第156話 Side - 15 - 84 - もふもふさせてなぐさめよ -

Side - 15 - 84 - もふもふさせてなぐさめよ -



「・・・ねぇ、リゼちゃん」


「何?、リィンちゃん」


「改めて自分で着てみたら・・・この服えっちだよ」


「・・・」


「いや何か言ってよ」


「だから私が前からえっちだって言ってるよね!、それでもリィンちゃんが「かっこいい!」「動きやすい!」って王城でも喜んで日本で買って来たレギンス着てたし、周りの人も何も言わなかったから前世の記憶がある私の常識がおかしいんだ、この世界の人は恥ずかしくないんだろうって自分を納得させたのに今更何を言ってるのです?」


「うぅ・・・今日出発する前にこの服着てみんなの前に立ったらざわついたの、それでね、宿に着いてからメイドさんや騎士様が話してるの隠れて聞いてたら「まさか公の場にあの格好で出るとは思わなかった」とか「エロかった、あの尻はたまらん」って言っててね、急に恥ずかしくなったの」


「・・・」


「私露出狂の痴女だって思われてないかな?」


「・・・」


「女王陛下に着てるの見せたら「わぁ、可愛いわリィンちゃん」って言われたし、私今日までこの格好がえっちだって思わなかったの」


「・・・」


「お部屋に居る時は楽だしこれの方が良いんだけど、外に出る時用にスカート用意出来ないかな?」


「ダメなのです」


「何でよ!」


「その服を作った「リーゼ」が今度子供用の運動着を売り出すの知ってるよね」


「うん」


「リィンちゃんが移動する街にある「リーゼ」の支店に居る従業員に指示して、リィンちゃん達が馬車で通ったら「あの服はリーゼの運動着だ」「今度発売するらしい」「騎士団の服にも使われてるの凄い」って群衆に紛れて話すように言ってあるの、従業員にお金払って口コミで宣伝させてるの、もう後には引けないの、だからリィンちゃんは「リーゼ」の利益の為に馬車の上でその服を着て笑顔で手を振るのです!」


「わーん!」


「でもリィンちゃん美人さんで(胸は無いけど)手足長いしスタイルいいからその服似合ってるしかっこいいよ」


「本当?」


「うん、自分に自信を持つのです、信じる者は救われるのです!」


「えへへ・・・美人さんかぁ・・・本当に似合ってる?」


「うん」


「かっこいい?」


「うん」


「仕方ないなぁ・・・王族たる者一度やると決めた事は最後までやらなきゃね、そうかぁ、これかっこいいのかぁ」


「うんうん(ちょろいのです・・・)」


「え、何か言った?」


「なんでもないよ、じゃぁ私帰るね」


「あ、そう言えばセシルちゃんはまだ見つからないの?、大魔導・・・じゃなかったアメリア様が王都で探してくれてるんだよね」


「アメリア様からこの前連絡があったよ、すぐに見つかるだろうって大口叩いたけどまだ見つかってない、少なくとも王都の中は隅々まで探したが居なかった申し訳ない、って言ってた」


「えー、本当にどこに行ったんだろう・・・」


「でも、居なくなった時に着てたお洋服と切られた長い銀髪が古着屋と素材屋に売られてたらしいの、売りに来たのは髭を生やした浮浪者風の中年男性、本名かどうか分からないけど買取依頼書には「マルコー・ヨウジョスキー」って書かれててね、もしかしたらその人に殺されてるかもって・・・アメリア様が」


「ぐすっ・・・どうしよう、私たちのせいで・・・セシルちゃんの人生が滅茶苦茶に・・・」


「まずは探して見つけなきゃ、アメリア様は念の為王都の周辺の街と、王都の地下に広がる使われなくなった下水路も探してみるって」


「そう・・・」


「で、リィンちゃん、今度こそ私帰るけど、次に私を呼ぶのはカリーナ王国の王都にしてね、寂しいからって毎日呼ばないで、分かった?」


「うぅ・・・でもぉ・・・」


「何度も言ってるけど私は忙しいのです!、もちろん親友のリィンちゃんと旅をしたいし遊びたいけどお仕事がいっぱいあるの、毎日遊んでられないの、分かるよね」


「・・・はい」


「じゃぁ帰るね、おやすみリィンちゃん・・・厳しい事言ったけど大好きだよ」


「うん、おやすみ、リゼちゃん・・・ごめんね」








「いかがですか?」


「うん、気に入りました、お部屋も広いし家財道具もまだ十分使えるね、それに何より安い!、このお家を購入します」


「本当によろしいのですか?」


「何か問題でも・・・」


「ロリータ様・・・実はこの物件は訳ありの事故物件でして」


「事故物件・・・ですか?」


「えぇ、・・・申し上げ難いのですが、この家の前の持ち主・・・ターレ・パンダァと言う男なのですが・・・国家反逆罪で指名手配されておりまして、王城や騎士の詰所に貼られている手配書を見ればすぐに分かるので正直にお話しします」


「でもその人が不動産屋さんに売ったんでしょ、もう関係無いと思うけど」


「お客様の中には犯罪者の持ち家など嫌だ、気味が悪いと仰る方もおられますので・・・しかも家財道具一式そのままの状態で売られましたので廃棄にも手間が・・・」


「私は気にしないけど・・・、まだ使える物が多そうだし有効に利用させてもらおうかな」


「国に目を付けられるかもしれませんよ」


「別に私は悪い事してないし、調べられて困る事もないよ、ただこの家は気に入ったし、しかも安いから買いたいと思っただけ」


「・・・そうでございますね、では店に戻って契約を」


「うん、お願いします、・・・あ、支払いは現金一括で」






ガチャ・・・


バタン・・・


「ふぅ・・・久しぶりの我が家だ、空き巣にも入られてないし不動産屋も手を付けてないな、指名手配犯ターレ・パンダァが最後に家を出た状態のままだ」


さて自己紹介をしよう、私のここでの新しい名前はリベラ・ロリータ、16歳の女性だ。


もう名前のネタが出尽くして思い付かなかったから先日コンビニで見かけた菓子の名前を組み合わせて適当に付けた。


もちろん偽名だ、本当の名はアメリア・セーメイン、建国の大魔導士と呼ばれていた、だがある時は陰陽師の安倍晴明、そしてまたある時はユノスアイランド株式会社代表取締役の雪藤亜芽里(ゆきとうあめり)・・・二度と姿を見せる事は無いだろうが指名手配犯ターレ・パンダァもこの私だ。


たかが30日ほど留守にしただけだから窓から見える風景も変わらないな、風呂付き一戸建て、少し型は古いが生活魔導具は一式揃っている、交通の利便性も良い、私のお気に入りの家だ。


ぽりぽり・・・


日本で買って来たうまい棒を齧りながら形代を呼び戻す・・・。


「やはり手掛かりは無しか・・・」


「理世ちゃんや博士に大きな口を叩いておきながらこのザマだ・・・情けない、しかし何故見つからないのだ、服や髪を売りに来た男の素性も居場所も分からない、夜になると中央公園の噴水で見かける男に似ている・・・聞き込みで分かった数少ない手掛かりだ」


服と髪は私が買い取って依頼主に渡した、ありのままを伝えてこれを売りに来た男に殺されて死んだのではないかと思う・・・そう言ったら素直に納得した、私の仕事は普段ならここで終わりの筈だ、必要経費と報酬も少ないが約束通り受け取った。


だが面白くない!。


「形代では力不足か・・・」


仕方ないな、ローゼリアでこいつを使役するのは初めてだが・・・。


「式神・・・白虎」


ずずずず・・・


「主(あるじ)よ、我に何用か?・・・おやおや、主(あるじ)はまた面妖な姿に変化しておるの」


「久しいな白虎よ」


「あぁ本当にの、およそ40年ぶりか・・・他の11天将も主(あるじ)に呼ばれず拗ねておるぞ」


「すまぬ、平和な世ゆえに」


「また暴れたいものだわい、そうさな、12天将揃うて崇徳院の恨み晴らさじと京の都を奈落に堕した日々が懐かしいのぅ、・・・して此度は我に何を望む、再び魍魎率いて都を堕すのかや」


「・・・人探しだ」


「なんと!、我は耄碌したようだ、主(あるじ)の命を聞き違えるとは・・・もう一度言うてはくれぬか」


「人を探して欲しいのだ」


「・・・40年前、主(あるじ)は我を呼び何を命じたかの?、ばぶるがはじけたなぐさめろだったか・・・」


「うむ、バブルが弾けて大損した故、もふもふさせて慰めよ・・・だ」


「・・・」


「ここに髪を用意した、白虎、持ち主を見つけよ」


「・・・あいわかった、主(あるじ)の戯言に付き合うてやるが他の天将には間違うても命ずるでないぞ、また都が滅ぶやもしれぬからな」

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