まだ兄と呼んでいる

 今年の夏、法事の最中に喫煙所へ行った兄が戻ってきたときには別人になっていたのだが、俺以外は誰も気にしていないようで、家に帰ってからも日常生活に何の支障もなく、映画や本の趣味も変わっておらず俺が借りたまま自室に持って行った漫画のこともきちんと覚えているし夜になると台所で吸っている煙草の匂いも同じなのだけども、右目尻にあったはずの黒子が消えているし目の色はやけに明るい茶色になっている上に笑い方が右の口の端だけを吊り上げるようなひどく不器用なものになっているのだが、それ以上の変化はなく当然被害なんてものもないので、俺は釈然としないままそれを兄だということにしている。

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