第117話 Side - 15 - 59 - げんきでね -

Side - 15 - 59 - げんきでね -



「あー、残業疲れたなぁ、3ヶ月以上休んでたから仕事が溜まってどうしようと思ってたけど、ようやく区切りが付いた・・・」


ガチャ・・・


「ただいまー」


みんな久しぶり、僕は田中龍之介、姉が空港テロ事件に巻き込まれて亡くなって・・・そして異世界に転生し転移魔法を使ってこの家に帰って来た、他の人に話すとおかしくなったと思われるからこの事はバンドの仲間や一部の身内にしか話してない。


「フフフフーン、フフーン・・・トイレトイレ・・・っと・・・」


ガチャ・・・


「え?」


「&?・・・・ひぁぁぁぁぁ!・・・$#%#%&>_<”!$#T_T!!」


ガタゴト・・・ゴン!・・・きゅぅ・・・


ドアを開けると便座に美少女?・・・ではなくて長い銀髪の・・・お姉ちゃんにそっくりな・・・お・・・男の子が座ってた、何で男の子だと分かったのかは聞かないでくれ、トイレには鍵がかかってなかったぞ!、僕は悪くない!。


男の子は女の子みたいな悲鳴をあげて慌てて立ち上がろうとして・・・ズボンを下ろしていたからバランスを崩して転けた、壁に頭をぶつけてとても痛そうだ。


「どうしたの・・・って!、いやぁぁ、コナンザ!、しっかりして!」


声に驚いて座敷から出て来たお姉ちゃんがズボンを足元まで下ろしたまま気を失った男の子に駆け寄った・・・うん、他から見たら僕が襲ったみたいに見えるね・・・。


「うぅ・・・ぐす、・・・ひっく・・・えぐえぐ、・・・&#$!・・・&@*;+・・・」


座敷には騒ぎを聞いて部屋に来た両親と僕、そしてお姉ちゃん、・・・それからさっきの男の子・・・お姉ちゃんに縋り付いて泣きながら頭を撫でられてる・・・途中で止められなかったのか、立ち上がる時にかなりの量を撒き散らしたから今は着替えてお姉ちゃんの芋ジャージを着ている


「龍之介・・・何をした?」


母親が犯罪者を見るような目で言った。


「僕は何もしてない!、仕事から帰ってトイレに入ろうとしたらこの子が居た・・・鍵はかかってなかった」







「・・・というわけで、私の命を狙ったり、王族っていうか国に対して反逆を企てた宰相が捕まって、その協力者も順調に捕まって来てるんだけどね・・・」


「その子の婚約者も捕まったのでござるか・・・」


「うん、元々は上級貴族の中からお父様が選んだ子でコナンザとは同じ13歳、頻繁に家に遊びに来てたし、特に素行にも問題が無かったから捕まる直前までうちの家族はその子の事を信じてたの、コナンザとも仲良くしてたし、恋・・・とまでは行かなかったけど、明るくて活発なその子にコナンザが懐いててね」


「・・・」


「でもうちの情報を宰相側に流してた主犯だった・・・騎士様が捕まえに来た時だって、気が弱くて泣き虫なコナンザが騎士様の前に立ち塞がって庇ったの、そしたら後ろからその子が刃物を出して・・・コナンザの首筋に刃を当てて「私を逃がせ、さもないとこいつを殺すぞ」って」


「酷い話でござるな」


「幸い魔法騎士様がその場に居て、魔法で拘束したんだけど・・・捕まってからも悪態が酷くてね、コナンザに対しても「お前みたいにすぐ泣く女みたいな奴は最初から大嫌いだったんだ!」って、一族みんな宰相の共犯で、父親から情報を流せって言われてたらしいの・・・そのせいでコナンザずっと部屋に引き篭もって泣いててね、姉としては可愛い弟を慰めてあげようと思って前から来たがってた日本に連れて来たの」


「そういう事ならうちとしては歓迎するよ、私も頑張って美味い料理作らないとな、余り物しかないけど今夜はこれからご飯食べるのかい?」


「ううん、こっちに転移する時間が夜遅いって分かってたから向こうで食べてきた、実は明日みんなに紹介するつもりだったの、本当にごめんね、私にとっては可愛い弟なんだけど、この家とは無関係な他人だし・・・」


「遠慮しなくていいでござる、理世たんの大切な弟なら拙者たちにとっても家族でござるよ」


「ありがとうね、時空転移魔法陣があるからこっちで過ごしてる間は向こうの時間は進んでないの、できれば10日くらい滞在して、楽しい所に遊びに連れて行けたらいいなって・・・」


「じゃぁ今日は遅いからもう寝ようか・・・、僕は外でご飯食べて来たからお風呂入ってくるよ」


「うん、おやすみ龍之介、・・・あ、コナンザ泣き疲れて寝ちゃった、悪いけど私の部屋のベッドまで運んでくれないかな」


「いいよ、・・・わっ、軽いな、お姉ちゃんより少しだけ大きいのかな、それによく似てる」


「そうだね、身体は大きくなったけど昔から気が弱くてね、すぐ泣いちゃう、小さい頃から私の後ろを「お姉ちゃん、お姉ちゃん」ってね・・・将来は国を代表する筆頭貴族家の当主になるんだからもっとしっかりして欲しいんだけど、そういうダメなところも全部可愛いの」


そして僕はコナンザくんをお姫様抱っこしてお姉ちゃんの部屋へ、ベッドに下ろしたところでコナンザくんの目が開いて僕と至近距離で見つめ合った、あ、これはやばいな、僕の顔はとても怖いんだ。


「ひぅ!・・・・#$!+@o@!!!$&)#>_<#=&!!#」


思った以上に声が大きい、夜中だし近所に聞こえたらまずい!、僕は咄嗟にコナンザくんの口を押さえた、コナンザくんは涙と鼻水を撒き散らしながらベッドの上で必死に暴れてる、危ないなぁ、そんなに暴れたらベッドから落ちちゃうよ。


もう片方の手でコナンザくん両手首を押さえて拘束した・・・まるでこの世の終わりみたいな表情だ、これは僕が美少女を襲ってるようにしか見えないぞ。


「今の声どうしたの?・・・あ・・・」


お姉ちゃんとお母さんが部屋に入って来た、ベッドで半狂乱になって暴れるコナンザくん、「フー!、フー!」って息が荒い、僕の右手はコナンザくんの口に、左手はコナンザくんの頭の上で両手首を掴んで押さえつけてる、暴れたからジャージの上着が捲れておヘソが丸見えだ。


「龍之介・・・お前・・・」


「違う!誤解だ!、僕は何もしてない!」


言葉が分からない筈なのにコナンザくんは涙を流しながら首をイヤイヤって横に振ってる、・・・なんかこの子、男なのにめっちゃエロいな・・・。


「ベッドに下ろしたタイミングで目が覚めちゃったかぁ・・・コナンザの心にまた一つ傷が増えたのです・・・」


「お姉ちゃん、見てないで何とかしてよ!」




チャプ・・・


「ふぅ・・・酷い目にあった、それにしても間近で見たコナンザくん、本当にお姉ちゃんによく似てる、やっぱり姉弟なんだな・・・小さい頃は僕とお姉ちゃんもよく似てるって言われたっけ」


ざぱぁ・・・


・・・


プシッ・・・


ごっ・・・ごっ・・・ぷはぁ・・・美味い!


・・・実は僕はビールが苦手・・・だから缶酎ハイやハイボールを冷蔵庫に常備してる、風呂上がりに飲むのが楽しみなんだ


・・・コツ・・・


「龍之介・・・」


「あれ、お姉ちゃん、まだ寝てなかったの?」


「うん、やっとコナンザ寝かしつけた・・・もう13歳なのに・・・私と居ると小さな子供みたいなの」


「日本だと中学1年生くらいだよね、見た目は落ち着いてるし少し冷たい印象の美少年っていう感じだけど、ほんとによく泣くよね、・・・あ、僕の顔が怖かったっていうのもあるけど」


「うん、実はね、コナンザには龍之介の事よく話しててね、日本に可愛い弟がいるんだよって・・・コナンザも仲良くなりたいって楽しみにしてたんだけど、彼の想像してた以上に龍之介の顔が怖かったみたい、眠る前に「怖がってごめんなさいって明日謝るんだ、嫌われてないかな」って言ってたよ」


「いい弟さんだね」


「あんな性格だけど頭は凄く良いんだよ、私が同時通訳してこっちのアニメを見せてたらカタコトだけど日本語も少しだけ話せるようになったの、自慢の弟なんだぁ・・・、あ、もちろん龍之介も自慢の可愛い弟だよ」


「・・・ハハハ、この歳で可愛いか・・・照れるなぁ・・・」


「多分明日も直接向き合ったら怖がるかもだけど、許してあげて、コナンザって実の父親と廊下で出会ってもびっくりして泣き出すくらい臆病なの、あれで当主が務まるのか心配だけど、まぁ私やお父様も居るからね、甘やかすのは良くないけど、放っておけないの」






「ふぁぁ・・・昨日は色々あったからそんなに寝られなかったな、まだ眠いや・・・」


ガチャ・・・


「あ・・・」


「あぅ・・・%#$?*#&!!」


ガタゴト・・・ゴン!・・・きゅぅ・・・


「・・・何でトイレの鍵しないんだこの子・・・」


「わぁぁぁ、コナンザ!、しっかりして!、そんなに頭ぶつけてたらバカになっちゃう!」









「どうぞこちらへ・・・」


「・・・はい」


バタン・・・ガチャ・・・


私の名前はハロキティ・リラックーマァ、・・・この国の上級貴族、リラックーマァ家の長女です。


そして私が連れて来られたここは罪を犯した貴族が入れられる独房・・・と言っても窓に鉄格子、ドアに鍵が掛かっている以外は普通のお屋敷の客間なのですが・・・。


「ぐすっ・・・コナンザ様・・・」


私が懇願して唯一このお部屋に持ち込む事が許された私物・・・13歳のお誕生日に婚約者がくれた髪飾り、危険な金属の金具は取り外され、綺麗なお花の形をした・・・飾りだけになってしまった髪飾りを眺めながら、私は幸せだった4年間を思い返しています。


私はシェルダン家の嫡男、コナンザ様の婚約者でした、9歳の時に国の筆頭貴族であるシェルダン家からお声がかかり、婚約者に選ばれました、・・・でもそれはお父様や宰相による策略があっての事、他の上級貴族の候補者に圧力をかけ、私が選ばれるように仕向けられたもの・・・。


「こ・・・こんにちは、コナンザと言います」


気の弱そうな、女の子のような男の子・・・挨拶の時、すでに目から涙が溢れそうになっています、首を少し傾げて恥ずかしそうに・・・目の前に居る私に恐る恐る手を差し出しました・・・何この可愛い生き物。


「ハロキティ・リラックーマァですわ、よろしくお願い致しますコナンザ様!」


そして何度かお話しするうちにお互い少しずつ歩み寄り、私たちはとても仲の良い婚約者になりました。


だけどそれも全て仕組まれていた事、お父様からは婚約者と仲良くなって、シェルダン家の情報を報告するように言われていました、メイドや侍従の人数、騎士の配置、お屋敷の間取り、警備が薄くなる時間帯・・・。


私はお父様の命令に従いつつも、優しくて少し頼りないコナンザ様に・・・本気で恋をしました。


お父様は裏で宰相と親しくしていました、そしてローゼリア王国に対する反逆計画の共犯者でした、いつか・・・この事がシェルダンのお家に知られるかもしれない、でももう少しだけ、コナンザ様との幸せな毎日に浸っていたい・・・お願いこのままで居させて・・・。


そんな私の祈りを嘲笑うかのように私の13歳の誕生日、宰相が捕まり、翌日には宰相の証言でお父様やお母様、お兄様達も連れて行かれました、私の家族は全員、巧妙に秘匿されていましたが宰相の協力者だったのです。


そして私も・・・シェルダンの家に逃げ込んだ私を騎士達が追って来ました、この時まではまだシェルダン家の人達やコナンザ様は私を信じてくれていました。


「大丈夫だよ、君が関係していない事を証明出来たらうちにおいで」・・・当主のアーノルド様が私の頭を撫でながら優しくそう言ってくれました。


コナンザ様も「キティちゃん、大丈夫、頼りないだろうけど僕が一緒にいるよ」・・・そう言って抱きしめてくれました。


あぁ、私はこんなにも優しい人達を裏切っていたんだ、・・・そう思ったら自分が許せなくなってしまいました、このままずっと隠し通す事は出来ない、いつか私の罪が暴かれる、国家反逆罪は死刑だ、当然私も・・・そんな事になったらコナンザ様が悲しむ、それだけは絶対にダメ!。


私はまだ僅かに残ったコナンザ様や優しいシェルダン家の人達と一緒に暮らせる未来・・・コナンザ様と結婚して、子供をたくさん産んで、みんなで一緒にいろんなところに出かけて・・・お年寄りになっても一緒に居ようねって言ってくれたコナンザ様と子供や孫に囲まれて・・・そんな夢のように幸せな人生を捨てることにしました。


この優しい人達が、・・・重犯罪者として捕まって・・・そして死んでいく私の為に悲しまないように・・・。


「私を逃がせ、さもないとこいつを殺すぞ!」


お父様に自決用にと持たされていた短刀を抜いて、目の前で騎士達から私を庇ってくれているコナンザ様の首元に・・・。


「キティ・・・ちゃん?・・・どうして・・・」


コナンザ様は泣きそうな顔をして私を見つめます、・・・どんなお顔をしていてもコナンザ様は可愛いな・・・私は涙が溢れそうなのを必死で隠して、絶対に後戻りできない言葉を叫びました、・・・さようなら大好きなコナンザ様、これでお別れだよ・・・。


「まだ気付かないのか?、馬鹿なお前達はこの私に騙されてたんだよ!、婚約の時から全部お父様の計画通り、・・・バレちゃったけどね、私がこの家の情報を漏らしてた犯人だ、それから・・・お・・・お前みたいにすぐ泣く女みたいな奴は最初から・・・大嫌いだったんだ!」


私は魔法騎士の放った拘束魔法で自由を奪われ、そのまま王城に連れて行かれました、コナンザ様がどんな表情をしていたのか・・・私にはどうしても見ることができませんでした。


婚約してから4年間、こんな愚かな私に愛情をいっぱい注いでくれて・・・幸せな夢を見せてくれた大好きなコナンザ様・・・私はもうすぐ死んじゃうけど・・・元気でね・・・・。

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