26話 哀しき戦争③

「んん…。」


「あ、やっと起きたのかい。」


「……へ?」


周囲の匂い、知らない少女の声、何も判らない。


「ここは…どこ…?」


「はァ?そンなんも知らないのかい?」


「え…。確か、森医師が家に来て…それで…えっと、…。」


「あァもう良い。どうせ眠らされたンだろ。」


「多分、そう。首になんか刺された。」


「そうかいそうかい。此処は常闇島。戦争の最前線だよ。あたし与謝野晶子、此処で負傷した戦士の治療をしてる。」


「わ、私は、折口信夫。治療って、貴女も異能を持ってるの…?」


「あァそうだよ。"君死給勿キミシニタマフコトナカレ"ッてやつでね。瀕死の状態から全快させる。」


「すご…!」


「別にそンな大したもんじゃないさ。信夫の能力は何かあンだろ。何なんだい。」


「わ、私は…"死者の書"で、視界に入れたモノ全部、即死してしまう能力…。」


こんな能力嫌いだ。

殺しにしか向いていない。しかも此処は最前線。また見ることで、殺さなけねばならない。また人が離れて、独りになるんだ…。


「ヘェ、良い能力じゃあないか。」 


「えっ…?怖く…ないの?」


「ふん、此処に来た時点で死ぬ事は覚悟してるサ。勿論仲間に殺される事も。怖くなんかない。」


…凄い、凄いなぁ。

私はこんなにも怖い。殺したくないって思うし、戦争なんて、見たくもない。死にたくもない。


「与謝野さんは凄いね。」


「何が?」


「私は…死ぬのが怖い。殺したくないし、戦争もしたくない、見たくもなかった…。」


「アンタ、それ兵士達の前で絶対云うんじゃないよ。」


柔らかい空気が一気に固くなる。


「アンタみたいに、望んで兵士が此処に来てる訳じゃない奴も居る。けど、其奴等そいつらは下手したら此処を死に場所にしなきゃいけないんだ。」


「…ごめんなさい。」


「ふん、そンな弱音吐いてばっかじゃ此処でやってけないよ!アンタの異能なら尚更だ。少しはちゃんと覚悟して行きな。」


「うん…ありがとう…。」


私は、此処から逃げ出せないんだ。

起きて10分も経ってないけれど、それだけははっきりと判った。



嗚呼、私はまた人を殺して生きなければならない。


生かされた此の生命いのちを、他人から奪う事で生きなけねばならないのか。


此れは、仲間の為になるのだろうか。


私の殺しは、正当なモノなのか。


私の殺しは、なのか。



誰も答えてくれやしない。

誰も答えを知らない。

誰も…私を知らないのだから。


私は、此処に居て、此処から抜け出せない。

此処で今を生きて行くしかない。


福沢さんは、側に居ないんだ。


「与謝野さん。」


「何だい?」


先刻さっき信夫の声の優しい声は消えていて、酷く冷たく感情がないように聞こえた。


「ありがとう。」


「急に何だよ気味が悪いねェ。妾は何もしてないよ。」


「貴女のお陰で覚悟が決まった。


私は此処で沢山の人を殺す。


それが、此処に居る人の最善だから。」

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