第37話 どっこいどっこい
僕は彼女のベッドに入ったが、なかなか眠れない。目を閉じてもすぐに開いてしまっていた。すると、彼女は起き上がってこちらに来た。そして隣に横になった。そして、こちらを向き
「向月さんって意外と繊細ですもんね」
と言った。
それは図星すぎて、言葉に詰まってしまった。
「……そういう君も、まだ子供なんだから大人しくしなさい」
と、少しおどけた口調で言った。
「将次さん?」
「ん?」
彼女のほてった頬に優しく触れる。ふっくらとしていて、若いなと思う。
「文化祭で、将次さんが女の子達に囲まれてましたよね?」
寂しそうな声。口を少し尖らせている。
「嫉妬してくれてるの?」
「……せんせーはかっこいいからね。別に先生はみんなのものだし」
拗ねてると言わんばかりに口を更に尖らせた。
「まず、その先生呼びから名前呼びにしてくださいよ」
僕が頬をプニプニと突くと
「からかってる?」
ムッとして言ってくるのも可愛らしいが
「僕も……嫉妬するよ」
「そんな……先生大人だし」
「大人だから色々考えちゃうんだよ」
意外そうな顔をする彼女に僕は
「茉裕ちゃんは、僕とでも楽しいとか幸せとかそういう表情を見せてくれるけど、兄さんを見てる時はどうなんだろうとか……考えちゃうよね……」
僕は彼女とプライベートで会う時はメガネをつけることはほとんどない。
「風李はかっこいいもんな」
なんだか、そう言っている自分がしょげてるというか、大人のくせにと思ってしまう。
「先生?」
「……ん?」
「将次さん?」
彼女を僕だけのにしたい。独占欲はないと思っていたのに
「そうだよー将次!もっかい呼んで」
嬉しそうに
「将次さん!」
と言うもんだから愛おしくてたまらない
僕は彼女を胸に寄せた。元々向き合っていたので、彼女の鼻が僕の胸にあたってくすぐったい。そう思ったのか、もっと近づきたいと思ったのか、顔を横にして僕の心音を聞いているように感じた。
「僕ばっかり満足してたりしてないよね?」
やっぱり不安が多い。
「そんなことないよ」
守りたいのに、すれ違ってないか怖くなる
「兄さんのこと……想っててもいいけどさ、僕も見てほしい……我儘だけど……すごく我儘だけど」
すると彼女は全力で僕を力強く抱きしめる。
ほんの少し苦しいけど、あったかくて心地いい。
「もっと!」
僕がそうからかうって言うと
「将次さん大好きー」
と言って顔をすりすりしてきた。少し小形の犬っぽい。
僕が今ここで力強く抱きしめると彼女が潰れそうで怖いからそっと背中に手を置いた。
「僕ばっかり甘えてる……」
なんだか、僕には大人の余裕というのが彼女の前ではなくなるようだ。
「可愛いですよ」
彼女は僕の胸に顔を更に埋める。
「……茉裕ちゃんはないんですかー?」
「えー」
「僕待ってる」
「私だって嫉妬ばっかりしてますよ。だからどっこいどっこい」
顔をあげて僕の方を見つめた。
「じゃあお互いさまですね!」
彼女の無邪気な笑顔。その目で見られただけで僕も幸せな気持ちになった。
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