　映画研究会の沢渡さんは、木曜の午後になると大抵食堂か喫煙所にいるし、アジアン雑貨屋のバイトみたいな恰好で、ブラッドベリなんかの古いSFと刃物と血が出る映画が好きで仲良くなると安くて朝までやっている飲み屋を教えてくれたりする先輩なのだが、二十年前に行方不明者や退学者が相次ぎ消滅したサークルに同姓同名の人間がいたことや彼がその頃から容貌も言動も変わらないまま大学に出没し続けていることなどもとっくに知れ渡っているし真っ当なものではないと皆理解しているはずなのに、未だに沢渡さんと出会ってしまう学生は後を絶たないし、それらの事象について尋ねても沢渡さんは泣きぼくろのある右目を細めて笑うだけだ。