束の間人を演じたら

 出来が良くて優しかった七つ上の兄は都会の大学に行ってそのまま向こうで就職し、仕事が忙しいのかお盆ぐらいにしかこちらには帰ってこないのだけども、週一の電話は欠かさないし記念日や行事に合わせて「俺にはこれくらいしかできないから」と両親へブランドものの鞄や値が張りそうな果物や肉を送ってくるし、俺に対しても好きなバンドの限定盤や小難しい小説本などを何かにつけてくれるのだけども、そうして毎年お盆の頃に顔を合わせるたび、昔と同じ穏やかな顔で両親の調子や俺の進路を気遣う兄の体のそこかしこに乱雑な縫い痕や文字列のような傷跡に攣れた火傷痕など不穏な傷が増えていく理由を両親も俺も聞けずにいる。

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