第102話 Side - 15 - 46 - いるね -

Side - 15 - 46 - いるね -



「田中課長、今度の送別会に誘っても大丈夫かな?」


「あぁ、本社に異動になった木村くんの送別会か、あれだけ溺愛してた娘さんが亡くなって4ヶ月かぁ、微妙な所だね、あの人って飲み会に喜んで参加するような感じじゃないし」


「でも課長だけ除け者にするのもなぁ、木村さんとも仲良かったし・・・、でもみんなお酒が入ったら普段気をつけてる地雷を踏み抜く奴絶対出るよな、そんな事になったら大惨事だし」


「一応本人に聞いてみる?」


「俺やだなぁ・・・」


「何言ってるの幹事でしょ」


「何?、何の話してんの?」


「あ、雪藤(ゆきとう)ちゃん、いや、今度の送別会に田中課長どうしようかなーって」


「誘っちゃえば?、気分転換にもなるだろうし、みんな気を遣い過ぎるのもかえって失礼だよ」






気まずいでござる、たまたまお茶を淹れに給湯室に来たでござるが・・・隣の休憩室での話、丸聞こえでござる・・・、拙者、気を遣われてるでござるな・・・。


「あ!、田中課長、お電話入ってましたよー、伝言は机の上に置いておきました!」


「のわぁ!、鈴木くん、声が大きいでござる・・・じゃなくて声が大きいよ、あぁ、電話だね、すぐに確認するよ」


ゴン!


「痛っ」


「うわ痛そう!、大丈夫っすかぁ、課長」


「大丈夫でござ・・・いや大丈夫だよ」






回覧方式でござるか、幹事の山﨑くんは拙者に聞きに来なかったでござるな、拙者もこの方が気楽でござる、出席に⚪︎っと・・・。


「あれ、課長今回は出席なんっすか」


「あぁ、鈴木くん、たまには行かないとね、コミュニケーションも大事だし、木村くんにはお世話になったし」


「・・・もう大丈夫なんっすか」


「いつまでも落ち込んでは居られないからね、僕が泣いていると娘も向こうで悲しむだろうから」


「そうっすかぁ、最近課長、明るくなったって噂になってますよ、吹っ切れたのかなって、でも木村さんが異動かぁ、じゃぁこの課の中で娘さんに会った事がある人は僕と雪藤ちゃんの2人だけになっちゃいましたね」


「うん・・・そうだね、僕の机の上のフィギュア何?って聞かれて答えてるのいつも木村くんだったなぁ」






「では!、木村さんの新天地での活躍に期待して、乾杯!」


「かんぱーい!」


わー


パチパチ


「ここの居酒屋、海鮮が美味いって評判なんですよ、隣の課の奴に聞いたらここが推しだって」


「それは楽しみでござる・・・いや、楽しみだね」


「うわ、本当に美味い」


「やばい、美味しいわ!、でも高いんじゃないの?」


「それが近くの漁師さんから直接卸してもらってるらしくて・・・」






「田中課長、お世話になりましたぁ」


「木村くん、本社だから住むところは大阪だね、向こうは単身赴任?」


「いえ、家族みんなで引っ越します、転校させるの可哀想かなーって思ったけど、まぁ本人は向こうで友達何人できるかなって言ってますし、妻はうどんが食えなくなるーって文句言ってますけど」


「そうかー、向こうにはそんなに安いうどん屋ないだろうからね、僕だったら1ヶ月で禁断症状出るかな、とにかく向こうでも頑張ってね」


「ハハハ、ありがとうございます、私もうどんが恋しくなったらたまに帰ってきますよ」






「田中課長、もう大丈夫みたいだね」


「うん、完全に・・・とは言えないかもだけど、事件前の課長に戻ってる」


「一時は会社辞めるんじゃないかって言われてたけど・・・」


「あと10年ちょっとで定年だろうから今辞めるのは勿体無いよ、それに相当なアニメオタクだけど、その事で馬鹿にする人間を黙らせるくらい仕事できる人だから凄いよね」


「あ、そうそう、課長の机のフィギュアまた増え始めてるよね」


「おっ、お前も気付いたか、俺も気になってたんだよね、眼帯してる銀髪のちっちゃい子、あれ何のキャラだろうね、誰か知ってる?」


「雪藤ちゃん、アニメや漫画詳しいよね、知らない?、あれ、今日珍しく酔ってる?・・・」


「んぅ・・・知ってるよぉ・・・あれはねー、リーゼロッテちゃんって言うのー」


「へー、アニメのキャラか何か?」


「違うよー、実在する人がモデルなの」


「ふーん・・・(ネットアイドルか何かかな?)」






「じゃぁお疲れ様、みんなは二次会かな?」


「はい、課長も今日はありがとうございました」


「いやいや、料理も美味しかったし、久しぶりに楽しめたよ、じゃぁ僕は妻が迎えに来るから・・・」


ドゥルルル・・・・


「あ、来たようだね」


「凄い、新型シビックTYPE-R」


「あれ課長のところの車?」


「奥さんのらしいな、昔走り屋だったって」


「あれ、どしたの雪藤ちゃん、課長の車見つめちゃって、車に興味あったっけ?」


「・・・後ろの座席・・・居るね・・・」


「え?」


「いや、なんでもないよー、飲みすぎたかなぁ、酔っちゃったみたい」






「ダーリン、久しぶりの飲み会は楽しめたかい」


「そうでござるな、会社のみんなは拙者にかなり気を遣ってくれてるでござるから、以前のような付き合いに戻るのは時間がかかりそうでござるな」


「ぷはっ、私もう隠れてなくていいよね」


「もういいぞ、居酒屋からはだいぶ離れたからな」


「龍之介はまだ仕事でござるかな?」


「休んでた間に溜まった仕事で忙しいらしい、今夜はこれから家族3人でドライブだ、・・・どうした理世?」


「さっき・・・なんか腕やうなじがざわざわってした・・・博士と居る時みたいな・・・あれよりずっと強い感じ・・・」


「何か気になる事でもあるのでござるか?」


「ううん!、なんでもないよ、あ、私タコ焼き食べたいなぁ!」

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