第8話 あふれる心のスーサイド

〈前書き〉

 スーサイドという言葉を使いたくて作った詩です。




 今日も僕は言葉を枝にるす。


 悪口を吊るす。

 愚痴ぐちを吊るす。

 罵倒ばとうを吊るす。


 首に縄をかけて、僕は吊るす。

 口を開かないように、首をギリギリと絞められる言葉。



 不満を吊るす。

 批判を吊るす。

 悲鳴を吊るす。


 生まれてしまった言葉に縄をかけて吊るす。

 円満な人間関係に、これは必要ない。



 ■■■■禁止用語を吊るす。

 卑猥ひわいな言葉を吊るす。

 下世話げせわな言葉を吊るす。


 つまらなそうに縄をかけて吊るす。

 彼らの美しい世界には、使用してはいけないらしい。



 泣き言を吊るす。

 叫び声を吊るす。

 笑い声を吊るす。


 縄をかけて吊るすのがとても上手うまくなった。

 しかし、代わりに声が小さくなってしまった。



 ……言葉を吊るす。言葉を吊るす。言葉を吊るす。

 ……毎日、吊るす。毎回、吊るす。何度も、吊るす。

 ……首を絞める。首を絞める。首を絞める。




 すると、いつの間にか、吊るした言葉が消えている。

 僕は何を吊るしたのだろう。忘れてしまった。

 吊るした言葉を思い出してみる。


 すると、いつの間にか、吊るした言葉が落ちている。

 ゾンビのようにしつこい言葉だ。また吊るそう。

 吊るした言葉は泣いていた。



 それを愚直ぐちょくに繰り返していたら、とうとう何も言えなくなった。



 静まり返ったこの世界、たくさんの首吊り死体ことばが物言いたげに僕を見ている。 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る