第90話 小羊の票は奸策によって山羊の腹へ
「な…なんか…変な事言った?」
部室の中は複雑な空気が流れている。
「後夜祭の話ですよ?」
笹森が、まだ霧嶋に抱かれたままの真古都に寄り付いて訊いた。
「…?」
「真古都さん、後夜祭のイベントの事だよ?」
話が判っていない真古都へ霧嶋が声をかけた。
「いつもの告白タイムだね。霧嶋くん、今年は去年みたいにびっくりさせたら嫌だよ」
本来なら、躰へ回した腕に彼女が自分の腕を絡めて話をしてくれるのは、どれだけ嬉しいか…
ところが今は、その腕を緩めてしまった程驚いた。
「部長、キスイベントの話ですよ?」
笹森がもう一度訊いた。
「な…何それ?」
明日からの文化祭を前に多少の不安は有るものの、それでもみんな期待に話が弾んでいた。
しかし、今の彼らからはそんな明るい表情は見られない。
「真古都、俺の質問にちゃんと答えろ」
ただでさえ日頃から目付きの悪い瀬戸先輩が、輪を掛けて険しい顔で話している。
「今年の文化祭は例年の告白タイムの他に、投票で選ばれたカップルが壇上でキスをするイベントがあるのを知ってるか?」
「し…知らない…何それ…なんか凄いイベントだね…」
初めて訊かされ動揺してるようだ。
その場にいる部員たちからもどよめきが起こる。
「はあ…」
深い溜息が出た。
通りで、投票が行われた後も真古都からこの話題が一切出ない筈だ…
「投票のあった日お前何してたんだ?」
クラスはA組からE組まで。イベント係はE組から票を回収している。
C組の回収日は笹森の話だと火曜日朝のホームルームだという。
「そ…その日は…えっと…授業で使うバスケのボールを磨いとくようにって…班長が…」
「チッ!」
あのクズどもめ!
一体、真古都を投票から外して何を考えてるんだ?
「投票って…誰を選ぶの?」
真古都が不安そうな顔で訊いてくる。
笹森がイベントの内容を真古都に説明してくれた。
「わたしたち、部長と瀬戸先輩に投票したんです。だから今18…あっ、部長は投票してないから、17票入ってます」
「じゅ…17票って…」
真古都が俺の方を見る。
目が合った途端に、みるみる顔が赤く染まっていった。
「もう、部長かわいーっ!」
今度は笹森が真古都に抱きついてる。
「まあ、わたしたちの予想では対抗馬に霧嶋くんなんですけど、霧嶋くんて、女性票が多いから、特定の人との票は少ないと思うんですよ。だから、このまま先輩とキスしちゃってください!」
「そんなぁ…」
赤くなった真古都をみんなで応援してるが、彼女のクラスが何を考えてるのかが気になる…
アイツのクラスは26人だ…
真古都の1票を抜かすと25票…
それを特定の男で投票されたら…
いや…俺よりも真古都の方が心配だ…
触られるのも無理なアイツが…
キスだなんて…
真古都はどうなるんだ…
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