第88話 票の行方

 イベントの票が回ってきた日から、俺の頭の中はその事ばかりだ。


もし、霧嶋と真古都に票を入れるヤツがいたら…


俺はイベント担当にそれとなく訊いてみた。


「えぇ? 拒否権ですか?

まぁ、無くはないですけど…

折角のイベントなんでパパッとやってくれると有り難いですね。

お祭りでのゲームみたいなもんだし、そんなにみんな重く考えてませんよ

派手にやって盛り上がりましょう!」


ふざけるな!

どう云う頭の構造だ!

キスだぞ⁉

重いも軽いも無いんだよ!


他の誰がどう思おうと、俺は真古都が他のヤツにキスされてるところなんて見たくもない!


自分の彼女が他の男とキスして平気なヤツの方がおかしいだろうが‼



「瀬戸先輩、可成り苛ついてますね」

笹森が先輩の様子を見て言った。


「まあな、確かにまだキスの相手が霧嶋と決まった訳じゃないが、可能性としては一番高いからな…」

「あ〜もうっ! 誰よ!こんな企画たてたの!」

床を踏み鳴らしながら怒ってる。


「どっちにしてもこればっかりは当日にならないと判らないからな…」

「そうだけど…」

笹森は悔しそうな顔をしている。

コイツは本当に部長が好きなんだな。


「ところで、お前は誰の名前を用紙に書いたんだ?」

僕は気になって訊いてみた。


「部長と瀬戸先輩…」

それを訊いた途端僕は固まった…

「えっ?お前も⁉」


まさかとは思ったが、他の部員にも訊いてみると霧嶋推しの女子以外みんな二人に入れている。

「全部で18票か…」

これ以上の票数を取られなければ壇上でのキスは先輩と部長で決まりだ!


「やったね!」

笹森が僕に飛びついて喜んでる。

「おいおい、まだ二人に決まった訳じゃないぞ」

「判ってるけどなんだか嬉しいじゃん!部活のみんなも部長を応援してるんだよ!」


尤も、コミュ障の部長が壇上に上がるかどうかは気になるところだけど…

それでも何とか希望が出てきた!



「真古都、今日はお茶でも飲んでから帰るか?」

俺は、ここ数日の苛ついた気持を落ち着きたくて彼女を誘った。


「うん!」

喜んでる顔が俺も嬉しい。


そう云えば、今回のイベント…

真古都は何も言わないな…

彼女のクラスにもイベント係のヤツが行ったと思うんだが…


5票だから自分には関係ないと思ってるんだろうか…


俺とお前なら誰も入れないだろうが、霧嶋が絡むなら話は別だ…

霧嶋が誰とキスしようが構わないが、その相手がお前なんて絶対嫌だ!


真古都は相変わらず幸せそうな顔で、紅茶を飲みながらホットケーキを食べている。

そんな顔…他のヤツには見せたくない…


高校最後の文化祭だ…

真古都といい思い出を作りたい…






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