♯16 永遠の存在者④ 我護る、ゆえに我在り(後編)
「ちっ」
「だったら――レア!」
『
勇魚の咆哮にレアが応え、両の前腕を覆う甲冑を蒼い光とともに変形させて、鮫の背びれにも似た蒼白い刃を展開させる。
それを確認した勇魚は、繭の中でもう一度両腕に力を籠め、
……が、
「――ビクともしなない⁉」
繭と化した糸の束は、しかし、それでも断ち切ることが叶わなかった。
それどころか、
「そぉぉぉぉぉぉらぁ!」
その
何度も。何度も。
「くっ……!」
思わず呻きが漏れた。
甲冑の恩恵でダメージこそ無いものの、おもいっきり振り回され繰り返し地に叩きつけられたせいで、目を回しそうだ。
『おにーさん、しっかりするです!』
『みんなを護れるのはおにーちゃんだけなんだヨ!』
「くっ、くふふふふふっ! みんなを護れるのは……ねえぇ?」
勇魚の頭の中に響く双子の
その視線の先では様々な世代のお嬢様たちが、
「な、なんなんですの、あの青い騎士は……?」
「変身した? さっきの殿方……亡霊が? まるで子供向けの特撮番組みたいに……」
「やっぱりあれ、亡霊騎士だよぅ! わたしたちをあの絵本みたいに殺しに来たんだ!」
「でも……、確かにあの絵本は作者の実体験が元になっているという触れ込みで売りに出されていましたが、所詮は作り話のはずでは?」
「まさか本当だったとでもいうのでしょうか……?」
「実在したの? 亡霊騎士が……?」
「では、あれは仲間割れか何かでしょうか……?」
と、怯えの眼差しをこちらへ向けていた。
「くふふふふふっ! 人間ってぇ、ホぉント幼稚な生き物よねぇ! 物事の本質から目を逸らしぃ、ちょぉっとでも異質ならぁ受け容れることを拒否する……。あぁんな有様でぇ、よくもまぁ『万物の霊長』を
「……幼稚、か。そうかもな」
それを、地に伏したままの勇魚も否定はしなかった。
が、
「宇宙規模で見たら、地球人の精神性は幼く未熟なほうなのかもしれない。……ケドな、だからこそ、自分たちのほうが上等な存在だと思い込み、ヒトを見下しているような勘違い野郎に手出しはさせない」
「っ。……それはぁ、わたくしぃのことかしらぁ? わたくしぃは女よぉ? 『野郎』は無いんじゃないぃ?」
「そこかよ」
「だいたいぃ、長大な時間を生きぃ、
「ああ。おまえのような神様気取りの勘違い野郎から、あの子たちを護ること。それだけが、ボクのここでの存在価値なんだから」
この地球では異分子でしかない自分の、唯一の存在理由。
「だぁったらぁ護ってみせなさいよぉ! このわたくしぃからぁ! この場にいる全員をねぇ! ほらほらほらぁ!」
嘲弄の笑みを湛えたナニカの下で、アリジゴクの口がバクンを大きく開く。
直後、そこから
その数、百近く。
『これは……!』
『昨日船の上で襲ってきたメガネウラ⁉』
「ブッブー、ハズレぇ~☆ 昨日アンタたちを襲わせたのもぉ、このコたちもぉ、メガネウラじゃないわぁ」
「え?」
「ウスバカゲロウよぉ」
「ウスバカゲロウ?」
「そうよぉ。別名『極楽トンボ』。またはぁ『神様トンボ』とも呼ばれているらしいわねぇ。アリジゴクが羽化した姿よぉ」
「アリジゴクが……」
「わたくしぃがぁこの地球で採集しぃ、改造してぇ、造り上げたぁ、わたくしぃの意のままに動く生体兵器たち……。可愛いでしょう?」
「……悪趣味極まりないな」
「くふふっ! ざぁんねぇん、見解の相違ねぇ! ――ほぉぉぉぉぉらぁ、ぼ~っとしているとぉ、みぃんな食べられちゃうわよぉ? 頭からぁ、バリバリとねぇ!」
ナニカが指をパチンと鳴らすと同時に、巨大ウスバカゲロウの大群はぎちぎちと
「「「「「「「「「「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」」」」」」」」」
お嬢様たちが悲鳴が
「! 貴様……!」
「ふふふ。せっかく見つけた美しい
「く……そ」
「さぁ! さぁさぁさぁ! さっきまでの威勢はどうしたのぉ? 護ってみせなさいよぅ? わたくしぃの造り上げた生体兵器! 〈バグ〉から! あれだけの数の人間どもをねぇ! ほぉら。
「……させるか」
勇魚が拘束された状態でふらつきながらも立ち上がった――そのとき。
『――そう、今こそ引き直さなければならない……日常と非日常の
不意に、勇魚の頭の中に、
『それがおまえ――
『さあ……見せてやりなさい。その勘違い野郎に。白鳥と鯨の
〈
さらには、
『そうだ……あの日おまえは誓ってくれただろう? この先どれだけ残酷な結末が待っていようと……たとえ
かつて自分に
『『『『だから立って――鵠勇魚! 〈ガイアセンチネル〉!』』』』
その叱咤、
あるいは祈りに応えるように、
「
勇魚は全身全霊で咆える。
「
直後。
勇魚の全身を覆う甲冑の一部――関節部の
それまで全身から
胴体に巻き付いていた糸の束すら、その衝撃で引き千切って。
パージされた
妖精の羽を彷彿とさせていた
細長い不等辺三角形のカタチをした、蒼い
『全装甲の三十%
『バージョン〈
「っ⁉ 何よぉ、それぇ⁉」
――ここへ来て初めて、ナニカの表情に焦燥の色が浮かぶ。
それはおそらく、永遠の存在者、神にも等しい存在を
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます