十七歳、夏、手遅れ

 俺に高校二年の夏の記憶がほとんどないのは夏風邪で高熱を出したせいらしいのだが、詳しく聞こうとすると両親は目を伏せ兄は曖昧に笑うばかりなのでできる限り触れないようにしているのだけども、『夕暮れの教室とチョークの跡が残る黒板』『右足の紐が解けた黄ライン三年生用の上履き』『サミヤタカアキの剥がれた痕』などの時折脳裏を過る映像について尋ねてしまうと、兄が許しがたい仇でも見るような目をして俺を散々に殴るので、眠れない夜や終電を待つホームでサミヤタカアキの右手首に巻かれたダクトテープや腫れた口元の黒子のことを思い出すたびに、俺はどうにかしてその生白い顔や掠れた声を忘れようとしている。

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