第9話 三者面談

 期末テストシーズンに入り、本格的に勉強をして、小テストの日々。私は正直疲れていたが、お兄ちゃんと風李さんの協力もあり、なんとか無事に期末テストも終わった。

 先生達が成績を出すために夏休み前の三日間は家庭学習日となっている。

私はその間、風李さんが来なかったので、お兄ちゃんが帰るまで、風李さんが言っていた音ゲーをプレイしていた。確かに聞いてる曲が若者世代の曲が多い。

 夜は、お兄ちゃんと映画観たり、スイーツ作りを手伝ったりした。風李さんと本当はスイーツ作りたいんじゃないの?と言ってみると

「茉裕ともやりたい」

と言ってくれた。お兄ちゃんが作るスイーツはどれも美味しかった。何より私に合わせて甘さを控えめに調節してくれたり、風李さんは逆に甘いものが好きなので、甘めにしたりホイップクリームを加えたりしていて工夫がされている。相手のことを考えて作っているスイーツはどれも美味しい。

 終業式の日は快晴。私は半袖を着るのが好きではないので、長袖にリボンのスタイルで登校した。今日は通知表をもらうだけなので、午前中帰りだ。今日はそんなに疲れないだろうと思っていたが、学校に着いて早々の大掃除で体力を使った。私のクラスはグループ制なのだが、私のグループはゴミを運ぶ係と先生と物置整理の仕事を課せられた。男子は先生にからかわれながら一様掃除をする。一番楽そうな黒板掃除をしたかったと駄々をこねていた。女子も同じく。私は……なんでもいいから早く終わればいいと思っていた。

 それから通知表をもらって帰った。それから事前にお兄ちゃんの仕事の都合を聞いて提出したのを先生が調整した三者面談の予定表を家に帰って渡した。風李さんもいた。

「マジで……三者面談緊張するんだよ、去年とか普通にさ茉裕受験生だったし、まあ学校でいい子でいてくれたから茉裕に対して先生怒ってなかったけどさ、教室出て廊下の椅子に座っている次の人の目線がなんか……痛かった」

「大丈夫だよ。ほら、今年は午後の最後だから後に誰もいないよ」

「でも予定じゃん」

「確かに」

お兄ちゃんの顔は不安でいっぱいだった。

「まぁ、頑張ってくれ望」

「はーい」

スーパーでお菓子を戻してくるように言われた子供のような声のトーン・口調でお兄ちゃんは言った。

「お兄ちゃん大丈夫。私がいるから」

「それは本当はお兄ちゃんがいうセリフなんだよなー」

お兄ちゃんは頭を抱えてそう言った。

 三者面談はそれから一週間後だった。案外すぐに終わった。ほとんど進路のことや学校の様子についての話。先生は私が

「お兄ちゃんです」

と言うと

「お父さんが来ると思っていたけど……すみません、こんな暑いのに。お兄さん今年でいくつですか?」

「……二十五歳です」

お兄ちゃんがそう言った。

教室を出ると

「年齢なんて聞かなくていいだろ」

ぽそりとそう言い放った。ああ、胸が痛い。

「ごめんお兄ちゃん、来てもらっちゃって」

私達は階段を降りる。

「いいんだよ。本当はお父さんもおかしいんだよ……娘の三者面談に来ないのも」

私は俯く

「違うよ、余裕がないの……きっと」

「そうか?」

「そうだよ」

「『きっと』……はそうであってほしいって言うことじゃなくて?」

私は足を止めた。次の言葉を言うのに思案していた。

 一瞬の出来事だったが、『どうしよう』が頭の中を巡る。そこに一人の男性の声が聞こえた。

「こんにちは」

私はその声に体を震わせる。私は俯いたま

「こんにちは」

そう言って横を歩いて行った。お兄ちゃんはそれに着いて行った。そして

「こんにちは」

と私の後に続けて言った。その声は風李さんによく似てる声。お兄ちゃんも馬鹿ではない。すぐに分かっただろう。

「ここに勤務してたんだな」

関心がなさげな声

「ね……」

私は一刻も早く一人になりたかった。

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