炉端の石に情は抱けない

 うちの居間にはたまに石が転がっていることがある。

 小ぶりな西瓜に似た丸々とした石で、灰色の表面は磨かれたように滑らかだ。おまけに近寄るとほこほこと熱気が感じられる。

 そんなものが家の中に転がっているのが不思議で、またしても石が転がっていたある日に居間に入ってきた婆様に聞いてみると、

「前の家っきゃここ、囲炉裏あったでの」

 前の、というのはこの家がリフォームする以前、絵に描いたような古民家だった頃のことだろう。その頃に子供として生活していた母から土間やら縁側やらの揃った、由緒正しい日本家屋だったと聞いたことがある。

 婆様は俺と石を交互に見ながら頷いている。婆様は事情を知っているのだろう。

 囲炉裏でなんかあったの婆ちゃん、と聞いてみれば、

「昔の、囲炉裏さ継子をくべたのさ」

 そう答えた婆様の皺面は笑顔で、俺は黙って赤子ほどの大きさの石を見下ろす。

 炉端焼きじゃん、と悪趣味な冗談が浮かんで、どうにか口には出さずにおいた。

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