立礼焼煙:マルボロ(20本600円)

 バイト先の先輩は夏になると近所の心霊スポットと名高い団地に出かけて一服して帰ってくるのが趣味なのだそうで、面白半分で同行させてもらったのだが、夜闇の中で墓石じみた真っ黒な建物を前に並んで煙草を吸いながら、なんでこんなことしてるんですかと聞けば「供養だよ」と答えがあって、だるそうに上げた左手が建物を指して「親父が寝煙草やってさ、だから」と煙を吐くので、先輩の生白い指先といつの間にかぼんやりと明るくなっている一室に目を奪われながら、ここで何があったのかこれからどうなるのかそろそろ逃げたほうがいいんじゃないのかと俺が必死で考える間にも、指先の煙草はじりじりと短くなっていく。

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