22

――シャーリンに気絶させられたリットは、盗賊万歳ヘイル トゥ ザ シーフが拠点とする町にいた。


国の役人の目も届かないリフレイロード王国の中心から離れた地域だ。


リットはこの町で、シャーリンの部下であるギザ歯の男――ネイルの世話になっている状態だった。


「ねえ、ネイル。いつになったら姉さんに会わせてくれるんだよ」


食事も着るものも何不自由ない生活が続いていたが、リットは日々不満をらしてた。


それは、ずっとメロウと会わせてもらえないからだ。


ネイルの立場からすれば面白くなかったが、リットは町の住民たちには気に入られていた。


彼女の大らかな性格や人懐っこいところが町の空気に合っていたのだろう。


不満を言うことも町にすぐ馴染むことも、すべてはシャーリンの予想どおりだったのもあって、ネイルはリットのことをうっとうしく思いつつも相手をしている。


「あのな……。それはこないだの話だろうが。メロウ·リフレイロードは治療中で、しかもシャーリンとやらなきゃいけないことが――」


「治療中だって会えるでしょうが!」


「テメェは……いつになったら人の話を最後まで聞けるようになんだよ!」


こんな調子で、ネイルは事細かく訊かれたことを――メロウのことを話そうとするのだが。


リットがわめくので、ちゃんと彼女には伝わることはなかった。


だからメロウとシャーリンが姉妹の契りを結んだことや、盗賊万歳ヘイル トゥ ザ シーフに入ったことも知らない。


そんな日々をすごしていたある日に、リットが驚くことが起こった。


「みんな……どうしてここに!?」


それは、流刑島パノプティコンにいたフリー、ガーベラ、ファクト三人が、突然彼女の前に現れたからだった。


服を町の者からもらったのか、島で着ていた囚人服ではなく、皆ちゃんとしたものを身に付けている。


フリーは魔導士らしいゆったりとしたローブ。


ガーベラはシャーリンの趣味か、男物の服を彼女の体型に合わせたシャツやショートパンツ。


ファクトにはベストにシャツと、それぞれの個性に合ったものを見繕みつくってもらっていた。


ちなみにリットはシンプルなデザインのブラウスにロングスカート姿だ。


「久しぶりだな、リット」


「つーかどうなってんだよ!? 意味がわからないぞ!」


「ああ、どうして盗賊万歳ヘイル トゥ ザ シーフがオレらを助けてくれるんだ?」


ガーベラが挨拶をすると、フリーとファクトが状況を訊ねてきた。


当然ネイルの話を聞かなかったリットには説明などできない。


皆と会えた喜びも束の間、質問攻めにあってたじろいてしまっている。


そんな様子を見ていたネイルは、ほら見たことかと言いたそうにニヤニヤと笑っていた。


「ネイル! みんなに説明してあげてよ!」


「嫌だね。こりゃ人の話を聞かないお前がまねいた結果だろ」


「そんなこと言わずに頼むよ! 謝るから! 今度からネイルの言うことはちゃんと聞くからさ!」


ネイルにすがりついたリットを見て、他の三人は笑っていた。


相変わらずだ。


全く変わっていない。


どこへ行ってもリットはリットだと、彼女の頭をポンポン叩いた。


「しょうがねぇな。ムカつくけどよぉ。こいつらのためにもまた説明してやるよ」


散々リットをなじって気が済んだのか、ネイルは一体なぜ三人が盗賊万歳ヘイル トゥ ザ シーフに助けられたのかを話し始めた。


まずはメロウと盗賊万歳ヘイル トゥ ザ シーフの幹部であるシャーリンが義姉妹となったことを伝え、今度おこなわれる儀式にて、彼女が正式にギルドの一員なると説明する。


まだ正式な手順は済んではいないものの、シャーリンはメロウのことをかなり信頼しているようで、多額の金を使って三人を流刑島から出したのだった。


当然リットの脱走の件に関してもすでに話はつけているようで、もう彼ら彼女らが役人に追われることはない。


「じゃあ、メロウ姉さんも罪人じゃなくなったんだな!」


ガーベラが高い声を出して言うと、他の三人も嬉しそうにネイルのことを見つめた。


だが、ネイルの表情に影が落ちる。


そして、言いづらそうにその口を開いた。


「メロウ·リフレイロードのほうは、さすがに金でどうこうできる問題じゃねぇんだよ。なんたって国王殺しなんだぜ。いくら親父の力を使っても無理だろうな」


リットたちのような取るに足らない罪とは違い、メロウはリフレイロード王国の主を殺害したのだ。


それをなかったことになどできない。


ネイルはリットたちがどう反応するかわかっていても、正直に事実を伝えた。


沈む彼女たちの表情だったが、その中でファクトが誰よりも早く顔を上げて言う。


「だいたいの話はわかった。そうなるとオレたちはどうなるんだ?」


「メロウ·リフレイロードが言うには、お前らが島を出てリットと合流できたら、あとは本人の意思にまかせるってよ」


ネイルの返事を聞いて、リットが大きく首をかしげる。


「任せるって……どういうこと?」


「わかんねぇのかよ!? ったく、お前は本当ににぶいなぁ。ようするに、メロウ·リフレイロードと一緒にうちに入るかは、テメェで決めろってことだろ」


「そっか。ねえ、みんなどうする?」


リットが三人に向かって訊ねると、彼ら彼女らは笑みを浮かべた。


その表情は、言われるまでもないとでも口にしそうな顔だった。


三人とも最初から決めていたのだろう。


メロウと一緒ならば、たとえ地獄でも向かうと。


人の気持ちに鈍感どんかんなリットだったが、さすがに三人の心を察する。


「訊くまでもなかったね。よし、じゃあ今日からあたしらもギルドに入るぞ!」

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