第94話 Side - 15 - 42 - こくはく -

Side - 15 - 42 - こくはく -



「リィンちゃん・・・リィンちゃん」


「んぅ・・・トリエラしゃん、・・・それ私のケーキだよ、・・・むにゃぁ・・・」


「寝ぼけてるなぁ・・・リィンちゃん、ケーキ無くなるよ!」


「え、うそ!、全部食べちゃダメ!、・・・あれ、ここどこ?、ケーキは?・・・リゼちゃん?」


「リゼルだよリィンちゃん、窓の外見てみなよ」


「わぁぁ、きれい・・・朝日で海がキラキラしてる!」


「夜明け前から眺めてたんだけど、日が昇って来たらすっごい綺麗だったから、リィンちゃんにも見せてあげようと思って、僕の家でも朝はこんな感じだけどここの3階から見る景色の方が凄いよ、宿泊料が高いだけあるよね」


「え、リゼルくんそんなに早くから何で起きてるの?」


「僕って眠りが浅いんだよ、だいたい夜明け頃に一度目が覚めるの、それで気分次第で二度寝したり、そのままお仕事したりしてるかな」


「そうなんだ、・・・え、もしかして眠りが浅いのって、・・・傷が痛むから?」


「あー、普段はポンコツなのにリィンちゃん変なところで鋭いなぁ・・・、隠し事はしたくないから正直に言うけど・・・その通り、痛くて目が覚めて、お薬飲んでまた寝るの・・・この事は誰にも言わないでね」


「わぁぁ、・・・ぐすっ・・・ひっく・・・ごめん・・・」


「もう泣かないで、何度も言ってるけど、僕はリィンちゃんが泣いてるの見る方が傷が痛むより辛いの・・・」


「そう、・・・本当にごめんね」


「気にしないで、ほら海が綺麗だよ」


「・・・ずるいなぁ、リゼルくん、本当に男の子だったら私、惚れてたよ・・・」


「残念でした、フフッ」


「それ、昨日の指輪だよね、魔法陣刻んでるの?」


「そうだよ、博士ほどじゃないけど、思ってた以上に素材が良いから僕の最高傑作になりそう、つい夢中になっちゃって・・・」


「何の魔法陣か気になるなぁ・・・」


「まだ明日まで秘密、楽しみにしてて」


「本当にここ良い所だよね、リゼルくんが気に入ったの分かるよ、日本も楽しかったけど、ローゼリア王国内にもこんな綺麗な場所があったんだぁ」


「うん、数日暮らした時点でもうここに住みたい!って思っちゃったからね、住んでる人達も優しいし、王都に比べてのんびりしてるよね」


「私も歳を取ったらこんなところで暮らしたいなぁ」








コンコン・・・


「おっと誰か来た、リィンちゃんは・・・あれから二度寝してるね」


「はーい、どなたっすかぁ」


シャルロットさんが対応してくれるのかな、って、小っちゃい女の子・・・。


「リゼルくん、この子トシくんの妹さんだって、焼きたてのパンを使った朝食を持って来てくれたっすよ」


「・・・ありがとう、でももらっていいの?」


「うん、お父さんがね・・・持って行って食べてもらいなさいって、・・・あっ、・・・私、この宿のむしゅめ・・・じゃなくて・・・娘で、キャディ・・・って言いましゅ、お使いを頼まれたのは・・・お兄しゃんなのですが・・・キャディ、無理言って替わってもらったの」


「わぁ、・・・トシの妹さんとは思えないくらい可愛い・・・」


「ありがとう・・・ございましゅ・・・」


「・・・うーん、美味しそうなパンの匂い・・・、わ!、誰この子、可愛い!」


「リィンちゃん起きた・・・、トシの妹さんが朝ごはん持って来てくれたよ」


「あの・・・こちらのお姉さんが、シャルロットさんでしゅか?」


「そうっすよー、何度かここに来てるっすけど、初めましてっすね、よろしくっす!」


「うん、・・・あのね、シャルロットしゃんが・・・キャディの新しいお母さんになってくれるって・・・本当でしゅか?」


シャルロットさんが固まっちゃったのです、お顔が真っ赤になってフルフル震えてる、あ、やばい、この人今日は使い物にならないかも・・・、リィンちゃんがニヤニヤしながらキャディちゃんに向かって・・・。


「ねぇ、キャディちゃん、何でシャルロットお姉さんが新しいお母さんになるって思ったのかな?」


「・・・えと、・・・キャディのお母さん死んじゃって、寂しいなってお父さんに言ってたらね、・・・この前お父さんが、シャルロットさんっていう綺麗で優しいお姉しゃんが・・・新しいお母さんになってくれるかもしれないって、・・・お父さん頑張って指輪を渡してこくはく?、しゅるから・・・待っててねって、・・・だからキャディ、寂しいの我慢して・・・待ってたの、・・・でもね、お父さん、毎日、・・・こくはく?、するするって言ってるのに・・・何日待ってもダメでね、・・・寝る前にね・・・キャディに、・・・今日もできなかった・・・勇気のないダメなお父さんでごめんねって」


・・・ドタドタドタ・・・コンコン、バタン!


「わぁぁぁ!、キャディちゃん!、お客様と何を話しているのかな!、お父さんと向こうでお話ししようね!、・・・し・・・失礼しましたぁ!、子供の言う事なので!、お気になさらず!、では!、わ・・・私はこれでぇ!・・・し、・・・失礼しまっす!」


「あー、リックさんキャディちゃんを脇に抱えて行っちゃった・・・、すごく取り乱してたのです、大丈夫かな、・・・あ、そうだ、・・・シャルロットさんは・・・」


わぁ・・・


「ねぇ、リゼルくん、人って恋をしたらこんなになっちゃうんだね・・・」


「うん、勉強になった」


シャルロットさんは顔を両手で覆ってベッドの上で悶えているのです、・・・もう早くくっついちゃえばいいのに、じれったいのです!。


「・・・シャルロットさん、今日護衛無理そうだから博士を連れて来て代わりに護衛を頼もうと思うの、博士だったら刺客来ても20人くらいなら楽勝で殲滅できるだろうから、・・・それでいいかな?」


両手で顔を覆ったままベッドの上で頭をイヤイヤって横に振っているのです・・・、本当にこの状態で護衛できると思ってるのかなぁ、まぁいいや、とりあえず博士を連れてくるのです。


「じゃぁリィンちゃんちょっと博士連れてくるからここで待っててね、・・・転移っと」





「お待たせ」


「早っ、もう来てもらえたの?」


「うん、徹夜明けで寝ようとしてるところを拉致ってきたのです、・・・と言うのは冗談で、タダーノのご飯奢るって言ったら来てくれたよ」


「そういうわけで王女殿下、私がご一緒してもよろしいでしょうか?」


「もう、ドックさん、改まった言葉遣いしなくていいよ、今日はお忍びの休暇なんだから、リゼルくんと同じ口調で大丈夫だよ」


「そうですかな、じゃぁそうさせてもらおうか、その方が楽だ、おや、うまそうな匂い・・・」


「あ、博士も一緒に食べる?、この宿の朝ごはん、沢山あるから大丈夫だよ・・・シャルロットさん今は胸がいっぱいでご飯入らないって言ってるし」


「嬢ちゃんの護衛・・・だよな、事情があって今日1日使い物にならないから護衛を頼むって言われて来てやったが、・・・どうしたんだ・・・これ」


「話せば長くなるから気にしなくていいのです、・・・さぁ朝ごはん食べよう!」


キャディちゃんが持って来てくれた朝ごはんはとても美味しかったのです、大きなバスケットの中には焼きたてのパンに挟んだ分厚いハムや新鮮な野菜、そして手作りのソース・・・玉ねぎやトマトに何かスパイシーな香辛料がよく効いています、みんな残さず・・・シャルロットさんの分を1つ残して・・・完食したのです。


「このコルトの街って何なんだ、宿屋の飯まで美味いじゃないか!」


博士が驚いています、実はこの街に来た時から私も驚いているのです、ローゼリアの伝統料理とは根本的に違う要素、料理の特徴があるのです。


昔この辺りはブライアス王国があった土地らしいのでその文化の名残りかも・・・、そんな事を考えていると博士は私が魔法陣を刻んでいる途中の指輪を手に取って眺めています。


「ほう、・・・俺の教えた魔法陣をこんな風に改造してるのか、・・・なかなかやるな・・・魔鉄の質も最高級じゃないか、こんなの滅多に手に入らないぞ、どこにあった?」


「え、昨日近くの露店で10個くらい売られてたのです・・・、海の底から回収したって、漁師のおじさんが・・・あぅ・・・」


がしっ!


ひぃっ!


「嬢ちゃん!、案内しろ!、すぐに!」


博士が私の両肩を掴んでガシガシ揺らしてるのです!、目が怖いのです!。


「うぁー、博士ぇ・・・揺らさないで・・・、これそんなにすごいの?」


「あぁ、嬢ちゃんの腕輪よりは質が劣るがこいつは古代文明の遺物だ、上手く魔法陣を刻めば効果が10倍にも20倍にもなるだろうな」


「あー、昨日刻んでる時に不思議に思ってたの、・・・魔法陣の反応がやけに良かったから・・・」


そして私達は博士に急かされて昨日の屋台に行きました、シャルロットさんも「こくはく・・・指輪・・・きゃっ・・・私どうしよぉ・・・うふふ・・・」って独り言を呟いて気持ち悪いけど一応私の護衛、ちゃんとついて来てるのです、あ、昨日のおじさん居た。


「博士ぇ・・・あそこの露天だよ」


「ちょっと待ってろ、全部買い占めてくる」


そう言って、屋台に・・・そして私が買った2個以外の指輪、あれから誰も買わなかった売れ残り8個、全部回収して戻って来ました。


「ふぅ・・・この街は恐ろしいな、指輪だけじゃなくて魔鉄のペンダントやブレスレットもありやがったから全部買ってきた、金を握らせてどこに沈んでたかも聞いたぞ、こんな貴重なものがゴロゴロしてるとは・・・」


それからお昼までまた街をリィンちゃんと一緒に回って、お昼にタダーノで博士の報酬として豪華なランチ、夕方にはこの街唯一のスイーツ店でまた食べて・・・、リィンちゃんは「やばい!、私本当に太る!、どうしよう!」って言いつつ完食してるし・・・。


博士はというと今日の夜帰るのかと思ったら、この街で投げ売りされている古代遺物?を買い漁るために同じ宿にしばらく滞在する事にしたそうなのです。


「リィンちゃんごめんね、せっかくの休暇なのに護衛が2人ともあんな事になって」


「いいよー、今日もすっごく楽しかったぁ!、魔鉄って貴重なものなんでしょ、他の人に買われる前にっていう気持ちはよく分かるし、シャルロットさんの恋の行方も気になるし!」


「わぁ・・・本当にいい性格してるね、リィンちゃん・・・」


コンコン・・・


「あ、誰か来た、・・・シャルロットさんは・・・ベッドでまた悶えてる・・・仕方ないなぁ・・・」


「はーい、どうぞ、・・・あ、リックさん・・・」


「あ・・・あの、シャルロットさんに大事なお話があってぇ!、す・・・少しお時間よろしいでしょうかぁ!・・・、この宿屋の裏に星が綺麗に・・・いえ!、シャルロットさんの方がお綺麗なのですがぁ!・・・いや・・・あの!、星が綺麗に見える場所がありまして!、そこで、お・・・お話を!」


告白キター!、リックさんは声が裏返ってるし、シャルロットさんは・・・もう病気かってくらい顔を真っ赤にして挙動不審に、リィンちゃんは両手で口を押さえて、「きゃー」って、覗きに行く気満々の顔してるし・・・、いやダメだよ!、リィンちゃん!。


「シャルロットさん、リックさんが話あるって、僕達の事はいいから行ってきたら」


私がそう言うと、フラフラとリックさんに連れられて出て行ったのです・・・。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る