第14話 灰色の電車の中で(夢)

〈前書き〉

 かなり前に見た夢を手直しして小説のような形にしてみました。オチがありません。あまり詳細に描写はしていませんが、虫が出てきます。




 黒と白しか色がない世界で、顔の知らない誰かに手を引かれながら私は、灰色の電車に乗り込んだ。






 ガタンゴトンと揺れる昼の電車の中。

 二桁にも満たない数少ない乗客たちは、吊り革に手を置きながら、ぺちゃくちゃと喋っている。

 パッと見て、ありふれた、どこにでもある、穏やかな車内だ。

 しかし、満員電車でもないのに、座る椅子いすが一つもない。不思議な電車に私たちは乗っている。


 

 手を繋ぎながら、前の車両へと私たちは移動する。

 すれ違う人たちは、一人もマスクをしていなかった。


 ――そんな訳がない、おかしい。


 そう思い始めて、私の手を握る人物に尋ねてみる。


「どうして、私もあなたもみんなもマスクをしていないの?」


 も、今、気がついたばかりと笑いながら、君は、こう答えた。



「そんなに気になるのなら、電車を降りたら駅の中でマスクを買おうか」


 頭をよしよしと撫でられて、まるで子どものように扱われる私。


 私がおかしいのか? 現実であり得る光景なのか?


 何やら自分と思考がずれている同行者。それに対して考え込む私。


 私は、ふと気が付いた。気が付いてしまった。

 この現実とかけ離れている世界は、夢だということを……

 





 されるがまま、手を引かれ車内を歩く。


 すると、後ろの方から悲鳴が聞こえたような気がした。

 気になって私は振り向くと、大人の靴べらサイズの百足むかでの形をした一匹の化け物が女性を襲っていた。

 若い女性が履いているブーツの靴裏から、ぬるりと化け物がい出る。化け物が出てきた足裏には、ぽっかりと黒い穴が空いていた。

 それを見て、集まってきた人々は、恐ろしさに大声を上げる。 

 しかし、不可解なことに誰もが逃走しない。

 誰も彼もが、うっすらと笑いながら悲鳴を上げているのに、逃走もせず、ただ立っている。

 化け物は、一歩も動こうとしない乗客たちを次々に攻撃する。



 逃げようとする人物は、私以外に一人もいなかった。



 乗客たちは、まるで、壁に張り付いているダーツの的のようだった。しかも、的に命中したら、判りやすく音が鳴る――――そんな玩具おもちゃのような人間たちしかいない。

 そうだ、私の手を握り締めている人物も、残念ながらその中の一人だ。




 恐くなって、今度は私が同行者の手を引っ張って車内を走る。


 前へ前へ、一刻も早く、化け物から離れる為に……


 そういえば、この電車は、いつになったら目的地に到着するのだろう。



 

 

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