死してなお兄、縋る指

 生前の諸々の所業を堪えて葬式を済ませてやった兄が化けて出るようになったのは夏も終わり風が肌寒くなり始めた九月の頃で、何が気に食わないのか俺が寝床に入ってうとうとし始めるといつの間にか布団の上に馬乗りになり首を絞めてくるのだが、首に巻きつく手は容赦なくぎりぎりと喉を締め上げてくるのに、こちらを見下ろす兄の顔は生きていた頃は一度だって見たことがないような穏やかな笑みを浮かべているので、夜ごと息苦しさと眠気で朦朧としながら首に絡まる指を引き剥がすそうとするたびに、俺は妙な罪悪感を覚えるようになり始めている。

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