第70話 想いを込めたプレゼント

 霧嶋がバイトにでる土日は、女性客で結構な賑わいだった。

《王子様の花屋》と云う噂があっという間に広がったからだ。


「霧嶋くん凄い人気ですね」

バイトの女の子がわたしに話しかけてくる。

「いっつも素敵な格好で来るから、本当に王子様みたいだよね」

わたしも答える。

本当に、霧嶋くんはおとぎ話に出てくる様な王子様そのまんまだ。

しかも花言葉にも詳しいみたいで、会話の中に巧みに混ぜて女性客を喜ばせてる…

わたしたちは唯唯、その見事なあしらいに溜息混じりで見ているだけだった。


「それより、クリスマスプレゼントは何にしたんですか?」

そう、来週はクリスマスだ…

「うん…わたしが育てたポインセチアの鉢を贈ろうと思って…」

わたしは答えた。

「二人とも同じものですか?」

彼女が少し驚いたように聞き返してきた。

「そうだけど…変かな?」

わたしは急に不安な気持ちがして訊いてみた。


「おかしくはないですけど、翔吾くんは彼氏なんですから他にも何か用意してるんですよね?」

ドライバーのハルさんが瀬戸くんを“翔吾”と、名前呼びしてるので、お店のみんなもそれが定着してしまった。


「えっ?二人とも同じ方が良いかと思って…」

その言葉に彼女は酷く残念な顔でわたしを見た。


「あ…何か…考えます…」

「そうですね。二人ともキープしたいと思ってるなら別ですけど」

彼女の言葉にわたしはびっくりした。

「キ…キープなんて…思ってないよ!」

わたしは慌てて否定した。


「だったら彼氏には特別感出さないと…

真古都さんだって他の女の子より特別に扱ってもらいたいでしょう?」

「えーっ!わたしが特別なんて烏滸がましいよ」

彼女は否定するわたしを、益々残念な顔で見る。


「真古都さん、彼女ってだけで十分特別なんですから、もっと欲張っても良いと思いますよ

そんな遠慮してたら、他の子に取られちゃっても知りませんから…」

わたしはドキッと躰が固まった。

「そ…そうなの…?」

今まで考えてもみなかった事だ…


「霧嶋くんが凄すぎるから目立ちませんけど、翔吾くん配達先のお客さんに、結構人気高いんですからね…」

知らなかった…



瀬戸くんのクリスマスプレゼントか…

何をあげたら良いんだろう……


クリスマスまで残り一週間なのに

ここにきてまさかプレゼントに悩むなんて…


瀬戸くん

ずっと外回りだから少し日に焼けたかも…

体格が良いから…何だかカッコいいな…


だけど、わたし本当の彼女じゃないし…

あんまり負担に思われないものがいいな…



クリスマスの日

わたしは霧嶋くんに用意しておいた、赤と緑のリボンで飾ったポインセチアの鉢を贈った。


「霧嶋くんにわたしからの祝福だよ」

霧嶋くんは、一瞬淋しげな顔をしたけど、直ぐにいつもの笑顔でわたしを抱き締めた。


「ありがとう真古都さん…大好き」



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