第40話 おにーたん
茉裕が産まれたのは俺が九歳の冬だった。クリスマスが過ぎて、年末の準備で忙しい頃。
港町の小さな産婦人科の元で産まれた。産まれたのは真夜中だったため、俺は待ちくたびれて待合室でこくとくと寝ていた時に、声が聞こえた。
お父さんが俺を両腕で抱っこしていて
「望の妹だそー」
俺の視界にはお母さんと産まれたてで小さい赤ちゃんがいた。
まだ、産まれたてで目も見えてないのに俺のことを見ているような気がして可愛いと思った。
「兄妹、仲良く大きくなるんだぞ」
お父さんは嬉しそうにそう言った。
俺は眠たかった目を少し擦って
「赤ちゃん……妹?」
不思議な気持ちになって、そう呟くと
「望の妹だよ」
とお母さんがお産の後の枯れてる声でそう言った。
今考えたら、俺一人を育てるのに必死になってお金を稼いでいるのに、もう一人子供を産んだのだろうかと嬉しさもあったが、少し疑問が浮かんでいたと思う。
家もオンボロのアパートだったし、昼は給食があるとしても、朝も夜の食事も質素で食べ盛りの俺には量が少なかった。おかわりしたいと言うと、お父さんかお母さんが自分の茶碗によそったご飯を俺に差し出すので、俺は二人の前でおかわりしたいとは言うことはそのうちなくなってしまった。
小学校の友達とは仲が良くて、休み時間はずっと走り回って遊んでいたし、ペアワークの時も自ら積極的にクラスの人達に話しかけにいった。
二クラス二十人いるかいないかぐらいの学年だったので、のびのびやれていた。
お母さんが茉裕が立って喋れるようになった頃に部屋に男を連れて来るようになった。お父さんには内緒と言っていたが、数ヶ月でバレていた。
でも、暴言を言ったりすることはなくて、ベランダに追い出される時はあったかい毛布を男に見られないようにこっそり渡してくれた。
「おにーたん」
そう呼んでくれる妹の茉裕が可愛くて仕方がなかった。ただ、無邪気で母親がやってる行為を見て意味があまり分かっていないのが、可哀想に思った。大きくなったらこういう行為に対して感情を抱かないような子になってしまうのだろうか?しょっちゅうするものだろうかと悲しくなってきた。
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