裸なの、・・・それにコナンザ様に私がゴーストになっているのを知られたら・・・悲しませてしまうかもしれない・・・」


「そこまでコナンきゅんの事を考えてくれていたのね、本当にありがとう・・・ぐすっ・・・こんなに優しい子が何で殺されなきゃいけなかったんだろう・・・わぁぁん!」






「おい、奥様が・・・また独り言を呟きながら泣いてるぞ」


「旦那様に報告した方がいいな、転んだ時に頭を打ってしまったのかもしれない、元々残念な性格が余計に残念になられては・・・」


「それに人形に話しかけてるぞ・・・」


「あぁ・・・やばいな・・・」

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